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レティシア書房店長日誌

稲垣栄洋「生き物の死にざま」

 う〜ん、凄まじい本を読んだ。
「あろうことか、子どもたちは自分の母親の体を食べ始める。
そして、子どもたちに襲われた母親は逃げるそぶりも見せない。むしろ子どもたちを慈しむかのように、腹のやわらかい部分を差し出すのだ。母親が意図して腹を差し出すのかどうかはわからない。しかし、ハサミムシにはよく観察される行動である。 何ということだろう。ハサミムシの母親は、卵からかえった我が子のために、自らの体を差し出すのである。」
 これ、石の下などにいる、尾の先にハサミのような鋭利な部分を付けたハサミムシの子育ての一部始終です。もちろん子どもに体を食べられた母親は死んでいきます。

 本書(古書1050円)は、日常あまり気にしていない昆虫、例えばカゲロウ、アカイエカ、カマキリ、アリ、ワタアブラムシ等、海に棲む生き物のサケ、チョウチンアンコウ、タコ、マンボウ、クラゲ等の生活、特に死に様を教えてくれます。
 「彼女に与えれたミッションはこうだ。 何重にも張り巡らされた防御網を突破して、敵の隠れ家の奥深くに侵入する。そして、敵に気づかれないように、巨大な敵の体内の目標物を奪う。もちろん、それで終わりではない。そこからさらに防御網をかいくぐって見事に脱出し、無事に帰還しなければならないのだ。」まるで、ハリウッド映画のスーパーヒロインみたいですが、彼女とは、夏に出てくるアカイエカなのです。蚊は、いや蚊のメスは、卵の栄養分としてタンパク質を必要とします。普段の食料である花の蜜や植物の汁では十分な量を摂取できないので、動物や人間の血を吸うのです
 「憎たらしい吸血鬼も、その正体は、我が子のために命を賭ける一途な母親の姿だったのである。」ちなみに血を吸うのはメスの蚊だけです。
 笑ったのは、チョウチンアンコウのオスです。「チョウチンアンコウのオスは、メスの体に噛みついてくっつき、吸血鬼のようにメスの体から血液を吸収して、栄養分をもらって暮らすのである。」”オスのひも生活”は徹底していて、メスに体にくっついているので泳ぐ必要がないので、ひれは消滅。餌を見つける眼も無くなり、メスの血液を自分の体内に流し込むようになれば、内臓も退化。子孫を残す精巣だけ発達する。「価値あるものは、精巣だけというありさまだ。まさに、精子を作るためだけの道具と成り果ててしまうのである。チョウチンアンコウのオスは、受精のための精子を放出してしまえば、もう用無しになる。もはやひれもなく、眼もなく、内臓もない体である。」
 そして、彼らのほとんどすべて、産卵のあと一様に死ぬようにプログラムされているという事実です。未来を生きるライフプランを設計することは出来ません。今を生き、死んでゆくのです。彼らだけでなく、野生を生きる動物たちも、そうだと思います。明日になれば食い殺されているかもしれない.......。「今を生きる」ということを最もよく実践しているのは、ここに登場する小さな生き物たちかもしれません。
 著者の平易な文章は、スラスラと読めます。え!この生き物がそんな生き方を!?と思ったら、詳しく調べて、観察してみてはいかがでしょうか。それが自然と付き合う扉を開くことになるかもしれません。


●レティシア書房ギャラリー案内
2/28(水)〜3/10(日) 水口日和個展(植物画)
3/13(水)〜3/24(日)北岡広子銅版画展
3/27(水)~4/7(日)tataguti作品展「手描友禅と微生物」



⭐️入荷ご案内
モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
平川克美「ひとが詩人になるとき」(2090円)
石川美子「山と言葉のあいだ」(2860円)
最相葉月「母の最終講義」
青木新兵&海青子「山學ノオトvol4」(2200円)
蟹の親子「脳のお休み」(1980円)
古賀及子「おくれ毛で風を切れ」(1980円)
文雲てん「Lamplight poem」(1800円)
「雑居雑感vol1~3」(各1000円)
「NEKKO issue3働く」(1200円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
「コトノネvol49/職場はもっと自由になれる」(1100円)
「410視点の見本帳」創刊号(2500円)
「古本屋台2」(サイン入り/1650円)
RITA MAGAZINE「テクノロジーに利他はあるのか?」(2640円)

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