あの涙に意味はあったのか

小学生の頃の話

厳しい家庭だったため、毎日の塾通いによりテレビやゲームから遠ざけられていた。リビングではほとんどニュースが流れており、もちろんチャンネルを変える権利など自分にあるわけがない。

塾や学校の休み時間は、友達の間で流行のドラマの話題が飛び交う。
小学校の先生も一緒にその会話に加わることもあった。
自分は見ていないので周りが話している内容が全くわからない。
しかし、知らないとバレて「流行りに疎いヤツ」認定されるのも癪なので、運良くみれるニュース番組内のドラマ番宣コーナーや会話の流れから情報を繋ぎ合わせ、適当に話を合わせていた。

その頃は佐藤隆太の「ROOKIES」が学校内で猛烈に流行っていた。GReeeeNのキセキが毎週給食の時間に流れるほどだ。

そんなある日、「ROOKIES」が映画化することになった。「ROOKIES -卒業-」である。
小学校の頃に属しているコミュニティは小学校と塾しかないわけで、知っている周りの人間は自分の親以外「ROOKIES -卒業-」を観に行く。

これはまずい。

今までのように断片的な情報だけでは2時間の映画の話題について行くことは困難だ。ドラマの内容も全く知らない、みんなの口からよく出るアニヤがどの人なのかもわからない。友達に誘われたらどうしようかと頭を抱えているとあっという間に上映期間が始まってしまった。

上映期間が始まってすぐに、休みの日に塾の友人みんなで「ROOKIES -卒業-」を見に行かないかという話になり、誘われてしまった。
断れば塾の中で異端者扱いされるため、答えは「YES」一択しか用意されていない。

そして「ROOKIES -卒業-」を見に行った。友人は皆これから始まる「ROOKIES」の完結編を前に高揚している。

席は満員。
おそらくドラマを一切見ていないのにこの場所にいるのは自分だけではないかという1人違う胸のドキドキを抱え、映画館のシートに座っていた。そして映画が始まった。

映画の上映中は見終わった後の感想に漏れがないように、どいつが誰なのか必死に名前を覚えた。
そしてストーリーはクライマックスに向かい、佐藤隆太がメンバー一人一人の名前を呼ぶ感動の名シーンに突入する。CMで流れてるシーンだったこともあり、ここだけは完璧に抑えたいと、記憶するために頭をフル回転させていた。

映画館のどこかしこで啜り泣きの声が聞こえ出す。
両隣を見ると友人達は皆感動して泣いている。
しかし、ドラマを1話も見ていない私が感情移入できるわけもなく、1ミリも感動しない。
涙腺カラカラである。

ここで一抹の不安がよぎる。

「ここで泣いていないと見ていないことがバレる可能性に繋がる」

そう思った自分は周りに合わせて涙を流すために息を止め、目頭に力を込め、自分が唯一泣いたことのある映画「佐賀のがばいばあちゃん」を思い出して涙を流した。

あの涙に意味はあったのか。

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