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自家製酵母のカンパーニュ

果物から酵母を起こして種を継ぎ、初めてパンを焼いたのは30とか31歳の頃だったと思います。結婚を機に離れていた実家の果物屋に再就職をして経理をしながら、自分の何かしらを、自分を取り巻く世界の外側へ繋げたいという思いが強くてフルーツ酵母のブログを始めました。

固くて重たくて目の詰まったパン

当時、果物酵母のレシピは本屋にもネットにもあまりなくて見つけた情報で何度も焼いては半焼けだったり発酵不足だったり原因がわからず重たくて固いパンばかり焼いていました。
今わかるのは酵母液と粉を継いだ時にしっかり発酵を待たなかった事と1次発酵の見極めが早かった事です。

美味しくないんだけど、すごくいい匂いがする。

レモンで酵母を起こしてカンパーニュを焼くたびに鼻をくっつけてクンクンと嗅ぎ、いい匂いだなー!食べてみると苦い!すっぱい!ベトっとしてる・・・。繰り返す日々。10年程前から酵母のパンの本が出回り始めて、片っ端から買っては焼いていました。

何でこんなに目が詰まっているんだろうか、発酵終了の加減がいつなのか、何もかもがドライイーストのパンとは別物でその攻略の難しさに、発酵にどんどん魅了されて1日1カンパーニュ生活が始まりました。

夜ご飯を食べ終えてから生地をこねてオーバーナイト、気候によって発酵が変わってくるので春と秋は8時間ほど室温発酵させて朝早くから、夏は寝る前に冷蔵庫へ入れて朝復温してから、冬は発泡スチロールにお湯と一緒に入れたりしながら一次発酵を済ませて、仕事前に焼いたり、仕事から帰ってご飯を作りながら焼いたり。焼くことが自分にとってのご褒美のような時間。朝起きて、仕事から帰って、ボールの中でしっとりふわりと発酵している生地を見ては癒される。仕事と子育てでヘトヘトになりながらも手をかけて焼き上がったパンに一喜一憂し、達成感を得ることに生かされていたように感じます。仕事になった今とはまた違ったパン焼きのライフスタイル。

3年前に店舗を構えるまでは庭に増築した狭小パン小屋で2年間焼いていました。産直に出回る旬の果物を使って酵母を起こしていたので、強い発酵の時と弱い発酵の時と、毎回発酵が安定せずにカケのようなパン販売。「今回の桃は強いなー!野生味あふれてるな!」「このピオーネは無農薬で荒々しいけど最強!」「ハーブ単体はやっぱり弱いなー、果物と合わせて香りをつけよう」梨、柿、リンゴ、イチゴ、桃、ぶどう、レモン、柑橘。         水と少しの蜂蜜と果物を煮沸した瓶に合わせて発酵させて酵母液を作ります。シュワシュワプファーッ!と勢いよく溢れ出てくる酵母ににんまり。

店舗を構えてからは安定して量産する為にオーガニックカレンツで酵母を起こして焼いています。ギュッと甘みが凝縮されて少しばかりすっきりとした酸味もあり、抜群の安定感。出来上がった酵母液に氷を入れて飲むとシュワシュワと炭酸水のようで美味しい。レモンやリンゴや桃の酵母の香りが恋しくなり旬の果物でも時々酵母を起こしてはパンを焼いています。

粉と水からルヴァン種を起こして焼いてみた事もありますがやっぱり果物やレーズン種で起こす酵母で焼くパンの複雑な味わいに惹かれます。美味しいし何より起こしていて楽しい。

うちの店はスタッフ全員でパンを焼きますが、種を起こす、継ぐ、生地を仕込むという作業は私がやっています。ここがなかなか引き継げないのは生地の発酵状態の見極めや仕込みの際のグルテンのしなやかさなどの判断が難しいから。長い時間をかけて試行錯誤して勉強して身についたこの生地感は判断が難しい。誰にでも出来ない事だから価値があって責任がある仕事なのだと思って仕込んでいます。

低温長時間発酵や高加水、パン作りの考え方も製法もどんどん変化していて、全国のベーカーさんのそれぞれの拘りや個性がSNSや雑誌等で見られるのは勉強になり刺激になります。

日々の忙しさの中、現状維持で満足しそうになる度に自分を一度ストンと落として離れてみる。

新しい事にチェレンジし続ける方達に刺激をもらいながらinput outputを繰り返して、より美味しく、体に負担のない、消化吸収がいいパンへとシフトしていきたい。

今日も種を継ぎ明日へと繋ぎます。
もっともっと美味しいパンが焼きたい。


bonbon店主

#bonbonbread
#パン屋
#baker

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