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【読書会】宮本輝『流転の海』を読む⑥~第10・11章

こんにちは。

8月8日(月)にTwitterスペースで開催する「オンライン読書会」でのレジュメをお届けします(21時開始)。6回目となる宮本輝さんの『流転の海』(第1部)も、8日でいよいよ完結となります。翌週15日から第2部に移るかどうかは、8日の会で決定したいと思っております。

第10章概略

①昭和23年、朝鮮半島での戦争勃発が懸念されている中で、熊吾は自身の商いの方向性を見定めるのに腐心。伸仁のため、数年故郷に戻ることを考えていたため。
②昭和24年正月、囲っている春菊を訪ねた折、房江にも語っていなかった過去を語り始める。
③岩井亜矢子を訪ねる。
④帰宅すると、房江が急性の胆嚢炎で苦しんでいた。筒井医師を呼ぶ。

第11章概略

①房江は神戸に転院。
②辻堂に、郷里に戻ることを告げる。併せて、伸仁の将来を頼みこむ。
③5月、大阪を発つ。

第10章ポイント

・けれども、熊吾は伸仁を、せめて五歳か六歳になるまで、郷里の南宇和郡一本松村の野や山に置いて、滋養に富んだ南国の太陽や空気の中でのびのびと走り廻らせてやりたいという思いを捨て切れなかった(382)。

・自分にも伸仁にも、大きな時が来ている。そしてそれは両立しない(383)。

・親父は怒らんかった(略)あいつは、ほんまは臆病な子おなんじゃ。ある人にそう言うて笑ろうたそうな(391)。

・わしは医学は知らんが、人間がどうやったら病気を治せるかっちゅうことを知っとった(略)勇気を与えてやるのよ。安心させてやるんじゃ(392-3)。

・わしは、大阪に帰って、はったりと押しの一手でまた借金をして、松坂商会を作ったんじゃ。わしは人に騙されても、騙したことはないと自分自身に言い聞かせたりするが、とんでもありゃせん。一年間も偽医者をつづけて、あげく六歳の子どもを殺した。わしはひょっとしたら、一生、偽何とかで終わる人間かもしれん(略)わしは人に負けまい、偉うなるぞと、うんうんきばっとるうちに、ほんまのわしを忘れたのよ(395)。

・熊吾は、決心が固まったような気がした。事業よりも、妻や子の健康のほうがはるかに大切だと己に言い聞かせた(416)。

第11章ポイント

・「お前のふんどしは、松坂商会にはないぞ」/(略)辻堂の才知を、辻堂の誠実を、辻堂の人柄を、もっと大きな土俵の上で使ってやりたかった(419)。

・伸仁が大きゅうなって、わしがこの世から姿を消して、もし伸仁に誰かの助けが必要になったときは、どうか力になってやってくれ。よろしゅう頼む(429)。

・約束じゃ。わしが死んだら、伸仁を助けてやってくれ。頼んだぞ(435)。

解説(黒井千次)ポイント

・上述の「あとがき」の中で、「”父と子”を書くとき、そこには必ず”母と子”が存在することを、私はいま思い知らされています」と作者は洩らしている(441-2)。

・「(略)私は、自分の父をだしにして、宇宙の闇と秩序をすべての人間の内部から掘り起こそうともくろみはじめたのです」(442)

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今回で、第一部が完結しました。おつきあいくださり、ありがとうございました。第二部以降につきましても、どうぞよろしくお願いいたします。それではまた!


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