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チュヴァシの哀愁漂う別離の歌:Ан кай кайӑк「行くな鳥よ」

こんにちは、boltwatts です。今回ご紹介するのは、チュヴァシ語の歌 Ан кай кайӑк「行くな鳥よ」です。哀愁漂うバラライカの音色が印象的な一曲で、飛び去ってしまう渡り鳥(雁)を、去ってしまう大切な人に見立てた歌でしょうか。動画のコメントには、「おばあちゃんはいつも、この歌を聞いて泣いている」とあります。

Кайӑк хурсем карталанса кайрӗҫ кӑнтӑра
Сивӗ ҫил ҫеҫ ҫывӑрать пуль ӑшӑ йӑвара
雁は連なって飛び去った、南へ
冷たい風だけが寝ているだろう、温かい巣で

Ан кай кайӑк, ан кай кайӑк, йӑва ҫавӑрма
Санӑн кунта, санӑн кунта, халь пурӑнмалла
行くな鳥よ、行くな鳥よ、巣を作るために
お前はここに、お前はここに、今いなきゃいけない

Сивӗ кунсем килсе ҫитсен, ҫунату шӑнсан
Аллӑм ҫине илсе лартса ачашлап сана
寒い日が来て、羽が冷えたら
手の上にのせて、撫でてあげるから

Ан кай, кайӑк, ан кай кайӑк, йӑва ҫавӑрма
Санӑн кунта, санӑн кунта, халь пурӑнмалла
行くな鳥よ、行くな鳥よ、巣を作るために
お前はここに、お前はここに、今いなきゃいけない

Кайӑк хурсем кайри-мала кайрӗҫ кӑнтӑра
Пурӑнмалӑх ӑшӑ йӑва пулмӗ-ши вара
雁は次々と飛び去った、南へ
住めるような温かい巣はできないのだろうか

Ан кай кайӑк, ан кай кайӑк, йӑва ҫавӑрма
Санӑн кунта, санӑн кунта, халь пурӑнмалла
行くな鳥よ、行くな鳥よ、巣を作るために
お前はここに、お前はここに、今いなきゃいけない

https://tekstovoi.ru/text/684125978_51239104p023561483_text_pesni_chuvashskaya_narodnaya.html をもとに筆者一部改変(和訳は筆者による)

ネイティブによると、サビの йӑва ҫавӑрма(ヨヴァ シャヴォルマ)「巣を作るために」のところが、йӑва хӑварса(ヨヴァ ホヴァルザ)「巣を残して」となっているバージョンもあり、そちらの方が意味的にはしっくりくるそうです。

ちなみにこの歌、チュヴァシ語の否定命令形を覚えるのにうってつけです。多くのテュルク諸語では、動詞の否定語幹(語幹に -ma/-me が付いた形)がそのまま否定命令形になりますが(トルコ語 Git! 「行け!」Gitme!「行くな!」)、チュヴァシ語だけはそうではなく、an という要素が前に置かれます(チュヴァシ語 Kaj!「行け!」An kaj!「行くな!」)。これは、周辺のウラル系言語の影響という説があります。

今見たように、チュヴァシ語の「行く、去る」という動詞は kaj- で、トルコ語 git- や、中央アジアのテュルク諸語 ket- とは違う形をしています。これは、お隣マリ語(ウラル系)の kaje- と似ていて、マリ語からの借用という説があります。「鳥」を意味する名詞 kajăk も、他のテュルク諸語の quš とはかなり異なっていますが、マリ語の kajək とはそっくりです。

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