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ボーナストラックってどんな場所?プロデューサーの2人に聞きました。

2020年の春、下北沢から代田にかけて新しいエリア「ボーナストラック」が誕生する。このエリアの立ち上げ〜運営に携わる2人のプロデューサーに、立ち上げの経緯、下北沢や代田というまちとの関わり、ボーナストラックという場所に込める思いなどを聞いた。
※この記事は、2019年6月に取材・公開されたものです。

―早速ですが、今回なぜ内沼さんと小野さんが下北沢・代田のまちづくりに携わる事になったのでしょうか。そもそも最初からお二人で、という話だったのでしょうか?

小野裕之(以下 小野):僕は、ソーシャルデザインをテーマにした「greenz.jp」というウェブマガジンを運営する会社を経営してきましたが、ここ2-3年ぐらい、ウェブマガジンで未来志向のことを発信しているにもかかわらず、日本社会や東京の実態がなかなか変化していかないことに限界や焦りのようなものを感じていました。
2年前から、ご縁あって、greenz.jpの取材先である、秋田のコメ農家集団「トラ男(トラクター×男前)」と、東京日本橋で「ANDON」というおむすびスタンドを開業して、ウェブでの情報発信だけでなく、お店の運営にもチャレンジし始めたんです。お店の運営を始めて少し経った頃に、今回開発をご一緒している小田急電鉄さんに「ウェブマガジンだけじゃなくてお店の運営もやるんですね。実は相談したいことがあります」ということで、このエリアの件を伺って、少しずつ関わり始めることになって。

当初から、2階に暮らしながら1階でお店をやっていくような、「職住遊」が渾然一体となるような、まさに商店街でよく見る在り方の、2020年的解釈をどうしていけるか、という議論をしていたんですが、議論が進む中で自然と、(小野さんたちも)マスターリースというかたちで自立的に、リスクも取りながらその在り方を実現してくれないか、というような話に変わっていったんですね。

正直ちょっとそこまでは、と最初は思ったんですが、なかなかこんなにしっかりと「まちづくり」に関われることもないですし、僕自身がウェブマガジンからお店の運営へ、それなりに覚悟と確信を持って舵を切った理由をよくよく思い返してみると、やらないという選択肢はないなと思うようになって。

ただ、絶対にひとりではやり切れないな、と思ったので、これも自然な流れとして仕事の先輩であり、下北沢の先輩でもあった内沼さんに相談しようと思いまして。内沼さんは、greenzにも社外取締役的に関わっていただくぐらい親しい間柄でしたし、下北沢といえばそれこそ内沼さんの経営されているB&Bのある街というイメージだったので。そんなことを考えていたら、バッタリANDONで会うことがあって、「どうですか?」って相談したら、「え?」ってなって。その場では決まりませんでしたが、翌日、「やっぱりやりたいかも」、という連絡をもらって。そこから何度かの打ち合わせを経て、「ボーナストラック」というエリアコンセプトや「散歩社」という会社の立ち上げへとつながっていきました。


内沼晋太郎(以下 内沼):小野くんとの出会いは、僕とgreenzとの出会いにさかのぼるのですが、かつてgreenz創業メンバーである兼松(佳宏)くんと、三番町にあったCo-labのブースを2人でシェアしていたんです。そのときがちょうど、兼松くんが初期のgreenz.jpのデザインをしているときでした。そこからgreenzとの付き合いは深くなっていって、イベントに登壇させてもらったり、NPOの正会員として参加させてもらったりしたことを経て、小野くんとも自然と仲良くなっていきました。greenzのビジネス部分をほぼ一人で回しているのを横で見ていて「すげえな」と思っていました。

下北沢で本屋(B&B)を経営しているので、小田急電鉄さんからはわりと早い段階から今回の件のヒアリングなどを受けていました。当初は、今回のボーナストラックとは別のブロックの企画に声をかけていただいて提案をしたのですが、提案が尖りすぎていたのか、そのままは通らなくて。小野くんが別のブロックに携わっているのは知っていたので、ANDONで小野くんから相談されていろいろ方向性などを聞いたときに、そっちのほうが面白そうだという気持ちが出てきて、一緒にやってみようということになりました。

ぼくは本屋を経営していくために本を売る以外のビジネスを組み合わせることについて、ここ数年いろいろなところで書いたり話したりしてきたのですが、まじめに考えていくと当然本と組み合わせるそれぞれの小売や飲食、サービス業などあらゆるリアルビジネスについてちゃんと知り、考える必要が出てくるんですね。そして結局、本屋であろうがカフェであろうが、店の本質というのはそこで働く人であり、そこを訪れる人であり、その店と人の集合が街になる。本屋について考えていたはずが、いい店とは、いい街とは何か?ということについて考えざるを得ない、というところに行きついてしまって。

また、いい街にはいい本屋が必要だ、というのもよく言われますよね。さらにいえば、本というもの自体がいま、インターネット以降に今までとは同じでいられなくなっていて、いま何かをわざわざ紙に印刷して「モノ」にする意味、それを並べて売ることの意味を考えると、それもまたどんどん人・店・街というキーワードに繋がっていくというか……話が取っ散らかってきましたが(笑)、とにかくそれらのことについてきちんと考えて実践していくためにも、今回この流れで下北沢のまちに深くかかわるのはとても自然なことなんじゃないか、という思いが強くなっていきました。

小田急線が地下にもぐって、この下北沢から世田谷代田駅にかけてのエリアにボーナス的に生まれた線路跡(トラック)ということで、今回僕らが携わるエリアには「ボーナストラック」という名前をつけました。また、音盤におけるボーナストラックというのは、本来の作品の外側にあるけれど、実はアーティストたちがやりたいことをやりやすい部分でもありますよね。そういう余白のような場所として、いろんな人に、本来やりたいことをここで思う存分やってほしい、という思いも込めています。

―なるほど。それでは既にお話にも出てきていますが、あらためてボーナストラックとはどんな場所を目指しているんでしょうか。

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小野:さっき話したように、2階に住みながら1階でお店を運営していくようないくつかの長屋をベースに、真ん中にほど良いサイズの広場もあったりして、商業施設というよりは、職住遊が渾然一体となった商店街であり、小さな複合型施設であり、という感じで。立地的にもちょうど下北沢駅と世田谷代田駅の中間にあって、どちらも歩いて5分ぐらいなので、下北沢の商業感と代田の住宅感を合わせ持つような。

ボーナストラックのコンセプトは内沼さんが説明してくれた通りなんですが、本や映画、音楽など、いわゆるカルチャー方面が強い内沼さんと、ソーシャルやローカル、つまり、地域の課題解決や働き方、多様性、福祉などに特化したウェブマガジンを10年ぐらい運営してきた僕とで、わざとらしくなり過ぎないかたちで、その両面が混ざったような商店街を、小さな街をつくっていけないかなと思っています。なので、良い意味で、ボーナストラックというコンセプトや名前は、そんなに前に出ていかなくていいのかなと。

ボーナストラックには、飲食店も物販も、シェアオフィスもシェアキッチンも住居もつくっていく予定ですので、それぞれ魅力的なお店がインディペンデントにやっているのがまずは基本かな、と思っていて。住まいも働く場所もあるこの場所から、こういう生き方が日本や東京で当たり前になったらいいよね、というのを、だんだんとみんなで実験していけたらいいかなと思っています。あ、あとは、小田急電鉄さんからもらった重要な与件として、若人たちのチャレンジの受け皿になり続けられるようなエリアにしようというのがあります。街が魅力的になっていくと、だんだん賃料が上がってしまって、本来その街の魅力のひとつでもあった若い人たちがチャレンジできる場所ではなくなってチェーン店ばっかりになってしまう、という現象がよく起こるんですが、もちろんそういうエリアもあっていいとは思うんですが、ここはそうならないようにしよう、と。なので、最初に設定している賃料も下北沢周辺エリアにしてはすごく低く抑えられていますし、今のところ、それを上げていくつもりもありません。


内沼:働く人も訪れる人も、様々なバックグラウンドを持った人がそこに行き来して、それぞれの営みの中でそれぞれの関係性をつくっていく。ことばで言えば当たり前のことというか、街というのは本来、そういうものだと思うのです。けれど、実際には多様性が失われていたり、関係性が希薄になっていたりして、人の気持ちが狭量になりがちな街も増えているように思います。ボーナストラックは、できるだけ互いに相手を尊重し、それぞれが受け止めるやさしさと、何か自分なりにあたらしいことをはじめようとする人のための余白があるような場所にしたいです。
具体的には、真ん中の小さな広場が、エリア全体にとっての空間的な余白となります。そこに向かってそれぞれの店の営みが少しずつはみ出していったり、いろんなイベントが行われたりすることを想定しています。テナントとして出店する以外にも、様々な関わり方ができるような場所にしようとしていますね。

―具体的にはどんな風に関わっていくことができるのですか?

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小野:ボーナストラックには、飲食店も物販も、シェアオフィスもシェアキッチンも住居もありますので、自分のお店を持ってもらったり、シェアスペースの会員になってもらったり、住人として住んでいただいたり。建物だけじゃくて広場も使って、自分のお店を持ってみたい、下北沢エリアでチャレンジしてみたいという方たちに出店していただくような、マーケットや夜市みたいなものもやっていきたいですね。

さらには、お店を出すわけじゃないけどこの場所に関わりたいと思っていただける方たちに、街をシェアするようなメンバーになってもらって、一緒にイベントを運営したり、出店者を探したり、広場で使うストリートファニチャーをDIYしたり、そんなことをしていきたいですね。とにかく、こんなことが当たり前になったらいいな、でもどうせ無理、ハードル高いしって他の場所だとあきらめちゃうようなことを、みんなで実験していきたいですね。ただもちろん、ボーナストラックの周辺エリアにお住まいの方や、商売をしていらっしゃる方もたくさんいるので、すごく前のめりに実験していく要素だけではなくて、ここでみんながリラックスした時間を過ごしたいと思ってもらえるようなことを、とにかくちゃんと、時間をかけてやっていきたいです。

内沼:ある意味で商業施設のような場所でもあるのに、必ずしもどこにお店を出さなくても主体的に関われるという運営形式は、ひとつのチャレンジです。どのくらいうまくいくかはやってみないとわかりません。近隣に住んでいる人や働いている人ももちろんですが、必ずしもそうでなくとも、下北沢・代田という街や、このボーナストラックという場所が、よりよい場所であってほしい、そこで自分も何かしたい、あるいは何かしたい人を支えたい、といった思いで、自分ごととして関わってくださる人を、いまのうちからゆるやかに集めて、一緒に考えていきたいと思っています。

―先程お話にあった小野さんのANDONも、ボーナストラックに入居するんですよね?

小野:はい!ANDONは僕にとって初めての飲食店運営ですし、経営もまだ、軌道に乗り切った、とは言えないんですが。ただ、これはボーナストラック運営者ではなく、ひとりのテナント、出店者として、先ほどお話しした通り賃料は相場より安いですし、コンセプトも設備も立地も、本当になかなかないぐらい魅力的だなと。引くぐらい手前味噌ですが(笑)。

あとは、日本橋で小さな飲食店をひとつ営んでいる今の状況だけではできない、よりいろんな人に働いていただくとか、良い食材を多めに仕入れることで適正価格でお客さんにお届けするとかそういうチャレンジもできるなと思っていて、リスクも増える分、メリットも増えていくことを期待しています。

内沼:ぼくも、今の時点ではまだはっきりと言えないのですが、いち出店者としても関わることになる予定です。ほかにも、こちらからお声がけをして入居が決まっている人たちはみなすごく面白い人ばかりで、きっと求心力のあるエリアになると思います。ANDONのおにぎりをはじめ、通勤や通学の人が朝食をテイクアウトできるような場所にもなると同時に、もちろん昼はランチを、夜はお酒を出すお店があるので、時間帯によっても表情が変わってくるはずです。飲食だけでなく物販のお店も含め、個人的にも相当、いまから楽しみです。

―下北沢・代田にとって、また住む人にとって、どんな場所と受け止めてもらいたいですか?

内沼:この界隈の魅力は、歩いて楽しい街であることに尽きると思います。平日の昼間であっても、何をするでもなく、ただ歩いて楽しんでいる人がたくさんいる。また、よく若者の街と言われますが、実際は歩いている人たちのタイプもかなり幅広くて、タピオカミルクティーや韓国風ホットドッグに行列をつくるライトな層から、音楽や演劇やお笑いに人生を捧げるディープな層まで、ひとくくりにできない様々な若者が行き来し、一方で、夜になるとひっそりと開店するレベルの高い飲食店に集まる大人も実はたくさんいる。そういう無数のレイヤーが重なる街でお店をやる面白さを、B&Bをやっていても常々感じています。
ですが一方で、下北沢駅周辺の商店街は地価も高騰しているので、どうしても出店のハードルが高く、これまでの下北沢らしさをつくってきたような挑戦的な個人店が生まれにくいと思います。挑戦がしやすい環境をつくることで、いい意味で下北沢らしいと思ってもらえるような場所になれば、うれしく思います。

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小野:しばらく下北沢でお店をやっている内沼さんの意見に加えるならば、下北沢ほど積極的に、住民や商店オーナー、来訪者や地権者が、つくっていっている街は、東京にもなかなかないと思います。積極的がゆえに、それぞれの立場や意思が、ときにはぶつかり合って、ハレーションがあったということも聞いています。そういうことをテーマにしたイベントや本、映画もありますので、あえてそれを語らないのも変な感じすらします。僕もこの1年ぐらい、何度か、世田谷区が主催する住民説明会、討論会に参加してきました。ボーナストラックとしてというよりは、これは僕個人として、なにか個人的な、強烈な個性を発揮していきたいタイプではないので、それぞれの強烈な個性を、ゆるやかにつなぎながら、内外に発信していけたらいいなと思っています、これもアリだよね、それもアリだよねといった具合に。内沼さんはもう何年か、下北沢でお店をやっていますが、僕は本気で新参者なので、もちろんこうしたらいいんじゃないかという仮説がないわけじゃありませんが、まずはそれにとらわれることなく、自分自身が下北沢を楽しみ、可能性や課題に触れて、そこで感じたものを、だんだんとカタチにしていけたらと思っています。なにせ、魅力的な飲食店やコーヒー屋、演劇人や芸人さん、音楽バーからサブカル系まで、すでに下北沢にはコンテンツが代田は代田で、なにげない日常の暮らしを大事にする商店主やお祭りなんかも、たくさんありますから。

内沼:うちは7年やっていますが、下北沢のあたりには何十年も続いているお店もたくさんあるので、まだまだ新参ですよ。先輩方のつくり上げてきたこの界隈らしさを引き継ぎながら、ぼくも何十年もかけてじっくり、自分たちの場所として、より気持ちよい場所にしていきたいと思っています。

―ところでさっきから気になっていたんですが、そこにあるダルマはなんですか?

小野:このエリアの象徴です。

内沼:個人店の集まりですし、縁起ものですかね。みんなが気に入ってくれたら、グッズでも作ろうかな。



アートディレクション・小田雄太(COMPOUND) 撮影/高橋宗正  取材・編集/木村俊介(散歩社)

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