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昨日のこと

 珍しく、元気ないの。
 
 高校時代から繋がりの残っている数少ない友人に連絡をしたら、そんな返事が送られてきたのは2週間ほど前のこと。理由を聞いても言いたくない、と頑なで、けれど眠れないとか食べられないとか死にたくなるとかいう現状は伝えてくれるので、どうしたらいいかまったくわからなかった。そういう表し方をする人ではないから尚更必要以上に近づくこともできず、ましてや原因がよくわからないから共感も慰めもできなかった。私は彼女が沈んでいくのを知りながら、知っていることしかできなかった。沈みたがっている気がして。
 二キロ減った体重は元に戻り、ご飯も味がするようになったと、昨日彼女は笑っていた。ぬるい風が冷たくなるまで、引いていた潮が満ちるまで、空が海にのまれるまで、私たちは話を続けた。
 詳しくを聞くことはなかったけれど、ここのところの彼女は、おそらく何年も前の私と同じだったのだろうと感じた。
 完全に晴れることなどないのかもしれないとも思う。だけど、望んで選んだのだと思いたい。思えば、選ばないという選択もできるはずだから。
 そんな思いをしたあなただからいいと言ってくれる人が不思議と現れるよ、と言いながら、私は私を慰めている気がした。ずっと誰かに言って欲しかった言葉を誰かに言うことで救われることがあるなんて、と昔どこかで読んだ何かの一文を思い出していた。自然と出てきた言葉が、きっと私があの頃誰かに言って欲しかった言葉なんだろうと思う。あるいは、誰かが言ってくれた言葉なのかもしれない。聞こえていなかっただけで。
 
 笑い声が聞けてよかった、と思った。

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