貴方の二外にロシア語を
第二外国語、というものがあります。読んで字の如く、第二の外国語です。日本の場合、多くが第一外国語として英語を学ぶことは皆さまご承知の通りです。そして大学に入ると、多くの大学が第二外国語の授業を必修として設置しています。
このnoteは、二外選びに迷う新大学生に向けて、どんな第二外国語がオススメかを紹介する…のではなく。ロシア語って面白いぞ!という露西亜語布教のためのnoteになります。
ロシアの文字は難しい?
さてさて、早速ロシア語のお話を始めていきたい、のですがその前に。
皆さんはロシア語について、どんなイメージをお持ちですか?
「難しそう」「文字が読めない」「д←これ絵文字でしか見た事ない」などなど…。全体的にネガティブなイメージが先行しているのではないでしょうか。
おそらく、そのようなイメージは、大体キリル文字のせいです。
…とまあ、パッと見た感じ何も読めません(゜Д゜)
上のような顔文字でもお馴染み「Д(でー)」、英語のRをひっくり返したような「Я(やー)」、ハングルと言っても信じる人がいそうな「Ю(ゆー)」は初見で読めるはずがありません。これら未知の文字に加え、一見アルファベットに見えても「Р(える)」、「Н(えぬ)」、「С(えす)」等、発音が違うというトラップが存在。さらに「ъ」「ь」(硬音記号と軟音記号。ロシア語での名前はそれぞれ「どう゛ぃおーるでぃ・ずなっく」と「みゃふき・ずなっく」。発音は…)。こりゃ、確かにロシア語が難しく感じてしまうのも無理のない事です。
ところが、実はこのキリル文字、覚えてしまえばとっても使いやすい文字です。たくさんあるように見えて、アルファベットは全部でたったの33個。ちょっと英語より多いくらい。
а б в г д е ё ж з и й к л м н о п р с т у ф х ц ч ш щ ъ ы ь э ю я
それにキリル文字の発音はローマ字的です。つまり、いったん文字を覚え、少しの単純な規則を覚えた後は機械的に発音ができます。例えば…
"белочка"→べろーちか(日本語で「リス」)
"автомобиль"→あふともびーり(日本語で「クルマ」)
…といった具合。英語のように突然発音が変化したり、書いてある文字を発音しないなんてことがありません。いや、ひょっとするとあるのかも分かりませんが、少なくとも大学でやる程度なら多分無いです。多分。
とまあ、このように、ロシア語は「読むだけなら意外と難しくない」という事がお分かりいただけるかと思います。
実は意外と分かりやすい文法
読むことが簡単なのは分かりました。では、書く方はどうでしょうか。
意外な事に、ロシア語の文法の基本はそこまで難しくありません。ここでは2つ、ロシア語の簡単ポイントをプレゼンします。
①単純で自由な文法
ロシア語は語順が決まっていません。例えば、「彼女はその大学でロシア語を勉強しています。」という文を露訳すると、"Она изучает русский язык в университете." となります。これは"Русский язык она изучает в университете"としても正解ですし、"В университете она изучает русский язык."としても正解です。先頭に来た言葉が強調されるので、それぞれ「ロシア語を彼女は大学で勉強しています。」、「大学で彼女はロシア語を勉強しています」といったニュアンスになります。日本語と似ている部分ですね。
また、ロシア語は疑問文の作り方も滅茶苦茶簡単です。突然ですがここでクイズ!次の文を疑問文にしてください。
問:この文を疑問文にしてください。
Она изучает русский язык в университете.
分かりましたか?正解は………
A: Она изучает русский язык в университете?
…お分かりいただけただろうか。?である。なんとロシア語は「?マーク」をつけるだけで疑問文が完成してしまうのである。口語じゃなくて文語でこれができるってのがすごい。日本語すら「か」をつける必要があるというのに…!
そのほか、過去形も、仮定形も、キューピー三秒クッキングの如くあっという間に完成します。先生曰く、「ロシア語は繊細じゃないので、英語みたいに仮定法過去とか仮定法過去完了とかデリケートな表現ができないんです」との事。
②分かりやすい名詞の性と合理的な変化
ロシア語には格が6つ存在します。格というものは日本語にない概念ですが、その場面場面に応じて名詞や形容詞の語尾がロシア語では変化することがあります。「私」を意味する「Я」という単語も、状況によって「меня」「мне」「мной」などと変化します。さらにヨーロッパ言語お馴染み、名詞が男性・女性・中性・複数かによってもまた別の変化があります。格変化が6つ、性による変化が3つ(男性と中性は基本的に同じ変化)なので、変化は3*6=18ものバリエーションがあります。
しかし、心配はご無用です。まず、ロシア語名詞の性は大変見分けやすいのです。単語が子音で終わってれば男性、аかяで終わってれば女性。つまり、初見の単語でも、その末尾を見れば男女の別が分かるようになっています。余談ですが、ロシア人の名前も基本的にそのルールに従っています。男性だったらイヴァン、ピョートル、アレクサンドル。女性ならアンナ、ユリア、エカテリーナ…という感じですね。
次に、格変化についても、それぞれの格が登場する場面はだいたい決まっています。日本語で「○○の(所有)」を表す生格、「○○を(目的語)」となる対格、といった具合です。
説明しても伝わらないので、実際にやってみます。「私はイヴァンの本を読む」という文をロシア語にしてみます。私→Я、イヴァン→Иван、本→книга、読む→читатьです。
まず、「私は読む」部分を作ります。Я читатьです。ただ、現在形は動詞が主語によって活用しますんで、Я читаюとなります。
次に、「イヴァンの本」を作ります。先ほども述べた通り、「○○の」は生格ですので、Иван(男性名詞)を生格に直します。するとИванаになります。生格は修飾したい名詞の後ろに置く決まりなので、книга Иванаとなります。
最後に、二つをくっつけます。この時、「イヴァンの本」は目的語、つまり「○○を」という形になりますので対格になります。книгаはаで終わっているので女性。これを対格に直してкнигуとなります。すべてくっつけると…
Я читаю книгу Ивана.
はい、完成です。ね?簡単でしょう?覚える事は確かに多いですが、はじめのうちは格変化表を手元に置いておくことで、プログラミング的に淡々と処理していくことができます。
以上2点から、ロシア語が実に合理的で分かりやすい言語かということをご理解頂けたことでしょう。
で、実際のところは?
非常に面倒です。私はお世辞にも語学を真面目に勉強するほうではないのでより強くそれを感じます。
ロシア語が簡単だというのは、上に述べた範囲で本当です。仮定法とか「быつけるだけで完成だよ!」と教えられて感動したのも本当です。
ただ、不真面目な学生にとっては、列挙していけばキリがないほど面倒な点があるのも事実です。
例えば、完了体動詞と不完了体動詞。不完了体は英語にすれば現在形、完了体は現在完了的なニュアンスを持っているそうなのですが、この使い分けがどうにも苦手です。二つの動詞は接頭詞をつけたり語尾の形を変えるだけで無限に意味を創り出すことが可能であるそうですが、深淵すぎて覗く気が起こりません。一応例を挙げておけば、читать(読む)の完了体はпрочитать(読み終わる)です。「про」の部分が他の言葉に置き換わる事で、色々な意味が生成されるわけですね。
他にも、単語の意味が覚えられない、前置詞とそれに対応する格が多種多様、複数生格とかいう例外祭などが挙げられますが…書いてみるとこれらの諸問題、単なる個人の努力不足によって苦手意識がついている気が…。
ともかく。語学にはつきものの問題ではありますが、当然ロシア語にも面倒な点というものは存在します。
それでもロシア語を推す理由
ロシア語は面倒な言語です。文字は読めるけど意味が分からないという事がしょっちゅうあります。
それでも何故私がロシア語を推すのか。それはもう、ロシア語が楽しいと思っているからです。
そもそも、第二外国語は何のために勉強するのでしょうか?その言語を習得して、将来に役立てるため?私はそうは思いません。というか、ぶっちゃけ大学生活だけで使えるレベルの二外を習得するのは無理ゲーだと割り切っています。確かに、国連で働きたいのでフラ語を勉強する、なんていうガチ勢もいるとは思いますが、少なくとも私は、そのガチ勢にはならないという確固たる自信がありました。ですので、将来性も、その言語の難易度も深く考えずに、ただ「面白そう」と思ったロシア語を選択したわけです。
実際、ロシア語を選択する事で得られるメリットはたくさんありました。私が感じたものを挙げてみます。
①周囲から変わり者認定される。
入学当初、「自分ロシア語選択っす」と自己紹介すると、その反響はすごかったです。「えっすごい!」「初めて見た!」「気持ち悪っ!」等々、周りの大学生から奇異の目で見られる事請け合い。それもそのはず、弊学部の新入生は約800名、ロシア語を選択したのはそのうちのたった15名でした。珍種認定されるのもむべなるかな。逆に言えば、そのコミュニティにおける独自の立ち位置を確立できるとも言います。
②キリル文字でイキれる。
例えば、街中で看板を見かけた時。「ふむふむ、Зелёная соя(ぜれーにゃや・そーや)ね。」「えっ、すごーい。なんで読めるの?」「いや、実はロシア語選択なんだ」「へー。で、なんて意味?」「えっ、知らない」…という事ができます。ドイツ語やフランス語はなんとなーく読めるような気がしますが、ロシア語はマジで未知の言語です。そんじょそこらの一般人はそうそう読めません。その文字をどう発音するかすら知らないはずなので、ちょっと鼻高々になることができます。
③世界の広がり方がすごい
「言語は世界を広げる」という言葉があります。中でもロシア語は、我々があまり踏み入れる事のない世界です。私はロシア語を学ぶ前、キリル文字のサイトを見かけると無条件にブラウザバックをしていました。ですが、ある程度勉強してみると、そこに書いてある事がなんとなく分かるようになるわけです。私にフォローを飛ばしてくるInstagramのアカウントが何の宣伝をしたいのかが分かるようになりましたし、今まで謎だったロシア語の略称の意味(例:×CCCP ○СССР)も分かるようになりました。
貴方がもし、文学に興味があるのならば、トルストイやゴーゴリ、ドストエフスキーなどの名前は聞いたことがあると思います。例えばドストエフスキー(Достое́вский)の「罪と罰」は、原題を「 Преступление и наказание」と言います。Преступлениеは直訳すれば犯罪、となりますが、Преには「超える」、ступлениеには「入る」というニュアンスがあり、要は「一線を越える」的なニュアンスがある事が分かります。ここまでうちの先生の受け売りなのですが、こんな感じに文学的な面白さを味わうために言語を学ぶのもアリです。
他にも、ロシア音楽やロシア演劇の世界に浸る、共産趣味者としてアネクドート(共産時代の風刺のための小噺)を探す、「Учимся дзюдо с Владимиром Путиным」を鑑賞する…という風に、さまざまな楽しみ方があります。
おわりに
なんだか長々と適当な事を語ってしまいました。でも伝えたいことは一つだけ。
ロシア語って面白いぞ!
「Накатаといいます。」「ああ、博多さんね」「いえ、中田です」
こんなしょうもない小ネタで会話できる日が来ることを、私は楽しみにしております。
おわり。