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選べる中古物件 実は氷山の一角 日本の住宅取引の問題はコレ

 住宅購入は大切な資産形成だから、誰もがいろんな物件を比較検討したいところ。しかし、私たちが目にしている物件情報は、実は氷山の一角。選べる物件は一部であり、価格の妥当性を測れないまま購入するしかないのが実情だった。原因は不動産取引の不透明な商習慣にある。こうした状況の中で、われわれ消費者はいかにして資産を守っていけばよいのか─。

SUUMOがカバーしている物件は全体の半分以下


 住宅購入を考えたとき、私たちが物件を探す方法としてはリクルートが運営する住まいに関する総合情報サイト「SUUMO」が思い浮かぶ。では、SUUMOがカバーできている物件はどのくらいあるのか。実は全体の半数にも満たない。

 さらに、一般には公開されないが、不動産業者だけが利用する「レインズ」と呼ばれる不動産流通のデータベースがある。ところが、このデータベースもすべての物件がカバーできているわけではなく、不動産業者ですら知らない物件が数多く存在している。

 本来、売主と専任媒介契約をした不動産業者は、預かった物件をレインズのデータベースに登録する義務がある。売り手と買い手に公正な取引をもたらすためだが、違反も少なくないのが実情だ。その理由は、売主と買主の両方を自社で見つけ、双方から仲介手数料を得る「両手取引」に持っていくためだ。

 物件を仲介したときに業者が得る手数料収入は、単純には取引額の3%だが、両手取引を成立させれば倍の6%が得られる。

 レインズでも閲覧できない物件は、このような周囲に知られぬまま取引されている物件などがあたる。

利益相反の指摘も


 そもそも両手取引は日本では認められているが、世界的には非常識と捉えられている。なぜなら、売主は高く売りたい一方で、買主は安く買いたいからだ。裁判で例えるなら、被告と原告両方の弁護を同じ弁護士が担当するようなもの。それぞれの思惑が不一致のまま同じ業者が仲介することは利益相反にあたるとして、米国では禁止されている。

 レインズに登録された物件も例外ではない。両手取りで儲けようと考える業者は、レインズを見て他社から内覧依頼があった際、「商談中」と偽り、内覧させないケースもある。

 このような構造を見ていくと、両手取引は買主や売主をないがしろにして仲介業者が利益追求に陥りやすい状況にも見える。

 加えて、不動産取引の成約価格を網羅するデータベースが存在しないので、物件価格の妥当性も測りにくい。私たちがインターネットなどで目にする価格は単に売主の希望価格に過ぎない。希望価格の平均値と、実際の成約価格には当然ズレが生じる。つまり、買主には参考にできる客観的なデータが存在しないので、「この物件が高いのか、安いのか、適正なのか」がわからない。

 不動産業界を取り巻くこうした状況が、日本の不動産流通の不活性化を引き起こす要因になっており、流通が活発でないから住宅の資産価値も目減りする。

不透明さに挑む新興企業


 この不動産業界の不透明さに立ち向かう新興企業がある。大阪市内のタワーマンションという限られた市場ながら、わずか3年で並み居る大手を抑え、売買実績で1位に躍り出たES&Companyだ。

 タワーマンション売買の専門会社として「TOWERZ」のブランド名で展開する同社は、いかにして顧客に透明性をもたらしているのか。

 まず、物件の情報量が豊富なことだ。同社のCOO(最高執行責任者)、芝崎健一氏によると、独自の手法で売り出し情報をひとまとめにし、「流通するタワーマンション全体の9割まで把握することに成功した」という。このため、TOWERZの顧客は他社に比べ、より多くの物件情報を見比べられ、値下がり状況や新着物件をリアルタイムで知ることができる。

 もう一つは、物件に対する格付けだ。売り出し物件のデータベースにアルゴリズムを実装し、投資、セカンドハウス、相続など全22項目で価格割安度を算出。A~Eの5段階で示す客観的な指標を導入している。

 「『住みたいからこの物件を買う』という従来の視点だけでなく、もし数年後に転勤になったらいくらで貸し出せるかなどの目安も分かりやすい。不動産購入に関して多角的な視点から検討しやすくなった」と芝崎氏は胸を張る。

 同社CEO(最高経営責任者)の中岡真吾氏は「顧客満足を追求するためには、日本の不動産業界の変革が必要。そのためには業界内での発言力が必要だ。まずは弊社自身が力を付けなければならない。自らを変え、会社を変え、業界を変え、社会を変えたい」と話している。

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