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ダニとダニのようなやつ

 このところ、マスメディアでダニのことを見聞きするようになったと思っていたら、「只今休業。」さんが「街中でも、マダニにやられる」という記事を投稿されていた。
 ほう、ほんとにそういうことがあるんだなと興味深く拝読したが、その翌日には産経新聞に、「マダニ感染症 東に拡大」という見出しの記事が載っていた。小見出しには「高い致死率、ペット通じた事例も」とある。

 その感染症とは、「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)」という、名前からして不気味な病気をさしている。
 これまでは西日本に多かったが、しだいに東へと感染が広がり、昨年の患者数は過去最高だったという。ちなみに、前年の患者数は118人で、昨年はそれを上回る133人だったとのこと。

 この感染症を、恐縮だがまた同紙から抜粋して要約すると、潜伏期間は6日間から14日間程度で、症状としては倦怠感や嘔吐、腹痛など、消化器系に表れることが多いという。
 罹患する年代は60代以上が多く、高齢者は重症化しやすい。致死率は6パーセントから30パーセントというから軽視できない。

 もしもマダニが吸血していることに気づいたらどうするか。自分でマダニを取ろうとせず、皮膚科などの医療機関で処置するのがいいという。自分で取ろうとして失敗すると、マダニの口(口器というらしい)が皮膚内に残って化膿したり、別の病原体が侵入しやすくなったりするのだそうだ。

 この感染症のウイルスを媒介するダニは、タカサゴキララマダニという、名前だけはおめでたそうなやつと、フタトゲチマダニという、意味がわからない名前のやつの2種類だ。
 と、ここまで書いたところで、ふと、イエダニのことが頭に浮かんだ。そこで調べてみた。マダニとイエダニの基本的なところを較べてみよう。

 マダニの体長は3ミリから1センチ程度で、たっぷり血を吸うと1センチから2センチになる。ダニの体の大きさの割りにはかなり大量の血を吸うことになる。
 それに較べてイエダニはだいぶ小さく、わずか0.3ミリから1ミリでしかない。これでは肉眼で確認するのはむずかしい。
 マダニの棲息場所は森林や草地で、山野、畑、公園、河川敷などに多い。イエダニは屋内で、主としてネズミに寄生して棲息している。ネズミの体のほか、巣の中にもいる。

 マダニに刺される(噛まれるのではない)と痒みやかぶれなどの皮膚炎を起こす。ひどい場合には前述の感染症のほか、ライム病や日本脳炎に感染することもある。
 イエダニも痒みやかぶれなどの皮膚炎を起こし、きわめてまれだが、ツツガムシ病という感染症を媒介するという。
 発生時期は、マダニが春と秋、イエダニが6月頃から9月頃の間に多い。
 ダニについて少し知識がついたような気がするが、こんな連中のことを知ってもうんざりするだけでうれしくはない。

 自分以外の人から金銭や品物を搾取したりする悪人のことを「ダニのようなやつ」などと言ったりするが、この言葉はまさに、寄生して吸血するというダニの本質をよく捉えている。
 血を吸うということなら蚊やブヨも同じだが、「あいつは蚊のようなやつだ」とか「あんたなんかブヨにも劣るわ」などとは言わない。いや、言っても悪くはないが、気の抜けたビールみたいで迫力がない。

 ダニが蚊やブヨと決定的に異なるのは、前述のように、吸血中のダニを取りそこなった場合、皮膚内に口器が残るという点だ。「ただじゃあ死なねえぞ」と言わんばかりにしつこくたかり続ける。
 これこそダニの〝真骨頂〟であり、「ダニのようなやつ」と評されるゆえんだ。

 「ダニのようなやつ」という言い方は、「あまり仕事ができない」「周囲に不快感や嫌悪感を与える」といった人物に対してもいうが、いずれにしても侮蔑や軽蔑などの悪いイメージばかりだ。
 ダニにも、ダニのようなやつにも、縁がないことを願うばかりだ。




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