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現代おビョーキ大全〔高尻圧症〕

 夫婦間のみで発症する生活習慣病の一つ。さまざまな面で妻が夫に対して支配的立場になる。世間で俗に言われる「尻に敷く」あるいは「尻に敷かれる」という表現が「高尻圧(こうけつあつ)症」の名の由来。
 年齢的には圧倒的に中高年層が多いが、30代、40代という比較的若い層にも見られる。

【症状】
 一般的には、結婚から時が経過するにつれ、妻の態度が夫に対して徐々に高圧的になる。いわゆるマウントをとる状態になる。
 症状は多岐にわたり、それらを総合して「高尻圧症候群」と呼んでいる。具体的には以下のような言動が現れるようになる。本事典としては例外的に例文を用い、よくある症状の例を示す。

●大きな買い物でも夫には相談せず、事後報告ですます。重症の場合は報告もしなくなる。
「あなた、先月ボーナス出たわよね。いまのテレビ、もう古いから50インチの新型注文しといたわ。あなたが元気で働いてくれるから助かるわ~」
●同窓会など、泊まりがけや遠方へ出かける遊びも自分の思い通りに決めて実行に移す。
「9月の7日と8日、高校の同窓会に行ってくるけどいいでしょ。男女共学だったけど、たぶん何もないから心配しないでね。おみやげなんか期待しないで。家計の節約しなきゃなんないから」
●夫が休みの日などに、家にいさせないようにしたがる。
「あたし、あなたに長生きしてほしいのよ。だから毎日3万歩くらい歩いてね。少しくらいの雨なんか気にしてちゃだめよ。自分のためなんだからさ。ぐずぐず言ってないで。ほら、さっさと靴履いて。あたし、ゆっくり本読みたいから」

【原因】
 この病気にも先天性と後天性があるが、大半は先天性である。一見後天性に見えても、多くの場合、潜伏していた先天性の因子が、なんらかの刺激に誘発されて発現するものである。
 主として〝妻の自我の発動〟が起因であり、これが肥大化して発症する。

 夫婦によって差があるが、結婚してしばらくの間は愛に満ち、妻が夫に従うような構図で夫婦生活が進行する。
 しかし、歳月の経過とともにさまざまな変化が現れはじめる。夫の体型は腹部を中心に崩れ始め、表情や言動からは精彩さが失われていく。これは妻もほぼ同様で、このあたりから妻の因子が活動を始める。

 こういった段階になると将来の夢などというものは文字通り夢物語になってしまい、年金や老後のことばかりが脳裡をよぎる。
 「妻が夫の威厳や包容力に不満を感じると夫の存在を軽視しがちになります。そして、妻の自己主張や欲望は発達する低気圧のように力を増し、無意識のうちに夫の存在を抑え込むことになります」(爪退女子大学 槍杉好代教授)。

 性生活にも変化が生じる。夫は加齢やストレスによって体の一部が正常に機能しなくなったり、妻は更年期でやはり心身ともに不調になったりと、あれこれ支障が生じたりする。
 「行為の内容が淡泊になったり回数が減ったりするようになります。給料日や結婚記念日にだけするとか、いつが最後だったか思い出せないほど長い間しなくなるなどという場合も珍しくありません」(ポーランド ゴブサータ性科学研究所 ポルノッチ・スケベスキー主任研究員)。 

【治療】
 夫がかつての魅力を取り戻す以外にない。平たく言えば妻が惚れ直す状態を作りだすということである。ただし、現実にはきわめて困難である。
 さらに、妻の高尻圧症が発症していた期間が長いほど、夫が受けていた心理的ダメージは大きく、完全な回復はむずかしくなる。

 ただし治療の可能性がないとは言いきれない。それは、妻が結婚当初のような初々しさに立ち返ることである。
 しかし、そのためには夫も結婚当初のような魅力を再現しなければならないというジレンマが立ちはだかる。
 以上のようなことから、治癒の可能性は実質上皆無に等しい。

【予防】
 ひと言で言えば、先に述べた【原因】の逆を実践すれば予防できる。しかし、それはあくまで理論上のことであり、現実には【治療】と同じく非常に困難である。それは夫が、妻を惚れさせた魅力をずっと維持できるか否かにかかっているからだ。

【その他】
 妻が夫を尻に敷いている様子は傍から見ても体裁がよくない。だから、よそへ出かける場合には、せめてそのときだけでも症状が出ないよう自制すべきである。
 それさえできないほどの状態になると世間から笑われるだけとなり、笑いごとではなくなる。

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