チュヴァシの哀愁漂う別離の歌:Ан кай кайӑк「行くな鳥よ」
こんにちは、boltwatts です。今回ご紹介するのは、チュヴァシ語の歌 Ан кай кайӑк「行くな鳥よ」です。哀愁漂うバラライカの音色が印象的な一曲で、飛び去ってしまう渡り鳥(雁)を、去ってしまう大切な人に見立てた歌でしょうか。動画のコメントには、「おばあちゃんはいつも、この歌を聞いて泣いている」とあります。
ネイティブによると、サビの йӑва ҫавӑрма(ヨヴァ シャヴォルマ)「巣を作るために」のところが、йӑва хӑварса(ヨヴァ ホヴァルザ)「巣を残して」となっているバージョンもあり、そちらの方が意味的にはしっくりくるそうです。
ちなみにこの歌、チュヴァシ語の否定命令形を覚えるのにうってつけです。多くのテュルク諸語では、動詞の否定語幹(語幹に -ma/-me が付いた形)がそのまま否定命令形になりますが(トルコ語 Git! 「行け!」Gitme!「行くな!」)、チュヴァシ語だけはそうではなく、an という要素が前に置かれます(チュヴァシ語 Kaj!「行け!」An kaj!「行くな!」)。これは、周辺のウラル系言語の影響という説があります。
今見たように、チュヴァシ語の「行く、去る」という動詞は kaj- で、トルコ語 git- や、中央アジアのテュルク諸語 ket- とは違う形をしています。これは、お隣マリ語(ウラル系)の kaje- と似ていて、マリ語からの借用という説があります。「鳥」を意味する名詞 kajăk も、他のテュルク諸語の quš とはかなり異なっていますが、マリ語の kajək とはそっくりです。
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