見出し画像

変な持ち方

 だいぶ以前の話だが、自宅で家族と飯を食っていたとき、私の箸の持ち方が変だという話になった。家族みんなの持ち方を見比べてみると、確かに私だけが違う。
 しかし、変なのは私ではなく、みんなのほうかもしれないじゃないか、と、往生際悪く反撃したが、変なのはどうやら私のほうらしいとわかった。

 他人と外食することももちろんあるが、そういったときに、変な持ち方だと言われたことはない。そんなことを言っては失礼だと思って指摘しないということもあろうが、そうではなく、おそらく気づいていないのだ。
 つまり、その程度の〝変〟でしかないということだ。実際、私は米粒ひとつとか糸こんにゃく一本とかもつまめるし、食事にはなんの支障もない。

 私は誰からも箸の持ち方を教わった覚えがない。たぶん、見よう見まねの自己流だろう。
 じつは以前、その私の〝流派〟に属する人物がひとりいた。長女だ。現在は嫁いで一人娘の母親となっているが、幼い頃は晩酌をする私にいつもくっついていた。そのために、私の自己流を覚えてしまったらしい。
 ところが長女は、小学生のとき、間違った持ち方だと自分で気づき、正しい持ち方に変えてしまった。私はその時点で、弟子のいない〝一人流派〟となってしまった。

 ところで以前、やはり家族に、鉛筆の持ち方が変だと言われたこともある。私はそういう状況に陥ると、「ふっふっふっ。おれは凡人とは違うのだよ」などと言って開き直るのだが、箸の持ち方も鉛筆の持ち方も、いまだに開き直ったままである。
 ふっふっふっ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?