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心強い相棒 日本語大辞典  講談社

さて。本日の子供の頃の読書の思い出の記事もいつもと毛色の違うものをご紹介したいと思います。
小学校の中学年頃から大人向けの一般文芸に手を出し始めた頃、我が家にやってきて以後、ずっと私の心強い相棒だった一冊。
それはこちら。

デカくて重たいのが難点ですが、わからない言葉や漢字を教えてくれたり、関連語や巻末付録から興味の幅を広げてくれたり、手紙の書き方や熨斗袋の書き方、果ては実用書類の形式まで教えてくれる、痒い所に手が届く頼りになる奴なんです。
しかもフルカラー!
有名な女優俳優なんかは大抵写真付き。母が時折口にする昔の美人女優や俳優なんかも、こんな人だよ〜と教えてくれる芸能にも明るい。
しかもチョイスがたまに渋いし。エリザベス・テーラー(テイラーじゃなくてテーラーで載ってます)を引くと、付いてる写真は『陽のあたる場所』。『ジャイアンツ』や『クレオパトラ』じゃないところがいいですね。
『あ』から順番に読んでも読み物として楽しいし、図解や写真が多いのも楽しいんです。
『あ』の段階からとばしてます。
写真で引用って大丈夫かな?
アールヌーボーを引いたらこんな感じ。

日本語大辞典 講談社 3P アールヌーボーの項より

アイスホッケーに至ってはこんなに親切な図解が!

日本語大辞典 講談社 7P  アイスホッケーの項より

図鑑のような辞典なんです。
話題になった新明解国語辞典のように用例の面白さなんかはそれほどでもないのですが、載っている言葉も多いし楽しいんです。

語数だけを見れば広辞苑の方が多いんですが、子供にとってはそっけない広辞苑さんより、フルカラーで親しみやすい感じを出してくれている日本語大辞典さんの方がとっつきやすい。
漢和辞典的にも使えるように編まれているので、本を読んでいてわからない漢字が出てきても巻頭に部首表、画数別の音訓一覧がありますから簡単に調べられますし、わからない言葉もすぐ調べられます。そのまま脱線して辞書を読んじゃうという罠もありますが(笑)

今改めて見てみると、このボリュームで7300円(税込)、講談社創業80周年記念特別定価は6800円(税込)とは!お買得!
出てすぐ買ってくれたように思うので、おそらく特別記念定価で我が家に来たんだと思います。

序文もいいですね。30年以上経った今読んでも古くなっていないです。長いですが引用したいと思います。

       序
 いま、世界の各国で日本語を勉強しようという人々は年々急速にふえてきて、その数は三百万をこえている。これが今世紀末にはアジア・太平洋地域だけでも一千万人に達するだろうという。これまで、この島国の仲間うちだけで通用することばとして、比較的無反省にすごしてきたわれわれの母国語に対して、あらためて、世界に開かれた言語として今後どうあるべきかを、深く考えてみなければならないときがきているようである。
 一方、日常の言語生活でも、たとえばワープロの普及によって、われわれの「かく」という行為にいちじるしい変化が生じつつある。「よむ」ことはできても、自身ペンをもって「かく」ことのできない漢字が、新しい世代の人々にはどんどんふえていく傾向にある。それで果たして本当にその漢字、あるいは語の意味をしっているといえるかが問題であるし、すくなくとも、あらかじめ用意された語句だけを使って文章を書く安易さになれた人々に、あたらしい表現の創造を期待することはむずかしいことになるだろう。すでに現在、はなはだセンスに欠けた新語や、必然性のないカタカナ語がむやみに氾濫しつつある。その中のどれが真に時代の要請に応じうる、必然性をもった新語・カタカナ語であるか、どれが単なる根無し草的流行語であるかを判断する能力を、われわれ一人一人がもたなければならなくなっている。
 現代の辞典は、単に日本語の現状を記録し解説するだけではなく、国際化のすすむなかでの日本語の将来を考え、また、高度に情報化された現代社会における情報処理の能率という点までもを考案するための、材料を提供するものでなくてはならない。しかし、同時に言語は歴史的なものである。現代の日本語も、過去の日本語なしにはありえない。日本語の現状は、日本語の過去をしることによって、より正確に、より豊かに理解しうるし、またそれが将来の日本語を考えるうえでの大きな手がかりともなるであろう。
 本辞典は現代語を中心にし、それも単にことばの解釈だけではなく、ことがらの解説をも含めて、いわゆる「事典」的な性格をも加味したものである。あわせて右(上※)のような意味から、ある程度の古語をもとりいれた。時代の先端を行く専門領域の用語の解説と、古典に用いられている文学用語の解釈とが、同じ一冊の辞典に共存するというのは、やや混雑した感じを与えるかもしれない。しかし、これはむしろ現代の日本社会の実情の反映でもあって、その要求に広く応じようとするからなのである。この種の辞典としては初めての、カラーによる図版や写真六千余点を挿入し、言葉による抽象的説明にとどめず、視覚による具体的な理解が得られるように努めたのも、こういう趣旨に基づいている。
 来るべき新世紀を目指して、時代の流れを見通しつつ、その要請にこたえる辞典づくりを
心がけた編者の意図をくみとっていただければ幸いである。
  平成元年六月 
監修 国立民族学博物館長 理学博士 梅棹忠夫
   前上智大学教授 文学博士 金田一春彦
   京都大学名誉教授 文学博士 阪倉篤義
   聖路加看護大学長 医学博士 日野原重明

※引用者註 実際は縦書きですので右となりますが、この引用では横書きになっていてわかりづらいので上と付けさせていただきました。
日本語大辞典 講談社より

今はネットもありますし、もうこんな贅沢な辞書は編まれないかもしれません。
でも信頼に足る編者によって編まれた辞書というのはネットとは全く違う価値があると思いますし、この重たくて分厚いものを持って自分の手で引く、というのはワンクリックで情報を引き出すのとはまた違うものがあると思うんですよね。
30年も前の辞典ですから、解釈の変わった言葉もあるでしょうし、歴史的な物事や科学関係も主となる学説が変わったり新たな発見があったりして対応しきれていないでしょうから、版を重ねている広辞苑にはかなわないと思います。
それでも私は今でも時々この辞典を手に取ります。だって楽しいから。
色の種類がこんなにもたくさんあることや、日本の伝統文様の美しさまで教えてくれたのはこの辞典です。
わからない言葉や漢字を教えてくれるだけでなく、父や母が好きだったという俳優や映画、祖父や祖母の思い出話に出てくる昔の生活用具、そんなものまで写真付きで教えてくれて、家族のコミュニケーションも膨らませてくれた辞典。
間違いなく子供の頃の私の頼もしい相棒だったんです。この辞典は。
他のもっとコンパクトな学校で使うような辞典ももちろん好きでしたが、楽しみのために開くということはやはりなくて、調べたいことがあるわけでもなくなんとなくページを繰って読み物のように読んだのはこの日本語大辞典だけでした。
そういうわけでこれも変わり種ではありますが、十分子供の頃の思い出の一冊に入れられる“本”だな、と思ってこの記事を書いてみました。

またこんな贅沢な辞典、出ないかなぁ。

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