「自治体と弁護士の連携術」#3

第1 法制度設計

 受動喫煙防止対策を盛り込んだ改正健康増進法が2020年4月1日に全面施行された。本書は2012年に初版が発刊されているが,おそらく改正健康増進法の立法過程と思われる一例についての言及がある。要旨、1~4のとおりである。

 1 議員からの依頼
 ある議員から「禁煙法案」を作成したいと依頼をうけた。議員としては、副流煙を問題視して、およそたばこを吸う行為を罰則で禁止できないだろうかと考えていた。

 2 法的整合性の検討
 この「禁煙法案」を作成するときに考慮すべきこととしては、「たばこを一切吸ってはいけない」という立法目的が妥当か、罰則をもって担保するという立法手段は必要最小限の規制として合理的か、そして、さらに他の同位法令との整合性、たとえば、日本たばこ産業株式会社法においてたばこの製造を認めているばかりか、地方税としてたばこ税が相当な財源になっている……そうなると、日本たばこ産業株式会社のたばこ部門を廃止して、たばこ税もなくすのか?といった政策にまで広がる。

 3 議員の政策意図
 そのような政策も行うのか?ということをふくめて議員の考えを聞いてみると、そこまで主張するつもりはない、喫煙自体の是非ではなく、あくまで副流煙を問題視しての「禁煙法案」だった。つまり、吸いたくない人にたばこの煙を吸わせることを、罰則をもって禁止したいというのが議員の政策意図だったということが明らかになる。

 4 再び法整合性の検討
 罰則をもって「副流煙を吸わせてはいけない」という規制を設けると、罪刑法定主義の観点から構成要件の明確性が必要になる。
 しかし、どこまでが「吸わせる」行為となるかというのは難しい。たとえば、「吸わせる」を制御可能な副流煙を特定人に吸わせると定義すると、そもそもたばこの煙は制御可能なのか、制御可能なかたちでしかたばこを吸ってはいけないようにするのか等の問題が浮上し、これを詰め切ることはできない。 
 そこで、別の選択肢として浮かび上がったのが、「狭い密室で吸うこと、そこを煙で充満させるような行為を禁止する」というものである。しかし、今度は飲み屋、バー、スナックの職業遂行の自由を制約することになる。また、オープンスペースであっても副流煙が迷惑なことはある。そうなると、禁止する必要があるのは、たばこの煙から逃げられないような場所で、他人に対してその意思に反して自分の吸っているたばこの煙を吸わせることとなるような行為だということになる。

 法制度設計は、上記の1~4のようなプロセスをくりかえしていくことになり、次のとおり総評されていた。

当所、ぼんやりとしかもっていなかった「政策のイメージ」は、立案の依頼を端緒として、依頼者(政治セクター)と議員法制局のスタッフ(事務的な補助セクター)との間のやりとりを通じ、少しずつ政策内容が固まっていき、「政策大綱」(あるいは「政策骨子」)のような形の文書にまとめられていく。

第2 改正健康増進法

 この本が発刊された当時の状況では、ボツとなった「禁煙法案」も今では改正健康増進法として立法化されているようである。たまたま見つけたこのヤフーニュースが詳しく解説している。

改正健康増進法は、いわゆる「望まない受動喫煙」の防止のため、行政機関の屋内・敷地内や飲食店といった不特定多数の人が集まる施設の敷地内と屋内での禁煙を眼目に作られた。受動喫煙を受ける未成年者や家族、従業員、患者といったタバコを吸わない弱い立場の人への健康被害をなくし、タバコを吸うことができる場所を限定し、喫煙者と施設の管理者に受動喫煙防止を義務付ける法律となっている。
2017年に厚生労働省が国会成立を目指したが、自民党たばこ議連を中心とした反対勢力によって原案は潰された。すったもんだの挙げ句、翌2018年7月に国会で可決成立した経緯がある

 もっとも、新たな問題も浮上している。ポイ捨ての増加や違法な業態への転換である。

タバコが吸える場所が少なくなったため、喫煙者が近所のビルの間や公園などに蝟集し、受動喫煙の害を及ぼし、さらに灰皿がないために吸い殻のポイ捨てが目に余るといった事例も多い。禁煙店で飲食しつつ、タバコを吸うたびに外へ出てポイ捨てするような喫煙者もいる。路上喫煙防止条例のある自治体なら対処できるが、ない自治体の場合、こうした喫煙状況は野放しに放置されてしまう。
タバコの対面販売をして喫煙を主な目的にする、いわゆるシガーバーなどの喫煙目的室(店)への違法な業態転換だ。違法というのは、必要なタバコの販売許可を得ずに喫煙目的室(店)と掲示するという意味だが、当初、タバコ販売の所管である財務省と厚生労働省で分類に混乱が生じ、JTの各支社がアドバイスするなどしてタバコの出張販売形式で既存の居酒屋やバーが喫煙目的店として店内でタバコを吸わせる事例が出ていた。
これについては、財務省が改正健康増進法の法規制の枠内での設備の必要性を示し、厚生労働省は食事の提供を主目的とする一般的な居酒屋やレストランは該当しないとし、出張販売を含むタバコの対面販売の書類の保管が必要としてハードルを上げている。厚生労働省の指針を受け、違法な喫煙目的室(店)の形態にしている飲食店へ啓発を始めた自治体もあるようだ。

 なんとなく本を読んで知ったニュースであるが、面白い展開を見せているので規制の方向性等を追っていこうと思う。