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とるにたらないこと2021/10/28

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 夕方5時過ぎに帰宅できた。作業場の前にハイエースを止めて、平家の我が家へと向かう。灯りがついていなかった。きっと母屋の方に妻のシモーヌ仮称は娘のリサ仮称を連れて飯でも食っているんだろうと思った。とりあえず、我が家の玄関ドアを開けて中に入る。案の定、ふたりともいない。シャワーを浴び終えてもまだ家の中は静まり返っていた。それで俺は母屋の方に行く。シモーヌちゃんたち来とる?と、聞くと、居ない、と、フィリピンママがそっけなく返した。6時過ぎになっても居ない。由々しき事態。
それで俺は色んなところにシモーヌが来ていないか?と、電話しまくりはじめた。皆口を揃えて、来ていない、と、言う。それで俺はダウンジャケットを羽織って歩いて七里ガ浜海岸から稲村ヶ崎海岸までを探した。なんとなく海岸に行けばぼんやり海を眺めるシモーヌが居るような気がしたからだった。けれどもどこにも居ない。俺は七里ガ浜に戻り、西友を探した。居ない。中二病の俺は、もしかして、離れた公園に行って、レイプでもされて殺されたんじゃないか?とか思い始めて、公園を探すことにした。居ない。時刻は夜7時半を過ぎ、辺りは暗く、俺はまた来た道を引き返す。その間ずっと、結婚前の一昨年のゴールデンウィークのこと、そのせいでシモーヌを追い詰めてしまって、俺は一生サンドバッグになってでも重い十字架を背負って、シモーヌとドーバー海峡を泳いで渡る間じゅう、手を握っていようと思ったことだとか、2回目の妊娠で神さまがリサを授けてくれたことだとか、先月の流産のことだとか、色んなことを考えた。その間俺は仕事してるか、本の世界に入り込んで、シモーヌを蔑ろにしてなかったかだとか。でも本を読む時は一応、読み聞かせていたり、要約してきかせてあげたけれど、それも自己満足でしかない。第一シモーヌが読んでくれ、と言っている本はミラン・クンデラとかじゃなくて、指輪物語シリーズとハリーポッターシリーズだ。糞ほど長い上に、重たい本を延々と持ちながら寝そべって読むのは、『クララとお日さま』とか『騎士団長殺し』で懲りている。毎回6時間前後ぶっ通しで読まされて声が枯れた。なるべく、指輪物語とハリポタをシモーヌが思い出さないように、その二つのシリーズは本棚から段ボールへと移動させた。公園から海から彷徨いながらTwitterを開くと、今週末にある選挙のことや、本の世界の話が飛び込んできた。全部どうでもいい他人のことのように思えた。正直言って、愛するシモーヌがレイプされて死んでいるかもしれないという、あってはならない可能性の妄想が止まらなくなりはじめた俺には全く響かなかった。(しかし、シモーヌ大佐がそんな状況に追い込まれるのはあまり現実的ではない。)それか、あまり思いたくないが、本ばかりに夢中になっている俺に愛想を尽かして、リサを連れて家出したか。リサのことは俺が家にいる間は極力手伝っていたと思う。夜中の夜泣きはほぼ俺が対応していた。金はそんなにないけれど、困らない程度に毎月生活費も渡している。前日、マイハニー・リサ少尉が高速ハイハイでおもちゃに向かって行ったとき、ハニー!と呼んだら俺に振り返ってくれたことを思い出した。俺の分身であり、シモーヌの分身でもあるマイハニー・リサ少尉は、最近ずっとバナナとキャッキャしている。第一声はママかパパで、どちらかといえば、むしろ願望でもあるのだが、パパと言って欲しい。けれど、どう聞いてもリサはバナナと言っているように思えてならない。いや多分言っている。そのマイハニー・リサ少尉も居ない。朝方、俺がシモーヌに、リサ起きちゃうし、時間がないからとにかく仲良くさせて欲しい、だとか訳のわからないことを言って、性欲を解消したことを後悔しながら、家に戻った。灯りをつけて、知り合いという知り合いに再度電話して、最後、警察署に捜索願いを出そうとしていた。110番じゃなくて近所の派出所に直で電話したかった。

 お向かいの村田仮称さんの家の方から女の声が聞こえてきた。けんちゃん、how are you?。けんちゃんは村田さんが飼っている雑種の7ヶ月の犬だ。その音の波形はシモーヌ大佐のものとほぼ一致した。俺はビーチサンダルをひっかけて、外に走り出て、シモーヌちゃん!遅いやん!何しとったん?!と言いながら、シモーヌ大佐を抱きしめた。けんちゃんは、飛び出してきた俺を不審に思いつつも、呆れた顔で、寝そべった。けんちゃんと俺は仲が良いのだ。この前、親友の契りを交わした。稲村ヶ崎温泉に行くからねってLINEしたよ?と笑いながらシモーヌが言った。ベビーカーの中でリサは眠りこけていた。俺は安堵で疲れ果てて、そのまま夕飯も食わず寝てしまい、今さっき起きた。隣では大の字でシモーヌが寝息を立てている。シモーヌのおっぱいを触りながらアホみたいな日記を書くありふれた深夜。

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