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中学学力テスト英会話は0点が6割の衝撃

令和5年度(2023年度)の中学3年生の英語スピーキングテストの正答率が12%と話題になったようです。(令和5年度全国学力・学習状況調査)

正答率が12%という情報だけでは、ほとんど意味をなさないため、実際にどのようなテストだったか調べてみました。

0点が6割で、設問1は非常にシンプルな問題であり、これに6割の中学3年生が回答できなかったというのは、日本の英語公教育にはとても課題がありそうです。


結果について(正答率等)

原典の資料が非常にわかりにくいですが、
6割が0点、正答率は12%というタイトルの記事が多いですが、
難易度がバラバラの問題で平均になんの意味も持たないと思います

全5問の出題があり、
内、3問は『情報を元に答える事』ができる問題
(質問を理解できている限り、英作文を口頭でしてるだけ)
残り、2問は『意見を述べる』問題

一方で6割が0点どころから、
1問正答が約2割
2問正答が約1割

つまり、
今回のテストでは、2問以下の正答が9割を占める』のですが、
問題のレベルを考えると、これが本当に中学生の実力を反映しているのであれば、これはかなり課題がありそうです。

模範解答を文字にすると下記の回答を1割の子しか3問以上できていないということです。

全5問の回答例



※中3での英検3級取得率を考えると、問題や試験の実施方法に問題があるのではないか?と疑うべきかもしれません

形式としては、CEFRA1~A2(英検3級〜準2)で良く用いられる、文法・語彙・発音をチェックする試験と英語で意見を述べるの2つに分けた試験です

令和5年度 全国学力・学習状況調査の結果(概要) P17より


今回の試験の結果となった最大の課題

推測の域をでませんが、英語(特に会話)は自転車に乗る練習と同じように、失敗しながら、何度も練習しながら上達するところがあります。Krashenという人が、「無意識」と「意識的」な練習の両方が大事と指摘していますが、従来の日本の英語教育は「意識的」な文法や英文解釈ばかりで、とにかくたくさん「音読」するなどの「無意識」分野の練習が少なすぎるのが課題ではないかと考えます。但し、特に中1になり思春期になる男子に女子の前で大きな声で"Six"と正しい発音で音読するのは抵抗があるのではないかとも思われます。

コミュニケーションはまずは伝えようとすること、ある程度伝われれば特に初期ほど、正確性は二の次です。「あれどうなった?」は不適切かもですが、これで伝わるならコミュニケーションはとれているはずです。一方で正確さを求めすぎるあまり、そもそもコミュニケーションをとれなくなってしまうようなことは絶対に避けるべきです。日本の英語教育はこの点で課題が大きいように感じます。

早い時期(5・6歳〜)英語の音読をはじめれば少なくともこのような結果にはならないはずと考えます。ご参考までに、当校では、英語多読(音読)の学習法を採用しております


実際の出題と分析

設問1〜4は、大問1として、設問5は大問2として出題

設問1(情報を拾い、英語で発話)

誕生日を答える問題で5 wordsの非常にシンプルな回答で満点となる問題

出題分(音声)
A baby elephant!
How cute! ...
I can read some Japanese.
Its name is Taro...
it's a boy... and,
what does this say?

表示される画像にも下線が引かれており答えやすかったとは思われます。

回答例
His birthday is March first.

設問1表示画像

分析:情報を拾い、英語で発話の問題

「情報を拾い、英語で発話」の出題を設問1を例とした分析を記載します。

採点基準は下記の通り説明されているが、採点基準に問題がある可能性がある。英会話においては、細かな文法のミスを問うべきではないが、
相当な正確性がないと正答とみなされていないように見受けられる

つまり、7秒という限られた回答時間に、
まずは意思疎通を図ろうとする発話する意思(「無意識」的スキル)より
文法の正確さ(リーディング等で測定可能な「意識的」的スキル)の優先順位が高くなりすぎている。このような今回のテストの採点基準自体が英語を発話することに対する抵抗感を醸成する可能性があると思われる。

具体的には、
【解答類型3】Her birthday is March first.というゾウがメスかオスかは意思疎通に影響を与えないのではないか?(むしろ、Herをいれようとしたことが評価されるべきで、解答類型2と同等の評価で良いと思われる。もしくは、日本語自体を「彼の」誕生日は3月1日と表記する必要があるが、明らかに男女がわかる複数の対象が存在しない中では「無意識」的スキルを測定する試験の設問として不必要に正確性を求め、不適切になる可能性がある。

【解答類型4】March first.という解答も誤答とされているが、的確に日付けを解答しており、解答類型2・3には劣るが、十分適切にコミュニケーション(日付を解答)は一定度できており「誤答」という判定は厳しすぎるのではないか?

【解答類型6】は全く質問に答えていないため、ゼロ点の採点は妥当である

<参考:解答類型>

【解答類型1】判定:◎
正確な情報について正しい日付を用いて解答しているもの

(正答例) His birthday is March first.

【解答類型2】判定:◯
看板の情報について正しい日付を用いて解答しているが、コミュニケーションに支障をきたさない程度の誤りがあるもの

(正答例)His birthday is a March first.

以下は誤答と判定されている解答例


【解答類型 3】 は、日付に関する基本的な表現を理解しているが、正しい語順や文法的構築等を理解して話すことに誤解があると考えられる。具体的な例としては、以下のようなものが想定される。
(例)
He is March first. (主語の選択に誤りがある)
Her birthday is March first. (代名詞に誤りがある)

【解答類型 4】 は、基板の情報について話しているが、情報量が不足している。具体的な例としては、以下のようなものが想定される。
(例)
March first. (誤生日でもあるという情報が不足している)

【解答類型 5】 は、日付に関する基本的な表現を理解していないと考えられる。具体的な例としては、以下のようなものが想定される。
(例)
His birthday is March one. (序数を用いていない)
His birthday is May first. (日付の表現に誤りがある)

【解答類型 6】 は、相手からの質問を聞き取ることができていないと考えられる。具体的な例としては、以下のようなものが想定される。
(例)
This is an elephant. (誤生日以外のことを解答している)



設問2(情報を拾い、英語で発話)

大問1-2

I was so excited to see the baby elephant.
So, what are we going to do next?

解答例
We are going to see kangaroos next.

※Are we going to~と聞かれているので We are going to / see kangaroos / next.と出題分を注意深く聞きながら型どおりに解答可能な問題

設問3(情報を拾い、英語で発話)

出題分(音声)
Look! Kangaroos!
They are really famous in my country, Australia.
I know a lot about them.
Do you have any questions about kangaroos?
Please ask me.
(解答時間7秒)

解答例
What food do they eat?

5W1Hの質問文1文を考える設問で、比較的シンプルな解答で対応できる

設問4(意見を述べる)

出題分(音声)
I want to buy a gift for my hostbrother.
He is only 4 years old.
Which one should I buy for him,a picture book, animal cookies or
a T-shirt?
And why do you think so?
(解答時間 20 秒)

(例) You should buy a picture book. He can learn about a lot of animals.

何を?と理由は?と2つ聞かれているので2文での解答例となっている。通常, becauseなどの等位接続詞でつなぐと思われますが、それは回答例を見る限り、「正答」するためには不要のようです。

ここでも、文法的な正確さ、1文の「文法」のチェックに焦点を当てすぎな印象を受けます。

設問5(意見を述べる)

出題分(音声)-以下のプレゼンテーションを聞く

(スクリプト)
Do you buy plastic bags at the store? Or, do you use eco bags? Look at this picture.
There are many plastic bags in the sea. It is a serious problem today. Now, look at this.
I was really surprised to see this because over 25 % of people in Japan buy plastic bags at stores.
In New Zealand, stores do not sell plastic bags and we take eco bags. Some people may say plastic bags are becoming more eco-friendly,
but I recommend stores in Japan should stop selling plastic bags.
What do you think?

解答例(1分で考え、30秒で話す)
I like your idea.
Many people in Japan use plastic bags.
We must change our action to protect the environment like people in New Zealand.

(25words、3文、4+7+14) Required Speed 50 WPM

分析:意見を述べる

意見を述べる問題については、そもそも今回の非常に低い結果となった要因として、文法等知識の正確さに主軸を置きすぎているため、本来のコミュニケーションスキルとして最も大切な伝えようとする意思を削ぐような採点が行われている可能性があり、採点基準の再考が必要な可能性がある。

また、出題の音声の英語スピードもかなり調整されており日常会話ではありえないレベルなので、この点も課題がある。語彙、文法の難易度は調整しても、発話スピードを落としすぎるべきではない。(実際の英語でのやりとりでこのスピードの処理能力では理解できなくなってしまうため)

このレベルでは、発話しコミュニケーションを取る姿勢が最も大切であり、そのようなスキルを育成すべきだが、採点基準がそれを促すものとなっていないのは問題である。

意見を述べる問題で、下記2つを誤答に分類するのは基準を修正すべき

(1)少なくとも一部に正確に答えているが不十分と判定

「自分の考え」及び「その理由」両方がないと誤答とし、下記のような回答例のば愛得点が付与されないのは課題だと感じる。相手に理解しようとする意思があれば、一定度伝わるはず。
「意見に対する自分の考えのみ」(例:Your idea is good.)(類型4)
「自分の意見の理由のみ」(例:We use eco-bags more.)(類型5)

(2)十分意見は伝わると思うが、文法等が不十分
このようなプレゼンテーションでのやり取りにおいて、語順を間違えたり言い直したりすることは普通であるにもかかわらず、語順のミス(文法)で得点を付与しないのも不適切である

I think so, too. Plastic bags we can buy at stores in Japan.(類型3)

これらの課題は、そもそも「音読」することを恥ずかしいと感じてしまう思春期の中学生に対して、プレゼンテーション、意見を述べるうえで間違ったメッセージ(まずは何よりもコミュニケーションを取ろうとする姿勢)を発してしまっていることが問題である。

このような採点基準をする場合は、意見を述べる問題が不要となるが、その場合いずれにしても上記指摘の問題を全く考慮していないことにはかかわらず、スピーキング力の涵養を大きく阻害する可能性があり適切ではない。

以下に、令和 5 年度 全国学力・学習状況調査 解説資料(中学校英語)にある採点基準を転載する。

(正答の条件)
次の条件を満たして解答している。
① 話し手の意見に対する自分の考えを伝えている。
② ①の理由を伝えている。

(正答例1)
I like your idea. Many people in Japan use plastic bags.
We must change our actions to protect the environment like people in New Zealand.

(正答例2)
・I don’t agree with you because a lot of stores in Japan sell eco-friendly plastic bags. (15 words)

条件①、②を満たし、おおむね正確な英語(コミュニケーションに支障をきたすような語や文法事項等の誤りがない)で解答しているもの
(次第点 正答例1)
I agree with you. Today a lot of people have eco-bag. We don’t need plastic bags at store.
(次第点 正答例2)
・I don’t think so. I hope stores keep to sell plastic bags because we don’t always have eco-bags.


以下は誤答例

【解答類型3】

プレゼンテーションの内容を把握し、話し手の意見に対する自分の考えとその理由を話しているが、正しい語や文法事項等を理解して話すことに課題があると考えられる。具体的な例としては、以下のようなものが想定される。

(例)
I think so, too. Plastic bags we can buy at stores in Japan.(語順に誤り)

【解答類型4】

話し手の意見に対する自分の考えを話しているが、その理由を話すことに課題があると考えられる。具体的な例としては、以下のようなものが想定される。

(例)
Your idea is good.(話し手の意見に対する自分の考えのみを話している)Your idea is good. I don’t want to protect the environment.(内容が矛盾している)

【解答類型5】

話し手の意見に対する自分の考えを話しておらず、与えられた話題について自分の考えのみを話している。具体的な例としては、以下のようなものが想定される。

(例)
We use eco-bags more.(与えられた話題について自分の考えのみを話している)

【解答類型6】

プレゼンテーションの内容を把握できていない、または話し手の意見に対する自分の考えとその理由を示すために必要な表現が身に付いていないと考えられる。具体的な例としては、以下のようなものが想定される。

I like shopping.(自分の好みを話している)


(参考) 試験時の表示された問題

【参照情報】

令和5年度全国学力・学習状況調査の調査問題・正答例・解説資料について

英会話力も『英語多読』


日本人が英語がなぜ話せないのか?〜10歳でどのように英語学習をするとよいか?紹介しています。よろしければぜひ見てくださいね