ACBD批評グランプリ2021受賞作発表
こんにちは!
大阪・谷町六丁目にある海外コミックスのブックカフェ、書肆喫茶moriの店主です!
バンド・デシネ(フランス語圏のマンガ)にもいくつか賞がありますが、そのひとつが、フランスのACBD(l’Association des Critiques et journalistes de Bande Dessinée:バンド・デシネの批評家とジャーナリストの協会)によるACBD批評グランプリです!
バンド・デシネの賞というと、毎年1月ごろに発表される「アングレーム国際漫画祭グランプリ」が有名ですが、こちらが市場でよく読まれた作品ではなくても優れた作品を表彰するのに対して、「ACBD批評グランプリ」は市場での評価が高かった作品が選ばれる傾向にあるとかないとか……。
ACBD批評グランプリ2021に関しては、ノミネート作品15作品から、最終ノミネート5作品に絞られて、2020年12月4日に最優秀賞が発表されました!
ノミネート作品は、Youtube動画でもご紹介しています!
ぜひご覧ください!
さて、わたしも読めていないものがほとんどなので簡単にはなりますが、ノミネート作品と受賞作をみていきます!
ACBD批評グランプリ2021ノミネート作品
まずはノミネート作品の中から、最終ノミネート以外の10作品をみていきます!タイトルはアルファベット順です!
『Aldobrando』Gipi作、Luigi Critone画(Casterman)
ゼロカルカーレ『コバニ・コーリング』でも名前が出てきたイタリアの漫画家Gipiが脚本を手掛けた作品!
『コバニ・コーリング』のなかでは、水彩の美しい作品を描く作家として(ゼロカルカーレとは対極にある!)紹介されていましたね!
『Aldobrando』は魔法使いに育てられた少年のファンタジー作品のよう!
アングレーム国際漫画祭2021の公式セレクションにも選ばれています!
『Béatrice』Joris Mertens作(Rue de Sèvres)
主人公ベアトリスはデパートの販売員。いつも駅で見かける赤いバッグを手に取ると…。
平凡な日常をおくる若い女性に訪れる不思議なファンタジー。
セリフが少なく、水彩の絵がとても美しい作品です!
『La Bombe』Laurent-Frédéric Bollée、Alcante作、Denis Rodier画(Glénat)
脚本のLF.ボレといえば、日本のオウム真理教による松本サリン事件をテーマにした作品『MATSUMOTO』の作者!
彼が今回手掛けたのは、またもや日本に関係のあるテーマ!
第二次世界大戦時に広島と長崎に投下された原子爆弾!
その開発秘話に迫る物語のようです!
『Celestia』Manuele Fior作(Atrabile)
『秒速5000㎞』など日本でも人気のイタリア人作家マヌエーレ・フィオールの最新作!
マヌエーレ・フィオール。残念ながらマンガ作品の日本語訳はないのですが、伊坂幸太郎の絵本『クリスマスを探偵と』の挿絵を手掛けています!(伊坂幸太郎さんはマヌエーレ・フィオールがお好きみたいですね)
『Celestia』は、数千年前の大洪水時に造られた小さな島セレスティアを舞台にしたSFファンタジーのようです!
『Le Discours de la panthère』Jérémie Moreau作(éditions 2024)
タイトルは日本語にすると『パンサーの言うこと』みたいな感じでしょうか? 表紙にも中央にブラックパンサーらしき姿が!
水牛、オオトカゲ、ムクドリ、ダチョウ、象……など動物たちを主役に世界の起源に迫る寓話集だそうです。
アングレーム国際漫画祭2021子ども部門にもノミネートされています!
『L'Homme qui tua Chris Kyle』Fabien Nury作、Brüno画(Dargaud)
『クリス・カイルを殺した男』というタイトルのとおり、クリント・イーストウッドの映画『アメリカン・スナイパー』でも描かれている伝説のスナイパー、イラク戦争の狙撃兵クリス・カイルの物語のようです。
作者のファビアン・ニュリは、歴史漫画に定評のある作家。
吸血鬼伝説をバックボーンにナチスの極秘プロジェクトの謎に迫る『わが名はレギオン』と、映画化もされたソ連・スターリンの死をめぐるドタバタブラックコメディ『スターリンの葬送狂騒曲』の2作品が日本語訳されています。
『スターリンの葬送狂騒曲』は映画もオススメ。原作マンガとはまた一味違ったブラックさが楽しめます!
『Mind MGMT : rapport d'opérations Tome 1 : Guerres psychiques et leurs influences invisibles』Matt Kindt作(Monsieur Toussaint Louverture)
作者のマット・キントはジャスティス・リーグ・オブ・アメリカやスパイダーマンも手掛けるアメコミ作家。
本作は、記憶操作、テレパシー、透視能力……といったマインド・マネジメントの超能力者が政府の影で暗躍するサイコ・サスペンスのようです!
『New York Cannibals』Jérôme Charyn作、François Boucq画(Le Lombard)
入れ墨屋のパヴェルとボディービルダーのアザミは捨て子を拾い自分の子として育てるが、この赤ん坊には秘密があった…。
タイトルに”Cannibals(人食い人種)”とあるように、人食い人種が出てくるホラー・サスペンスのようです!
『Pucelle, Tome 1 : Débutante』Florence Dupré la Tour作(Dargaud)
タイトルを直訳すると『処女第1巻初心者』!すごいタイトルですね!
性について語ることがタブーとされていた厳格な家庭に育った作者が、当時のトラウマを描く自伝マンガ。
絵柄はとても可愛らしいですが、その内容は……。
アングレーム国際漫画祭2021公式セレクションにも選ばれています!
『Seules à Berlin』Nicolas Juncker作(Casterman)
第二次世界大戦末期のベルリン。
ヒトラーの遺骨を鑑定しにソ連軍とともにやってきたロシア人女性エフゲニヤは、ドイツ人女性イングリットと出会う……。
敵同士の二人の女性の友情を描いた作品!
タイトルを直訳すると『ベルリンでひとり』……。なんとも意味深なタイトルではないですか…!?
ACBD批評グランプリ2021最終ノミネート5作品
最終ノミネートに選ばれたのは5作品。
その中から最優秀賞以外の4作品をみていきます!
『Anaïs Nin : sur la mer des mensonges』Léonie Bischoff作(Casterman)
性愛小説の女性作家の第一人者フランス人作家アナイス・ニンの伝記マンガ。
二人の夫を持ち、アメリカの作家ヘンリー・ミラー愛人でもあったアナイス・ニンの波乱万丈な人生を、とても美しく繊細な色鉛筆画で描く!
アングレーム国際漫画祭2021公式セレクション作品!
『Carbone et Silicium』Mathieu Bablet作(Ankama)
Matuieu Babletはまだ日本語訳はありませんが『Shangri-La』や『La bella morte』などSF作品で人気の若手作家です!
近未来、人間の高齢化に対応するために生み出されたロボット、カーボンとシリコンをめぐるディストピアSF!
フランスの本の専門誌『LireMagazineLittéraire』に特集された2020年の100冊に選ばれた7作品のバンド・デシネのうちの1作でもあります!
『Longue vie』Stanislas Moussé作(éditions Le Tripode)
タイトルを直訳すると『長い人生』でしょうか?
むかしむかし、ある平和な国に、半人半獣の軍隊がやってきて略奪の限りを尽くし、羊飼いは復讐の旅に出る……。
セリフも少なくおとぎ話のような物語ですが、細かく緻密なペン画がクセになるような作品です!
『Un travail comme un autre』Alex W. Inker作(Sarbacane)
1920年代のアラバマ。新たな動力として期待されていた電気の技師をしていたロスコーは、妻の実家の農家を継ぐことになる。しかし、天候悪化による不作に悩み……。
スタインベックを彷彿とさせるヒューマンドラマ!
タイトルは直訳すると『他人の仕事』? これも意味深な題名がついていますね!
ACBD批評グランプリ2021最優秀作品
さて、栄えあるグランプリに選ばれたのはこちらの作品!
『Peau d'homme』Hubert作、Zanzim画(Glénat)
当店で唯一所蔵している作品ですよ!(嬉しい!)
(実はMatuieu Babletの『Carbone et Silicium』も取り寄せ中だったりしますが笑)
舞台はルネサンス期のイタリア。
良家の娘ビアンカは、そろそろ結婚を考えるようなお年頃。
そんなビアンカが見つけた代々家に極秘に受け継がれる『男の皮』。
なんとこれを身に付けることで美しい青年に変身することができる!
ビアンカは美青年ロレンツォに変身してこっそり街に出かけるが……。
性、道徳からの解放を投げかける大人の寓話!
日本の少女漫画にも女の子が美青年に男装して……という物語はたくさんありますが、なんと実際に男性になってしまうという、とっても驚きの設定!
ビアンカが美青年になって出会う人々、体験する出来事もかなりショッキングで(といってもフランス語は読めないので絵を眺めているだけなんですが笑)、既存のジェンダー観を揺さぶられるような怪作です!
脚本のHubertは、『かわいい闇』のケラスコエットと共作で『Beaute』や『Miss Pas Touche』などの作品を生み出した作家!
惜しくも今年2020年2月に49歳という若さでお亡くなりなってしまうのですが、非常に興味深い数々の作品を遺しました。
もし『Peau d'homme』が気になりましたら、ぜひ当店に見に来てくださいね!
【番外編】ACBD子ども向けグランプリ2020
子ども向けのバンド・デシネ作品の優秀作を表彰する「Prix Jeunesse ACBD 2020」も発表されましたので、こちらもかいつまんでご紹介します!
ノミネート5作品から最優秀賞1作品が選ばれました!
『Le Roi des oiseaux, un conte inspiré du folklore russe』Alexander Utkin作(Gallimard BD)
英語タイトルは『The King of Birds』で、かなり面白い作品を出版しているイギリスの出版社Nobrowから2018年に発売されました。
作者のアレキサンダー・ウトキンはロシア人で、この作品もロシアの古い民話をもとにした物語になっています!
あとノミネート作品の中に日本語版が出版されているものもあります!
『Superman écrase le Klan』Gene Luen Yang作、Gurihiru画(Urban Kids)
『アメリカン・ボーン・チャイニーズ』のジーン・ルエン・ヤン作、日本人で大人気のグリヒルさんが作画!
1940年代のアメリカで中国人移民の兄妹とスーパーマンが白人至上主義者たちに立ち向かう!
異星人であるスーパーマンが地球における移民としての在り方に悩むシーンもあり、とっても面白い作品です!
『The King of Birds』『スーパーマン:スマッシュ・ザ・クラン』も当店にございますので、気になる方はぜひどうぞ!
~*~
さてさて、2021年のACBD批評グランプリ、ノミネート15作品をみてきましたが、気になる作品はありましたでしょうか?
どの作品も興味深く、いずれ日本語版も出てほしいですね~!
海外マンガの情報発信とお店を続けていくために大切に使わせていただきます!応援よろしくお願いします!