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【レジュメ】宮本輝『流転の海』全巻読書会・第4部『天の夜曲』第4章

こんにちは。

もはやレジュメの当日公開がデフォルトになってしまっていますが、本日(23/06/26)も読書会のレジュメをお届けいたします。20:30からDiscordで行っていますので、Twitterアカウント @Showji_S までお問い合わせくださるか、こちら をクリックしていただければいいようになっています(参加リンクは7日間有効)。ご参加を検討くださると幸いです。

さて、宮本輝さんの全9部に及ぶ大作『流転の海』とは、宮本さん一家(ご本人とご両親)を「モデル」としていると言われる、戦後の昭和史を貫いた作品です。今までに3部までを読んできて、現在は第4部の『天の夜曲』第4章(新潮文庫版p.332~443)を読む予定としています。第3部までは、以下に簡単に概略をまとめてありますので、参照なさってください。

主な登場人物(回想的に言及されている人物は、一部省きました)

小谷光太郎 熊吾の糖尿病を看ている、保険制度に反対している医師。

松坂熊吾 本編の主人公。出征した中国から生還した後、50歳にして初めての実子・伸仁を授かる。妻は房江。戦前は実業家だったが、戦争で大打撃を被っていた。幾度かの転変を経て、現在は妻子を富山に住まわせながら、本人は新規事業「関西中古車事業会」の立ち上げに奔走している。

小谷聖司 光太郎の息子で、医師。保険制度について、父と意見が対立している。

西条あけみ(森井博美) 売れっ子のヌード・ダンサーだったが、顔に火傷を負う事故に遭う。治療を目的として、故郷の長崎に向かう。

峰山フキ ビルの不便さに折れた熊吾が借りた部屋の持ち主で、駄菓子屋を営む。

丸尾千代麿 熊吾と親しい運送会社の社長。身体に異変が起きている。

久保敏松 関西中古車事業会の立ち上げの協力者だが、熊吾からは全幅の信頼を得られていない。

丸尾ミヨ 千代麿の妻で、会社経営上のパートナー。会社規模が大きくなりつつあることで、経営から一歩引くことを熊吾から勧められるが。

第4章のあらすじ

  1. 1955年8月に完成した小谷医師の新しい医院と住居で、熊吾は西条あけみの火傷に治療の可能性があることを聞く。原爆のケロイド症治療の応用である。

  2. さらに、水俣で「奇病」が発生していることを聞いた。

  3. 小谷宅を辞して新しく借りる予定の部屋に布団等を運び入れたあと、熊吾はあけみと会って、治療を勧める。

  4. 丸尾運送店で久保敏松に電話をかけるが、熊吾は久保の「限界」を感じている。その後、帰ってきたミヨに、経営から引いてはどうかと話すが、千代麿の異変について話を聞かされる。

  5. 翌日、小谷に千代麿の様子を尋ねると、小谷の見立てでは、十二指腸の癌であるという。

  6. 8月20日、あけみを連れて、熊吾は長崎へ発つ。長崎の墓苑で、熊吾はあけみの家族の来歴を知る

物語の「ポイント」

  1. そういう因縁をふっかけてくるのが地域の有力者であるっちゅうところがポイントですな(p.340)

  2. 身心ともに歪まず育つよう、私がうまくやりますよ(p.343)

  3. 久保敏松は性格が穏かで思慮深く博学だったが、彼のこれまでの来し方から推察すると、そのあまりの慎重さによる決断力の鈍さが何かにつけて災いしているように感じられた(p.365)

  4. 国際法上で「戦争は犯罪である」という条項が書き入れられたとき、初めて世界は成熟への第一歩を踏み出すことになるとも考えた(p.362)

  5. 明治っちゅう国家の成立も下剋上じゃけんのお(p.363)

  6. いまやっとこれまでの苦労が報われ始めた善良な男が、為す術もなく癌ごときに殺されていくというのか(略)世のため人のためにならないやつにかぎって長生きをして、災いを撒き散らす・・・(p.369)

  7. それでもなお房江が己を卑下する心も持たず、他人への根深い憎悪の感情も抱かず成人し、思いやりとか勤労の精神に貫かれた女であることをありがたく感じた(p.374)

  8. 自分でも意識しない埋没した過去の出来事のなかに、その人の病気の根本の因がひそんでいる。それは主に「憎しみ」や「怒り」としてその人のなかで知らず知らずのうちに病を形成していくのだ(p.378)

  9. 「春風のような」という言い方があるが、自分が記憶している父は、まさしく春風のような男であった。伸仁も、そのような人間になってもらいたいものだ(p.379)

  10. それにしても、日露戦争と大東亜戦争とでは、なんとその意味合いが違っていたことであろう(p.384)

  11. 熊吾は、日本帝国陸軍全体が、無教養な百姓と化していたのだと思った。そのような下剋上状態はいつ発生したのか・・・。そしてその下剋上は、敗戦によってこの日本で再び開始されたのだ・・・(p.385)

  12. 一生に一度あるだけの神秘的な年代を、自分たちが扱いやすい生徒だけをよしとするクソ教師の作った試験を解くための勉強で浪費させてはならない(p.393)

  13. 戦後、自分と仕事上で昵懇となった人間は、どれも能力や運に欠陥がある。だがそれはすべてこの自分という人間が招き寄せたのだ。この自分の能力や運といったものが土壁が剝れるように落ちたのだ・・・(p.427)

  14. 逆の考え方をするならば、そこに深くかかわった自分こそが、悪しき星廻りのなかにいつのまにかひきずり込まれてしまったからだとうことではないのか・・・(p.429)

  15. わしらは犬や豚やあらせんのじゃ。こんな無茶苦茶の戦争に駆りだされて、こんなことで犬ころみたいに死んで。それに対しての「ちくしょう!」でなァし(p.440)

追記

※後日、「追記」がされる場合があります。また、音声ファイルを別建てで公開する予定です。


今回の「レジュメ」は以上となります。最後までお読みくださいまして、ありがとうございました。それではまた!



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