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タイムレスな傑作が教えてくれたもの

世界情勢が大きく変わった昨今。
これまでも各地で紛争は発生していましたが、宇露という知り合いもいる国での戦争は、より身近な出来事に感じています。

SNS上では情報戦というエモクラシー時代の戦いが起きていますね。戦火であってもインフラが整っているIT大国の凄さを実感する一方で、歴史的建造物が破壊されているのも現状。「芸術は争いと対極にある」と考えられがちですが実際のところは、利用をされたり先に被害を受ける対象ですよね。哀しい。

NCT×UKR

かつて、NCTの作品ではUkraineのチームが携わり首都kyivで撮影をしたものが3つあります。

素敵な町並みを舞台に美しい映像作品を残してくれた制作陣に対する感謝と敬意を込め、NCT U「Boss」「Baby Don’t Stop」WayV「Take off」の制作背景や関連情報を書き留めておきます。

全て韓国チームとの共作

はじめに、kpopのMVというのは美術セット・撮影クルー・スタイリング毎に別のプロダクションが関わって作られるものになります。芸能事務所独自で作る例は非常に稀なので、基本コンセプトを社内(SMだとA&Rチームが担当)で決めて、その後は外部委託をするというフロー。

NCTの場合は、teaserとMVで映像制作会社やフォトグラファーが別である事も多くteaserと本編は"別物"パターンが最近はよく見受けられます。これはSNSマーケを意識した作り方かなと。

あとは、クレジットを見ていても、相当数のチームが携わっていてSMエンタはそこにお金をかけている印象が強いです。最近のNCT DREAM「glitch mode」では3形態のteaser写真を担当したフォトグラファーが複数いました。贅沢〜。

production

MV映像担当は3作品共に韓国のGDW。そちらに所属するのが有名dirのoui kim氏であり、今回もディレクター責任者として一番に名前が挙がっています。Behind映像でも結構映り込んでいました。GDWが最近担当をした作品だとNCT DREAM「glitch mode」とNCT127「Sticker」等です。

因みに先日、彼は個人IGで”現地のモニュメントを保護する方法”という現地メディアの記事をシェアなさっていました。かつて、映像作品の舞台として選んだ国の現状を多くのユーザーに共有する姿勢には敬意を表します。

そして、3作品の映像を共同で手掛けたのが、現地Ukraineの映像制作会社family production。撮影しようと思った経緯が不明なので是非背景を知りたいですね。依頼したGDWが好きなのか、SMEのA&Rチームの趣味か‥。

「BOSS」「Baby Don't Stop」の2作品のDirector of Photography:Hyunwoo Nam氏。当時は上記で紹介のGDWで現在はmother media所属。最近だとIVEの映像制作に携わっていました。 

また「BOSS」と「Take off」のteaser映像は別のプロダクション、韓国のfilm by teamが担当しています。ここの映像作品が非常に好み。

BOSS teaser MARK&LUCASより

film by teamは、一時期NCTとの仕事が多くて好きな映像は全てこのプロダクションが担当していました。普段は、雑誌の映像制作を行なっている様なので、kpop音楽では、MVというよりイメージ映像の制作を請け負っている印象です。また、残念ながら最近の情報は得られていません。

BOSS

BOSSはteaser含めて、kyivの色んな所で撮影をしていますね。当時はNCTチャンネルが無かったのでBehindもSMTOWNチャンネルにあがっています。滞在中の様子は〈In Ukraine!〉シリーズにて。

このMVは、かなりの工数を割いて丁寧に作り上げた事がBehindを見ていても伝わってきます。そんな制作秘話の〈The Story of BOSS〉を、今回久しぶりに見返しました。

Behindのワンシーンより

まさか別の感情が混ざりながらこの動画を見る事になるとはな…

BOSS期の画報

2018 VOGUE KOREA

他にもこの時期には、BOSSメンでの画報がありましたね。あとは現地に同行した韓国のフォトグラファーによるオフショットも素敵でした。



BOSS撮影スポット

📌Vernadsky National Library (国立図書館)

103年前に創立された図書館。何度か改修工事は行っている様です。1600万点の文献、記録がコレクションが存在しています。建物は地上27階建て。

当時、聖地巡礼をなさっていた方のブログも見たけれど、よくここを撮影地に選定したな~と。


📌 Ukrainian House Convention Center

最大の国際展示会およびコンベンションセンター。「Ukraineの家」と呼ばれるこの5階建ての建物は、展示会、見本市や会議から国際協会の会議、新製品の発表、宴会、テレビのセレモニー、スポーツイベントなど、様々なイベントの開催地となっています。1978年から1982年の間に建設され、元々レーニンの生涯を記録したオールユニオンレーニン博物館として建てられました。


📌Abandoned bus fleet №7
情報量が少なくてサーチが難しかったのですが、素晴らしい記事を見つけました。ご興味ある方は原文をどうぞ。

kyivで最も印象的な近代建築の1つは、近年市内で最も問題のある遺跡の1つ。かつてukrainaの運輸業界の誇りだった「オートバスパーク№7」は、今日では、約1,000台の放棄されたバスの死体安置所として存在しています。(下記サイトの意訳文)

退廃芸術マニアには堪らない場所。ただ、戦時下で廃墟が増える今、こういった退廃美への見方も変わってきますね。

Polina Polikarpovaさん
BOSS・BDSの現地teaser写真を撮った写真家さんです。建築と被写体の美しさを対等に撮るところ、拙者が好きな構図ですね。

BDS,BOSS teaser

リサーチをする中で現地のクリエイターを特定するも現在の状況が分からない方、IGが判明しない事が大半でした。その中で唯一多く情報を探れたのが彼女です。

戦時下での避難生活を載せている記事にも紹介されていました。今でもシャッターを切りながら現地の状況を伝える活動をなさっています。


Baby Don't Stop

リリース当初、あまりの芸術点の高さに驚いたのがNCT U「Baby Don't Stop」色褪せぬ名作です。

NCTメンバーを見ていると、音楽的素養の高さを感じる事が多いのですが、中でも表現者”テテン”は別格だと思っています。

2人ってMVメイキング映像の際に俯瞰した上でのコメントをしているんですよね。周りのメンバーをよく見ている。用意された歌とダンスをやるというより即興でやってる?と思える余裕のあるパフォーマンスが共通点です。

「そう、それが知りたかった」という情報を発信してくれる事も多いのでありがたいよ。

ELLE Japonより

テヨンちゃんは、根がクリエイター気質。現に楽曲の作詞やアレンジメントにも携わっているので、ディレクターをやる日も待ち遠しいです。

何度見返しても彼らの才能が”美しい音と映像で届いた”事に、感謝が湧いてくる作品。玄人向け音楽を生み出していた初期のNCTは、BDSを以て芸術の完成美を見せてくれたなと思いました。黒と赤を基調にブルータリズム建築の寒色。素材を引き立てるシンプルな衣装。全てが計算尽くされたアートです。

BDS期の画報

BDS期の伝説マガジンと言えばDAZED。ディレクションした人、全員ボーナス!!!!良すぎませんかね…またこの構想でMV撮れちゃうよ。

DAZEDのフォトグラファーが、威神のtake off音盤の写真を撮ったのでは無かったっけ…? SMエンタの専属クリエイターたちは、雑誌界隈の出身者ですしスタイリストの多くも普段は画報に携わっている人たちなので、横の繋がりが強いと見ています。また味のある画報待ってます!!私情ぶち込む人

BDS撮影スポット

📌S.P. Korolʹova Palats Kulʹtury Concert Hall 

ソ連時代からある建物。荒廃していて現役で使われている建物では無いものの、数か月前には改修工事が完了したとの口コミも散見。現地のNCTzenが聖地巡礼するスポットとなっています。


Take off

韓国チームは、GDWが主軸となっていて、他には現地UKRクリエイターがそれぞれ構成・映像・ロケハンに携わっています。クレジットに個人名が載っていましたがプロダクション所属としては明記されていなかったので、現地のフリーの人たちとfamily productionでタッグを組んだのかなと思っています。

take offもティーザーと撮影クルーでチームが違う模様です。ティーザーは上記と同じくfilm by team。

このteaserは凝っていて良かった。本当に優秀なチームなのでまたNCTと仕事をして頂きたいですね。もはやクリエイター仲間を通じて、韓国に直談判しに行きたい。



Take Off撮影スポット

📌kiev polytechnic institute 
ほんの数秒のカットであっても、色んな所で撮影をしているMVって良いですよね。最近は箱でのMVが増えましたが・・・。

kievにある国立の技術大学


GDWはドローン撮影が得意なチームなので、外ロケの方が映像が見やすいですね。現にこのMVではドローンが思いっきり登場します。

作中に於けるウィンウィンには目を奪われるというか一際、存在感がある。

📌Ukraina shopping mall

ショッピングモールの駐車場。
ダンスシーンで多く登場しています。
爆撃を受けていたショッピングモールとは別の所の様です。

📌ANTONOV Company 

国有企業のアントノフの飛行場での撮影。

📌Podil's ko-Voskresens'kyi Bridge
BOSSメンバーが現地に滞在している時にupしていたTwitter写真にも映り込んでいた場所。

ダンスシーンで印象的に残る橋。
ソ連時代から建設の話は挙がっていたものの、資金不足で工事が中々進まなかったそうです。


NCT Uの魅力

元よりU楽曲のテーマに忠実な作風が好きであると公言していた我。"音楽で売る"アーティストスタンスが好きなので、ベストメンバーを選抜し必然的に音楽性の高まるU制度は願ったり叶ったりでした。ある程度、コンセプトを決めた上で人選をしているのか、その逆なのか…も気になるところです。

新規層の方々は特にBOSS・Make A Wishからの流入が多いと思いますね。マス人気の高いジェヒョン・ルーカスを始め、NCTの主軸テヨンはどちらの楽曲にも参加をしています。マークもBOSSにはいますね。

当方は楽曲リリース後にanalyticsをチェックして、何処の国&年代にヒットしているのか数字でのデータを取得しています。それを把握した上で次の楽曲やターゲット選定を先読みし"当たると楽しいな〜"って感じで各事務所の戦術を分析してる。


芸術を愉しむ

つい告示を忘れてしまう欠点をお持ちのSMエンタさんですが、メンバーの適材適所に合わせた仕事の振り方、彼らのアイデンティティを尊重したスタイリングを施すことは比較的得意な事務所です。

老舗の大手でありながらもクリエイティブ面では亜種であり続けている。外部の無名クリエイターを積極的に起用している点は、演者同様、隠れた才能を引き出すことに価値を見出しているのかなと思いますね。

今期リリースのNCT DREAM「Glitch Mode」も2人の作曲家・作詞家の夢が叶ったようです。嬉しいね。

専門分野は違えど、同じく裏方の身。ゼロから生み出す仕事の難しさと面白さをよく分かっているからこそ、素晴らしい作品を残してくれた時には、彼らに出来る限りの称賛を届けたいという気持ちがあります。それがモチベーションとなれば、また秀抜な「作品」で還元してくれるはずなので。

一方、SNS上でkpopアイドルのビジュアル先行な話題がバズるマーケとして存在しているのも事実。そういった構造内でPDが利益追及していくと商業音楽化が進み、演者の切り捨ては加速するという事を懸念しています。

だからこそ啓蒙を高める為にもSMEのディレクションチームや外部のクリエイターさんらにフォーカスをした話をしていきたいですね。

芸術音楽は思考力を深化させる

最後は冒頭の話に。昨今のキャンセルカルチャーの現実にも目を向けつつ、多様な文化や歴史を学び直しています。諸問題が起きた際はトピックに沿って議論がなされる事が多いですよね。それは有意義な事であるとは思うのですが「当事者」を代弁する際には少なくとも自省や出来る限り、当該人物と話すことが必要不可欠だと思っています。

有事の際に出来ることは限られているし、1つの正解の形は無いはず。当該3作品のMV動画のコメントを見ていたら新規のものはUkrainaへのメッセージで溢れていました。携わった現地スタッフや同国のファンが目にして多少なりのサポートになっていたら嬉しいな。

一番大切なのは情報精査をし、自分の頭で考えて行動をすること。何に於いてもSNSで情報を得る時代だからこそ、キュレーション力を磨くことが重要ですね。芸術・音楽を愛する全ての人々が、表現の世界に戻れるよう願います。

注釈を避けるため、敢えて該当国の国名はカタカナ表記をしていません。制作陣はアルバムクレジットを参考に調べました。撮影地は@totheworld_9090 さんのツイートから。💡出来る限り担当者のお名前又はクレジットを付けた上での情報開示に努めています。


▼NCT関連note

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