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ヨーグルト事件

これはある夏の夜の実話である。

コンビニにヨーグルトを買いに行った。
その帰り道で小学生くらいの女の子がずっとうずくまっていた。
しかも街灯の少ない車道のド真ん中で。

「どうしたの?大丈夫?」

返答もなく、ただただうずくまっていて顔は見えない。
車でも来たら轢かれてしまう。

手をだらんとしていたので、立てる?と聞きながら手を握ってなんとか立たせようとした。

灯りのない中、小さな子がひとりでこんな時間になんで?と思いながら。

よく見るとハンドバッグらしきものとスカーフっぽいものを抱えてもいる。

腕にもかすり傷のようなものも遠くでぼんやり光る街灯に照らされた。

髪も少し茶髪だ。

小学生なんだろうか?でも小柄で華奢な体型は暗闇にうずくまる子どもに見えた。

怒られて家でも飛び出して転んだのかなと思い、抱き起こしてあげようとした。

それでも立ち上がろうとしない。

「おうち、ここの近く?立てそうにない?」

一本先の大きな通りには交番がある。
僕はそこへ連れて行こうと思い、さらに抱きかかえるようにして起こす。

それでもまだ顔はうつむいたままだった。
身長は僕の胸元より低く、僕はかがんで、

「とりあえず、頑張って歩ける?交番まですぐだから」

と声をかけた。この子の体重ならおんぶしてあげた方が楽かも知れない。
そう思い、

「おんぶしてあげるから背中のれる?」

と、言うと、首を横に振り、手を握りかえしてきた。

「なら、おてて繋いで交番までいこうね。大丈夫?」

と、しゃがみ込んで、顔色を確認しようとした。

すると、すぐに酒の匂いがした。暗がりだが、それでも相当泥酔しているように思えた。

勘違いされたらまずいと思い、

「あ、すみません。子どもなのかなと、勘違いしてしまいました」

と言って、手を少し離し支えてあげると、彼女は顔をこちらに向けた。

「眠い」

年齢不詳のやつれた感じのその女性は、僕の母親より歳上に見えた。

結構、ホラーだった。

内心、ええええええ?!?!と驚きながらも

「あー、眠いっすよね!どこかで飲まれてきたんすか?」

と訊ねると、

「眠い、歩きたくない、おんぶで」

とニタニタしながら酔っ払って絡んでくる始末。

これで可愛い子だったら嬉々としておんぶしてあげてたかも知れない。

なんで知らん酔っ払ってるおばちゃんおんぶせなあかんのよ!と思い、

「家、この辺なんすか?」

と聞くと、スクっと立ち上がって、走り去っていった。

玄関のドアの前で僕はヨーグルトを持っていないことに気づいた。

引き返すとすでに、道路にはヨーグルトはなかった。

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