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田舎で~本屋営業日記R5.10.5

「うわぁぁ、ここベーゴマ売ってる!」と店内で一人の少年が歓喜した。
レジに持って来て、「200円安っ、2つ下さい」と言った。

今どき、ベーゴマでこんなに喜ぶ子どもを見たことが無いし、正直に言うとベーゴマが売れたのは1年ぶりだった・・・。

ちょっとだけ高久書店の読書部屋には、昭和懐かしい玩具や駄菓子を置いている。
駄菓子はさておき、なぜ、静岡県で最も小スペースの書店に昭和玩具を置いているかというと、それはたぶん私の記憶の中にある「町の本屋の原風景」がそうだったからに他ならない。
小さな頃、祖母に連れられて行った町の本屋には、本や雑誌・文具とともに昭和玩具が売られていて、祖母に強請ってはよく買って貰った光景がよみがえる。
今どき、昭和玩具が売れるのか?と聞かれれば、「えっ・・・」と言葉に詰まってしまうのだが、それでも当店のエッセンスとして本屋でいる間は置いておきたいと思っている。

伊豆南部(賀茂郡下)で育った私が小学生だった昭和50年代、まだメンコやビー玉、独楽などで遊ぶ風習が子どもたちには残っていて、放課後ともなれば駄菓子屋の前で、或いは方々の道端でやったものである。なめネコやビックリマンも流行った。飲料メーカーが流行らせたヨーヨーも懐かしい、日本各地に全米チャンピオンを名乗る怪しげな外国人が販促に廻ってきて、技を見に行ったこともある・・・。

「ベーゴマ好きなの?まわし方、オジサンが教えようか?」と聞くと、

「僕は川口市から来ました。小学校で配られて、まわせるから大丈夫です。ベーゴマ売ってるお店を初めて見つけたので嬉しかったんです」と・・・。

少年が帰った後、どういうことなのか気になって調べてみると、埼玉県の川口市は、現在日本で唯一ベーゴマを製造している鋳物メーカーがある町だった。昭和50年代以降、ベーゴマを作る企業は減少を続け、とうとう川口市の日三鋳造所だけになってしまったのだと記されていた。98年に工場閉鎖以降も、全国のベーゴマファンのために辻井さんという老人が中心となって「ベーゴマ文化」を守っているとあった。

川口市の少年の言葉に合点がいった。

小学生の頃、メンコもベーゴマもけっこう先生に没収された。大人になって、同世代にベーゴマを回せる人がいないことに驚いたが、地域的に昭和の遊びが残っていた所で育ち、そんな玩具で遊んだ最後の世代だったのかもしれない。

栄枯盛衰は世の常なれど、私のいる本屋業界のことも重なって見えて、ひとりベーゴマを握りしめた。悲観ではなく、希望をもって・・・。

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