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追悼 永井路子さん

昨日、フォローさせていただいている樹田 和さんの記事で訃報を知りました。

追悼 永井路子さん|樹田 和(いつきた なごむ) @utanukitune #note

私の大好きな時代小説作家、永井路子さん。歴史の奔流の中にあってなお美しく強くしなやかな女性を描かれた永井路子さんの小説の数々のおかげで、歴史小説が大好きになりました。
今日はそんな永井路子さんの小説の思い出を書いてみようかと思います。

元々永井路子さんは母が好きで何冊も買っていました。
そして最初に読んだ小説はこの作品。

兄たちに比べ凡庸だった道長がこの世の栄華を謳歌することになるまでを描いた作品です。名門の家に生まれながら、才気煥発な兄たちに気圧され、どこかぼんやりと生きている道長。『大鏡』などに描かれている道長像とは違い、ええとこのぼんぼん感が漂う道長像です。相次いだ兄の死と、姉の詮子の後押しで伊周との政争に勝ち権力者の座に収まる道長ですが、独特の茫とした様は変わりません。タイトルにもなっている自身の栄華を歌った「この世をばわが世とぞ思ふ望月の欠けたることもなしと思へば」という和歌も道長が戯れに子供のように詠んだように感じられます。
幸運を手にした男が自身の欲に気づき、惑いながらも権力へと駆り立てられ手にしていく様を精緻に描き、長編ではありますが一気に読めてしまいます。

『この世をば』でハマって色々読んだんですが、やはり女性を描いた作品が面白いです。
日野富子を描いた『銀の館』


今参局との静かな争いが印象的だったなあ。後々藤本ひとみさんの『預言者ノストラダムス』を読んだ時に、カトリーヌ・ド・メディシスとディアーヌ・ド・ポワティエのところでこの『銀の館』の富子と今参局を思い出したりも。どちらも大きな争いを招いた二人ですが、旦那が悪いわ〜などと俗な感想を持ってしまいました💦
他にも大河ドラマになった『北条政子』や氷高皇女(元正天皇)を描いた『美貌の女帝』など沢山ありますが、永井路子さん唯一の現代小説、『茜さす』もすごく良かったです。

就職、仕事、恋、友人の死。様々のことに悩む主人公のなつみが、明日香の地の発掘現場で働きながら、鸕野讚良皇女(持統天皇)の生き方に惹かれ、その生涯を追いながら自身の生き方とも向き合っていく物語です。1991年に出版されたものですから、今読むと少し古く感じるものの、悩む女性というのはいつの時代でも似ているなと感じる部分は多いです。子供の頃に読んだのと、大人になって読んだのとではまた印象が変わりました。やっぱりよりリアルに感じられる部分が増えるからでしょうね。
歴史小説の名手ですが、女性を描く名手でもある永井路子さんの上手さを堪能できる一冊だと思います。

それからやっぱり『歴史をさわがせた女たち』シリーズですね。
私は外国編が一番好きです!

世界史方面では小説は書かれていませんし、このシリーズでも海外の人物に触れたのはこの一冊だけなんですが、興味の入り口にするのにはとってもいい本だと思います。
ご専門ではないので、ちょっと違う部分もあったりはしますが、読み物としての面白さはたっぷりですのでそれはそれでご愛嬌ではないかなと思います。この本で塩野七生さんを知ったんじゃないかなあ?後々『チェーサレ・ボルジアーあるいは優雅なる冷酷』をジャケ買いした時も、永井路子さんのことを思い出しましたし。カテリーナ・スフォルツィアが啖呵を切るところ、ほんとだったんだ!って感じで読んだりも。映画感想文でアップした『冬のライオン』もこの本で知って見ましたし。手軽に読める歴史エッセイという感じで、本当に面白いです。

他にも『朱なる十字架』や『炎環』『流星』などなど、面白い本がたくさん。
日本史の勉強をする時も、お話で流れが頭に入っていたのですごく助かった覚えが。小説では永井路子さん、漫画では里中満智子さん、このお二人のおかげで大分楽に覚えられたような気がします(笑)。

高齢になっておられたことも知っていたし、新刊は何年も出ていませんでしたから、とうとう、という思いではありますが、好きな作家さんの訃報はやはり寂しいです。
林真理子さんがご自身のYouTubeチャンネル、真理子書房で山本文緒さんの遺作、『無人島のふたり 120日以上生きなくちゃ日記』をご紹介されたときに「作家には寿命が二つある。作家が死んでも作品は生き続ける。今後何十年も生き続ける作品を書いた人だ」と山本文緒さんを評しておっしゃっていましたが、永井路子さんの作品も、何十年も生き続ける作品ですよね。
寂しくはありますが、またこれからも再読していこうと思います。

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