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レティシア書房店長日誌

クリストファー・ノーラン監督「フォロウィング」
 
 映画「オッペンハイマー」が話題のノーラン監督の処女作「フォロウィング」(1998年)が、オリジナル版16ミリをデジタル技術で監督自らが監修して、鮮明な画像で蘇りました。
 ノーラン監督の作る映画は、観客に対して基本的に不親切です。特に映画に流れる時間が、未来から過去に来たり、過去と未来が同時に存在したりして、説明もありません。だから、画面に食いいるように観てしまうのです。


 この第1作も、やはりそうなのです。物語はシンプルです。作家志望の貧乏な若者ビルは、創作のヒントを得るために、路上で通りすがりの人の後をつける行為を繰り返していました。が、ある日、それを見破られてしまいます。尾行していた男コップは、他人の住居に侵入し、その人の私生活を覗き見する行為を繰り返していましたが、ビルは、徐々にコップに感化されてゆきます。二人で侵入したアパートで、そこに住んでいるだろう女性の写真にビルは惹かれてしまいます。
 映画は二人の行為を見つめながら、髪の毛をバッサリ切って、スーツを着たビルの行動を描くシーンがヒョイと挿入されます。え?これ誰?ビルなの???貧乏なはずのビルが、なぜこんなスーツ姿で???と思っても、映画は立ち止まらずに進行していきます。疑問はラストで一気に明らかにされるのです。そこに張り巡らされた犯罪の全貌。「この映画に仕掛けられたトリックは100%見破れない」という宣伝文句がHPにありますが、そりゃそうだよな、騙されるよな!お見事!としか言いようのないエンディング。
 普通なら、ビルの現在から描き出して、少し先の未来に待っている悲劇を順々に提示してゆくのですが、この監督はそういう方法を取りません。時間軸を一旦バラバラにして、多面的に登場人物を描き、観客をそこに巻き込み、なんだ、なんだと思わせながらエンディングへと突き進んでいきます。でも、独りよがりではなく、観終わった後、面白かった、もう一回観たいと思わせる力を持っているのです。
 監督、カメラ、脚本までひとりでやり、実験的なフィルムカットも多用したりして、若き日に撮った映画ですでにその才能が表れていることを知りました。


●レティシア書房ギャラリー案内
4/10(水)〜4/21(日) 絵ことば 「やまもみどりか」展
4/24(水)〜5/5(日)松本紀子写真展
5/8(水)〜5/19(日)ふくら恵展「余計なことかも知れませんが....」

⭐️入荷ご案内モノ・ホーミー「貝がら千話7」(2100円)
野津恵子「忠吉語録」(1980円)
ジョンとポール「いいなアメリカ」(1430円)
坂巻弓華「寓話集」(2420円)
福島聡「明日、ぼくは店の棚からヘイト本を外せるだろうか」(3300円)
きくちゆみこ「だめをだいじょうぶにしてゆく日々だよ」(2090円)
北田博充編「本屋のミライとカタチ」(1870円)
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
平田提「武庫之荘で暮らす」(1000円)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)
「うみかじ7号」(フリーマガジン)
早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
益田ミリ「今日の人生3」(1760円)

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