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パリは燃えているか

本日はちょっと脱線して、映像作品の思い出を。
昨日の記事で竹の宮さんにいただいたコメントへのお返事に書いた、忘れられないし忘れてはいけないと思っている作品です。
こちら。

"映像は20世紀をいかに記録してきたのか・・・激動の20世紀を貴重な記録映像でたどる。
NHK放送70周年(1995年)記念番組「NHKスペシャル 映像の世紀」を最新のデジタルリマスタリング技術で、画質・音質も新たに復活!

★NHK・アメリカABC国際共同取材

★世界中に保存されている貴重な映像記録を発掘、収集、そして再構成した画期的なドキュメンタリーのシリーズ

【番組概要】
20世紀は人類が初めて歴史を「動く映像」として見ることができた最初の世紀です。映像は20世紀をいかに記録してきたのか。
世界中に保存されている映像記録を発掘、収集、そして再構成した画期的なドキュメンタリーのシリーズ。
活字とはひと味違った映像ならではの迫力と臨場感あふれる映像で20世紀の人類社会を鮮やかに浮き彫りにします。

<内容>
・第1集 20世紀の幕開け~カメラは歴史の断片をとらえ始めた~
・第2集 大量殺戮の完成~塹壕の兵士たちはすさまじい兵器の出現を見た~
・第3集 それはマンハッタンから始まった~噴き出した大衆社会の欲望が時代を動かした~
・第4集 ヒトラーの野望~人々は民族の復興を掲げたナチス・ドイツに未来を託した~
・第5集 世界は地獄を見た~無差別爆撃、ホロコースト、そして 原爆~
・第6集 独立の旗の下に~祖国統一に向けて、アジアは苦難の道を歩んだ~
・第7集 勝者の世界分割~東西の冷戦はヤルタ会談から始まった~
・第8集 恐怖の中の平和~東西の首脳は最終兵器・核を背負って対峙した~
・第9集 ベトナムの衝撃~アメリカ社会が揺らぎ始めた~
・第10集 民族の悲劇果てしなく~絶え間ない戦火、さまよう民の慟哭があった~
・第11集 JAPAN~世界が見た明治・大正・昭和~
Amazon商品ページより 一部省略

高校生の時に放送されていて、最初は見ていなかったんですが、世界史の先生のおすすめで途中から見始めて、年末かな?の一挙再放送の時にコンプリートしたNHKスペシャルのシリーズです。
テーマ曲の『パリは燃えているか』も好きで、これ聴くとちょっとうるっときます。あのそれぞれの時代を象徴するキーワードと映像が次々に出てくるオープニングを思い出しちゃうんですよね。

2015年に『新・映像の世紀』が放送され、今も『映像の世紀 バタフライエフェクト』が放送されているので、ご存知の方も多いと思います。
ですが、私としてはこの最初のシリーズがベストです。やはり最初に見たものが1番印象が強いというのもあるでしょうが、同じスタッフの方が制作しているのに微妙にカラーが違うというか。ABCとの共同制作ということもあり、二つの大戦や冷戦、ベトナム戦争などはやはり連合国、米国視点が強いかもしれませんが、かなりドライというか冷静な描き口で淡々としたトーンがかえって映像の重みを突きつけてくるような感じがするんです。山田孝之さんのナレーションも良いんですが、やはりアナウンサー・山根基世さんの感情を排した抑制的なナレーションと、それにトーンを合わせた回想録や証言の朗読がすごく良かった。こういう番組のナレーションや朗読って、その読まれるトーンで見る側の印象を大きく左右するところがあると思うのですが、淡々としたトーンにすることで、これらの映像記録の受け取り方を見るものに任せるようになっていると感じました。
そうしたこともあって、この最初のシリーズが今でも1番好きです。

内容としては学校では駆け足になってしまう現代史がカバーできるものになっています。やはり戦争に関するものが多くはなっていますが、文化、芸術についても触れられている部分もあり、モダニズムを知る入り口としてもいいかもしれないですね。
ただやはり不穏な時代を描いた回の印象が強いです。それまでの戦争とは違う戦争となった第一次世界大戦。この戦争を評したチャーチルの言葉が印象深い。

戦争から、きらめきと魔術的な美がついに奪い盗られてしまった。
アレクサンダーやシーザーやナポレオンが、兵士たちと危険を分かち合いながら、
馬で戦場を駆け巡り、帝国の運命を決する。
そんなことはもうなくなった。
これからの英雄は、安全で静かで、物憂い事務室にいて書記官たちに取り囲まれて座る。
一方、何千という兵士たちが、電話一本で機械の力によって殺され息の根を止められる。
これから先に起こる戦争は、女性や子供や一般市民全体を殺す事になるだろう。
やがて、それぞれの国々は大規模で、限界のない、一度発動されたら制御不可能となるような
破壊の為のシステムを産み出すことになる。
人類は、初めて自分たちを絶滅させることが出来る道具を手に入れた。
これこそが、人類の栄光と苦労の全てが最後に到達した運命である。
ウィンストン・チャーチル 世界の危機

この言葉は第二次大戦で現実のものとなります。
こうした著名人の言葉以外に名もない兵士たちの証言や市井の人々の証言も多く取り入れられていて、現代の私たちの感覚で後付けされたコメントは一切排されているからこそ、その時代を感じることができて、その事柄そのものを考えることができる構成になっていたと思います。
塹壕の兵士たち、初めて使われた化学兵器、戦闘機が誕生し、大空からロマンが奪われる。
さらに第二次大戦に至り、ナチスによるホロコースト、都市部への爆撃、そして原爆の投下。
淡々と、抑制的に語られる20世紀の悲劇。何の煽りも入れられていない、ただその“現実”をこちらに突きつけてくるこの映像の強さ。ただただ圧倒されたことを覚えています。
民族運動、公民権運動。そのリーダーたちの言葉の強さ、その姿の清冽さ。核開発競争の狂乱、冷戦下の平和の危うさ。
戦争の悲惨さを目の当たりにし、ガンジーやキング牧師の言葉に心を打たれ、核に恐怖し、ベトナムの泥沼に大国のエゴを思い、民族紛争の現実を知り、終わらない争いに打ちのめされる。
頭で“知っていた”ことを心に“感じさせる”番組だったと思います。知識としてはあっても、それは言ってしまえば教科書の中のことでした。
ソ連の崩壊、ベルリンの壁の崩壊、東西ドイツの統一、冷戦の終焉。東欧の混乱、ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争、クロアチア紛争、ユーゴスラビア紛争。湾岸戦争。
全て、リアルタイムだったのに、何もかも遠い国のことで、新聞や教科書の中から出てきたことはなかったように思います。
知っておくべきことだとは思っていましたし、知識としてはありました。けれどそのことを胸に迫るようにして感じたことはありませんでした。
私にとって“歴史”であり、“知識”であったものを、この番組で映し出された映像が、この世界の“現実”として突きつけてきたように思います。
毎回毎回、引き込まれて知らず知らずのうちに涙するような番組はこの番組ぐらいだったかもしれません。
映画や制作者の意図が明確に入れられているドキュメンタリー作品などとは違う迫力があります。これらの映像は“記録”として見る側に差し出されているのですが、“記録”であるからこそのこちらへの問いかけがそこにあるように思えるのです。
結論は提示されない。
ただ、「20世紀とはどういう時代であったか」、を映像の力で知らしめてくれるのです。
ショッキングな映像も多いので、小学生には早いと思いますが、中学生や高校生には見てほしいですね。自分でその事柄を考えるという余白があるので、歴史として知ること以上の体験ができるんじゃないかなと思います。
この番組のおかげで、これ以降に触れた戦争映画や冷戦下の時代を描いた映画、またそうした文学作品の捉え方は幾分深くなったように思います。
この番組を教えてくれた先生には本当に感謝ですね。大人になってから出会うのと高校生の頃に出会うのとでは全然違うと思うので。感受性が強い頃に見ることができて本当に良かったと思います。
本の思い出ではありませんが、私にとってはとても大きな視聴体験だったので取り上げて見ました!

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