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マルクス/エンゲルス 共産党宣言

著者 マルクス/エンゲルス
訳 大内兵衛・向坂逸郎
出版 岩波文庫 1951/12/10 第1刷発行 2018/10/15 第102刷発行

注意

本投稿を引用される方は、マルクスの言わんとする本質を捉えて引用してください。
安易に、マルクス・レーニン的あるいはスターリニズムを連想させるような引用の仕方はしないでください。

19世紀の階級闘争

今日までのあらゆる社会の歴史は、階級闘争の歴史である。
『共産党宣言』マルクス/エンゲルス 岩波文庫 p40

この有名な文章で始まる本書は1848年にカール・マルクスとフリードリヒ・エンゲルスによって書かれた。

国際的な労働者の結合である「共産主義者同盟」は、当時の事情のもとではいうまでもなく秘密結合でしかありえなかったが、1847年11月ロンドンでひらかれた大会で、下記著名人らに、公表の目的で、理論的で実践的な、くわしい党網領を作成することを委任した。
『共産党宣言』マルクス/エンゲルス 岩波文庫 p7

とある通り、共産党の成り立ちは、もともとは、労働者らの立場に立って、ブルジョア階級との階級格差による様々な問題を打破することが目的であった。

近代国家権力は、単に、全ブルジョア階級の共通の事務をつかさどる委員会にすぎない。
『共産党宣言』マルクス/エンゲルス 岩波文庫 p44

これは、今の現代社会でもそうであろう。あからさまな分かりやすい階級というのは消失しつつあるが、それとは変わり、市民と権力、もっと広義的にいうと、ユーザーとビッグデータを扱う企業、最新の利用できて「当たり前」とされるテクノロジーと、それを使えない人たちなど、とにかく複雑に不平等/格差は多岐に渡り、拡がっている。

ブルジョア階級は、生産用具を、したがって生産関係を、したがって前社会関係を絶えず革命していなくては生存しえない。これに反して、古い生産様式を変化させずに保持することが、それ以前のすべての産業階級の第一の生存条件であった。生産のたえまない変革、あらゆる社会状態のやむことのない同様、永遠の不安定と運動は、以前のあらゆる時代とちがうブルジョア時代の特色である。
『共産党宣言』マルクス/エンゲルス 岩波文庫 p46
自分の生産物の販路をつねにますます拡大しようという欲望にかりたてられて、ブルジョア階級は全地球をかけまわる。どんなところにも、かれらは巣を作り、どんなところをも開拓し、どんなところとも関係を結ばねばならない。
ブルジョア階級は世界市場の搾取を通して、あらゆる国々の生産と消費とを世界主義的なものに作りあげた。
『共産党宣言』マルクス/エンゲルス 岩波文庫 p47

ブルジョア階級による産業という名を振りかざして、土着の民族的な文化などの土台を切り崩していったとも批判する。

国内で消費されるばかりでなく、遠く離れたブルジョア階級らの欲望を満たすために、遠くの気候や土地が必要とされ、めちゃくちゃにされていく。その結果が現代の大きな問題、気候変動問題へと繋がってもいる。

1848年のフランス革命

本書が書かれた年、二月革命と日本では呼ばれる1848年のフランス革命が起こっている。この革命では王制を打倒したが、その混乱から第二帝政を登場させ、共和政は後退し、産業資本家と労働者階級の階級的対立を軸とする社会対立の時代となった。残念ながら、「革命」の名のもとに行きつくところ昔も近代も利権争いでしかないように見えてくる。

フローベールによって、二月革命を題材にした小説『感情教育』では当時の社会を痛烈に批判している。

農業の保護をよりよくし、あらゆることを自由競争や無秩序にまかしておかず、あのlaissez faire,laissez passer(なすにまかせよ=レッセフェール)の悲しむべき格言にまかしておかなかったら、あんなこと(1846-1847年、ビュザンセ地方で飢饉のため農民と官憲が衝突した)は一切起こらずにすんだのだ。だからこそ、もう一つの封建制度より悪質な金銭の封建制度が出来上がった。
『感情教育』フローベール

プロレタリアと共産主義者にて、マルクスは、

私有財産の廃止とともに、すべての活動がやみ、一般的惰性がはびこるであろう、という異論がある。
この考えにしたがえば、ブルジョア社会は、怠惰のためにとうの昔に破滅していたにちがいない。なぜなら、この社会では、働くものは設けない、儲けるものは働かない、からである。こういう疑念はすべて、資本がなくなれば賃金労働もまたなくなる、という自明のことを他の言葉でいい直しただけである。
『共産党宣言』マルクス/エンゲルス 岩波文庫 p68

と鋭い。現代はもっと厄介である。AIによって、資本があろうとも賃金労働が必要ない。近い将来、賃金労働は人ではなく、アルゴリズムへと支払われるのかもしれない。

また、

階級と階級対立とをもつ旧ブルジョア社会の代わりに、ひとつの協力体があらわれる。
『共産党宣言』マルクス/エンゲルス 岩波文庫 p76

としつつも、

ひとりひとりの自由な発展が、すべての人々の自由な発展にとっての条件である。
『共産党宣言』マルクス/エンゲルス 岩波文庫 p76

と言っており、マルクスの共産党宣言は、のちに台頭する共産圏の圧政とはかなり違う。

マルクスの種々の反対党に対する共産主義者の立場

彼の文をそのまま引用する。

 最後に、共産主義者はどこにおいても、すべての国の民主主義諸政党の結合と協調に努力する。
 共産主義者は、自分の見解や意図を秘密にすることを軽蔑する。共産主義者は、これまでのいっさいの社会秩序を協力的に転覆することによってのみ自己の目的が達成されることを公然と宣言する。支配階級よ、共産主義革命のまえにおののくがいい。プロレタリアは、革命においてくさりのほか失うべきものをもたない。かれらが獲得するものは世界である。
万国のプロレタリア団結せよ!
『共産党宣言』マルクス/エンゲルス 岩波文庫 p97-98

※素直な感想を言うと、宇宙船の艦長を彷彿させるくらいに中二病的な締めくくりだが、俺は中二病なので、少しニヤニヤしながら「かっこいい」と思ってしまった。

おわりに 人間の欲望と現代の目に見えない格差

1848年にマルクスによって書かれた本書は、政治/経済的な思想、主義に依らず、現代にも通じる普遍的なものが訴えられている。人間とは欲望の塊だ。その欲望を考慮した消費的資本主義が現代の「民主主義」であり、マルクスらの時代よりももっと経済/教育など全ての人間の社会活動において、格差の闇が深い。

マルキストではないが、読んで良かったと思える歴史的な名著。マルクスとエンゲルスの現代にまでつながる洞察力には驚かされる。たった30ページ弱であり、内容も使われている言葉もシンプルで分かりやすい。本書は共産主義/民主主義といったことによらず、読んでみる価値は大きいといえる。特に学生などに、尻込みせずに手に取って読んでみて欲しい。


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