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記事一覧
カレーライス (仮)01
「ねぇ、これぐらい?」
「どれ? あ、そんなもんでいい。もっとデカい方がいいか?」
「どうだろ? ま、いいんじゃない」
松男は「まかせる」とだけ言うと、再び玉ねぎのみじん切りに取りかかった。キッチンからは時折、くしゃみとため息の中間のような音が漏れている。どうやらみじん切りは相当につらいらしい。
紙袋一杯に入った玉ねぎをみじん切りにするには、相当量の涙と鼻水に立ち向かわなければいけない。涙
カレーライス(仮)02
テレビの天気予報が夕方から雨になると言っていた。雨になるのはいいが、夕方からの雨に備え、日中ずっと傘を持ち歩くべきなんだろうか。アイスコーヒーの氷が音を立てストローをゆらした。
鈴木祐二はグラスを持ち上げ、テーブルにたまった水滴を紙ナプキンで優しく吸いとった。ぬれた紙ナプキンをそのまま、両目にあてがう。冷たい刺激がたまらない。ひと仕事終えた昼下がり、夏場はこれがたまらない。八千代は脚の長いカ
カレーライス(仮)03
正直、あまり悩んだことがない。子どもの頃から大きな夢を見たこともなくて、どちらかと言えばノンビリ屋と言われることが多い。気心の知れた友達からは「ノンビリ」ではなく、ボンヤリと言われたし、学生時代の先輩には愛情を込めてノロマツと呼ぶ人もいた。
小学5年の時に少年野球チームに入ったのも、同級生のお母さん経由で誘われたのがきっかけ。それまで野球が好きだったわけじゃない。
それでも野球はずっと続