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ボローニャ・ラガッツィ賞2024コミック部門の受賞作品を紹介します!

みなさん、こんにちは~!
大阪・谷町六丁目の海外コミックスのブックカフェ書肆喫茶moriの店主です。

先日、といっても6月4日のことなのでもう2週間も前のことですが…。(時間の経過が早すぎる…!)
オンラインイベントの「海外マンガ勉強会#1」に参加していました。
たくさんの方が参加されていて、初回ということで自己紹介や、参加申し込み時に記入した質問をテーマに情報共有しあうといった内容で、とても有意義な時間でした。

どうやらこの「海外マンガ勉強会」は定期的に開催されるとのこと。次回は7月2日(火)開催だそうです。とても楽しみです。

この「海外マンガ勉強会#1」で何人かの参加者の方が触れられていたのが、本記事のテーマ。
イタリアで毎春に開催されるボローニャ児童図書展(Bologna Children’s Book Fair)
マンガにも力を入れておられるようで作品展示などもあったそうです。

ボローニャ児童図書展では、ボローニャ・ラガッツィ賞という児童文学の賞が表彰され、2020年にはコミック部門が新設されました。そういえば去年、そのコミック部門の受賞作品について紹介記事を書いていましたね。

2024年の受賞作も発表されていたのに記事にまとめていなかったな、ということを思い出しましたので、今回まとめてみたいと思います。

コミック部門には、EARLY READER(6-9歳)、MIDDLE GRADE(9-12歳)、YOUNG ADULT(13歳以上)の3つの部門があります。2022年1月~2023年12月に刊行された作品を対象に、それぞれ最優秀賞(Winner)と優秀賞(Special Mention)が選ばれました。

ちなみに詳しくはYoutubeライブでもお話しています。こちらもぜひご視聴ください。


EARLY READER(6-9歳)

最優秀賞
『Comment naissent les arbres (How Trees Are Born)』

作:Charles Berbérian、発行:La Martinière Jeunesse(フランス)

作者はバンド・デシネ作家として有名なシャルル・ベルベリアン。ルーブルBDプロジェクトでもLes Amants de Shamhat(シャムハトの恋人たち)』という作品を寄せていた作家です。
そのベルベリアンの初めての児童書で、少年と母親が人生と自然について穏やかに話し合う物語。講評によると、若者と老人、自然と人間、闇と光、生と死をビジュアル的に対比させているそうです。

優秀賞
『달리다 보면 (As You Drive)』

作:김지안(Ji-an Kim)、発行:웅진주니어(Woongjin ThinkBig)(韓国)

ネコ会社員のマイカー通勤でのちょっとした冒険を描いたドライブ絵本。出版社のサイトにトレーラー動画が公開されていました。韓国語は全く読めませんが、渋滞の高速道路や、ビールとチキンで一杯しているところとか、なんか親近感がわきますね。(絵本の主題は多分そこじゃない)

優秀賞
『호랭떡집 (Rice Cake House of a Tiger)』

作:서현(Seo Hyun)、発行:사계절(Sakyejul Publishing)(韓国)

お餅屋さんの虎が地獄までお餅を配達に行って、妖怪たちと邂逅するという何とも興味深い物語です。コミカルかつシュール。お誕生日のお餅という、韓国文化も垣間見れて面白いですね。

MIDDLE GRADE(9-12歳)

最優秀賞
『Les Pissenlits (Dandelions)』

作:Nina Six、発行:Éditions Sarbacane(フランス)

2006年の夏、9歳の少女ニーナはサマーキャンプに出掛け、新たな出会いと忘れられない体験をする。2006年という少し昔の、ノスタルジックな子ども時代の思い出。

優秀賞
『Dronefangeren (The Drone Catcher)』

作:Øyvind Torseter、発行:Cappelen Damm(ノルウェー)

小さな島に突然の警報が鳴り響き、ネズミに街が占拠された。逃げるべきか留まるべきか、誰もいない通りに出た主人公は、そこで抵抗しようとする人をみつける。終末世界、ユーモア、孤独、勇気と冒険の物語。
オイヴィン・トールシェーテルは『Mulegutten(英題はThe Heartless Troll)』という作品を読んだことがあるのですが、病んだムーミンのダークファンタジーのようなユニークな世界観で面白かったです。

優秀賞
『Mergaitė su šautuvu. Istorija apie mergaitę partizanę (A Girl With a Gun. A Story About a Girl Partisan)』

作:Marius Marcinkevičius、画:Lina Itagaki、発行:Misteris Pinkmanas(リトアニア)

シベリアの俳句(ユルガ・ヴィレ作、リナ板垣画、木村文訳、花伝社)が邦訳されているリナ板垣さんの作品です! この作品も第二次世界大戦が舞台。シベリアの俳句ではシベリアに強制移送された子どもたちとその家族の物語でしたが、今回の受賞作は、家族が連れ去られ独りリトアニアに残された少女が主人公。家族を失った悲しみに打ち勝ち、彼女は自由を求めて戦うパルチザンの一員になる。もちろんフィクションではありますが、当時の人々の証言や資料を元に描かれた作品だそうです。

YOUNG ADULT(13歳以上)

最優秀賞
『Il racconto della roccia (The Tale of the Stone)』

作:BeneDì (Benedetta D'Incau)、発行:Coconino Press(イタリア)

20世紀初頭のイエメンの村で出会った、ユダヤ人のベンジャミンとイスラム教徒のハキム。ユダヤ人とイスラム教徒が平和に共存する村で二人は友情を築くが、ある「悪魔」が村を襲い二人は断絶してしまう。1938年、ヨーロッパが第二次世界大戦の闇に沈もうとするとき、二人はウィーンで再会し、「悪魔」の存在とは何だったのかを追及していく。歴史的背景に深い敬意を表しながら信仰とは何かを問いかける、作者のデビュー作。
ユダヤ人とムスリムの子どもが主人公の作品というとカナダ・ケベックのジャック・ゴールドスティンおなじ星をみあげて(辻仁成訳、春陽堂書店)も思い出しますが、昨今の情況のことを思うと、より深い意味のある作品だと感じます。

優秀賞
『Clocki (Today)』

作:Mathias Martinez、発行:Misma(フランス)

大きな目ともつれた口ひげをした目覚まし時計のキャラクター「クロッキー」はもともとマンガのヒーローとして1930年代に生まれ、映画化され、1950年代には遊園地にもなった。しかしその裏には知られざる暗い現実は存在した。1930年代アメリカのベティ・ブープや道化師ココにインスピレーションを得て、不穏でグロテスクな雰囲気を醸し出す作品。

優秀賞
『Le Visage de Pavil (Pavil's Face)』

作:Jeremy Perrodeau、発行:Editions 2024(フランス)

帝国の筆記者パヴィルが乗る飛行機が、帝国外のカスペツィア半島の人里離れた村、ラピョサに墜落した。 数か月間滞在することを余儀なくされた彼は、この村の日常生活に貢献することを約束して、このコミュニティの習慣を研究する。 受容と寛容、そして人間社会における信念の所在を問う160 ページのSF物語。
アングレーム国際漫画祭2024高校生の賞(FAUVE DES LYCÉENS)受賞。ACBD批評グランプリ2024ノミネート作品。

優秀賞
『Loops』

作:Luca Pozzi、画:Elisa Macellari、発行:BAO Publishing(イタリア)

科学に関心を持つ作者のルカ・ポッツィは、世界的に有名な物理学者カルロ・ロヴェッリとの対話を経て、科学の起源、時間の性質、そして宇宙論の世界へと読者をいざなう。複雑な物理学の世界を巧みなグラフィックでマンガの形式へと落とし込む。ルカ・ポッツィの妻であり作画を担当したエリーザ・マチェッラーリさんは、草間彌生の人生を描くKUSAMA 愛、芸術、そして強迫観念(栗原俊秀訳、花伝社)の作者でもあります。

NEW HORIZONS 2024

審査員特別賞
『回憶見 (See You in Memories)』

作:Pen So、発行:Pen So Artlab(香港)

特に革新的な作品に対して与えられるニューホライズン賞に輝いたのは香港のPen Soさんの『回憶見』第16回日本国際漫画賞で優秀賞も受賞し、今回の受賞作品の中では私が唯一読んだことがある作品です。
シンガーソングライターを夢見る主人公は、家出した3年間の記憶を失っていた。唯一の手掛かりは手に持っていたスケッチブック。記憶を取り戻すため、そこに描かれた景色を追い求めていくうちに、彼女は不思議な世界へと迷い込む。
なんと言ってもこの作品の画期的なところは、漫画本編と、本編に出てきたスケッチブックの2冊組であること。ストーリーはさることながら、失われつつある香港の景色を描き留めたスケッチブックが素晴らしい。
Pen Soさんは2024年7月にも新作『達利書店』を刊行予定。生誕100周年の迎えるサルバトール・ダリをテーマにした作品なのかな? 楽しみです!

~*~

さてみなさまいかがでしたでしょうか?
個人的な感想でいうと、すでに邦訳が出ている作家さんの新作も結構あったり、他の賞で選ばれていた作品があったり、まったく新しい作家さんにも出会えたり、面白いラインナップでした。ヤング・アダルト向けの作品はどれも読んでみたいですね。
イタリアやお隣フランスの作品が多いのはうなずけますが、絵本が強い韓国や、ノルウェー、リトアニアの作品も選ばれているのもとても興味深かったです。
みなさまの気になる作品がありましたら幸いです。

参考資料:過去の受賞作品


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