20240215スタバにて

その日僕はとにかくぼーっとするためにスタバを目指していた。連日の残業から現実逃避をぶちかますべく、充電の切れたスマホ二台とこれまたただの板となっているPC一台、穂村弘のエッセイをリュックに突っ込んで自転車をこいだ。

近所のスタバには平日昼間だというのにたくさんの人がいたが、運よくぼーっとするのに最適な大きな窓に面した席に滑り込むことが出来た。柚シトラスティー片手に席につく。何たらペチーノみたいなクリームもりもりのやつは体質的に向いていないため、最近はいつ来てももっぱらこれを飲んでいる。

ふと横を見た時、横の人が履いている靴と僕の家にある靴が同じなことに気づいた。白地に青と赤の3本ラインの入ったアディダスのスニーカー。数年前にバイトの大将にもらったのだ。(大将にはほかにも靴下、真赤なパンツ、金のダウンベスト、グレーのマフラーをもらっており、大将からのもらい物フルコーデで見事に変態が出来上がる寸法になっている)

あ、おそろいや、声かけようかなと思た次の瞬間、その人の旦那さんとみられる方も同じスニーカーを履いていた。
危うく変なトリオルックが完成するところだった。危ない危ない。

なんとなく勝手にシンパシーを感じつつ、当初の目的だったぼーっとするを実行し始めた。合間に穂村弘のエッセイを読みつつ、いい感じにガスを抜いている。

「いや、やからお前が勝手に決めただけちゃうんか」

平日14時のスタバには不似合いなセリフと不似合いな雰囲気を感じて横目でそっと声のする方を見てみた。若い兄ちゃんとおじさん二人、おじいさんとその奥さんとみられる人がスタバのど真ん中の席でにらみを利かせている。主に若い兄ちゃんとおじいさんが口論になっているのだが、何をどう聞いても(勝手に聞こえてくる)、兄ちゃんのお母さん、おじいさんの娘さん、がなくなって、その遺産相続の話をしている。そして、今にも手元のコーヒーを相手の顔めがけてぶちまけんとするくらいにはもめている。

やめてほしい、ぼーっとしたいのに。というか、孫とおじいちゃんっていちばん争わない組み合わせと思ってたけどそうでもないんや。遺産相続って怖いな。てかそんな込み入りまくった話こんなにも白昼堂々せんでもええやん。みんな聞き耳たてるやん。昼ドラやん。

無駄な思考が出てくる出てくる、あっという間にぼーっとする集中力が切れてしまった。

そんな調子で30分くらい遺産相続の話を聞き(聞かされ)、いよいよ俺が出るか、お前らが出るかと思い出したタイミングでおじいさんが席を立った。
孫とのもめ事を終えスタバを出るおじいさんの背中はとっても小さく見えた。

僕のぼーっと時間はあっという間に崩れ去り、せつない気持ちだけが残っている。いっそなくなったお母さんの遺産はすべて埋蔵金としてどこかに埋まってしまえばいいのにな。きっと親戚一同仲良く探して山分け、、しないか。もめるか。でも見つけたもん勝ちならある意味公平だしいいんじゃないか。

そんなことを考えながらカップの底にたまった柚のジャムみたいのを流し込んで店を出た。

「おじいちゃんにラインしとこ。」

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