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書評講座 Vol. 2

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課題書: 1)『掃除婦のための手引き書』- アメリカ、ルシア・ベルリン著、岸本佐知子訳、講談社、2)『ハムネット』- イギリス、マギー・オファーレル著、小竹由美子訳、新潮社
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2023年4月の記事一覧

『ハムネット』マギー・オファーレル著 小竹由美子訳 <田園に生きるひとの苦悩と恢復>

 史実その一。十八歳で八歳上の女性を身ごもらせ結婚した後に、ロンドンで劇作家として名を馳せるまでのウィリアム・シェイクスピアに関する記録はそれほどなく、「失われた年月」と呼ばれている。  史実その二。彼の息子、ハムネット・シェイクスピアは十一歳で他界した。死因は定かではない。その四年後にシェイクスピアは『ハムレット』を書く。  史実その三。当時流行していた黒死病(ペスト)あるいは疫病という言葉にさえ、シェイクスピアは戯曲でも詩でも一度たりとも言及していない。  作者マギー・