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小さな世界への旅

子どもの頃、よく遊んだ原っぱにはさまざまな雑草の花が咲いていた。シロツメクサ、オオイヌノフグリ、ハコベ、カラスノエンドウ。ペンペングサ、オオバコ、ネジバナ、ヒメジョオン、月見草、カタバミ。私が幼少期を過ごしたのは埋め立てられた土地で、豊かな自然とは縁がなかったけれど、それなりの種類の花があった。それの中に、どうしても名前の分からない花があった。10センチほどスッと伸びた茎から、一つだけ咲く小さな紫色の花。可愛いまん丸の実。摘んで持ち帰っても、すぐにしぼんで枯れてしまう。植物図鑑で調べてみてもたどり着けなかった花の名前が「ニワゼキショウ」だと知ったのは、大人になってずいぶん経ってからだった気がする。

おなじみの花たちはあまりにも小さくて、考えてみれば、拡大してまでよく見ようとしたことはない。「美しき小さな雑草の花図鑑」は、子どもの頃に見慣れた花々をぐーんと拡大した写真で見せてくれるのが新鮮で、珍しく手に取ってレジに直行した本。特殊な手法によってしっかりと全部分にピントが合わせられているので、一つの花だと認識していたのが無数の花の集まりだったり、めしべが可愛い形をしていたり。あのニワゼキショウは実はアヤメの仲間で、同じように見える6枚の花びらには3枚ずつ違う筋が入っているということを知った。

知らなかった世界を旅するのは楽しい。大きく広い世界とは逆に、見えないほどに小さな世界に目を向けてみるのも、また旅なんですね。

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