土曜の朝、須賀敦子全集第三巻を読み終える
早朝、まだ陽が登らない時刻、冬の蘇州の小さなホテルの一角にあるコインランドリーの並ぶ部屋──乾燥を待つ間、僕は須賀敦子全集第三巻を読み終えた。
他の宿泊者がやって来て、お互い寝ぼけ眼で軽く会釈した。霧が窓を薄い水のベールのように覆っている。ガラスに映る僕と見知らぬ人。窓の中の僕らは水滴で表情も視線も曖昧だ。
向こう側の僕らは冬の運河の旅仲間のように思えた。
外を眺め、眼を閉じると、ドラムの回る音だけが響く。
冬の運河沿いの木々が僅かに見える。
僕はどうしてだか白い薔薇の花