首都ラパスで、水わずか30リットルを使った入浴体験
2018年10月29日、環境と水省のカルロス・オルトゥーニョ元大臣は、「ボリビア全土の水道普及率は90%に達している」と発表した。
首都ラパス市に住むAさんの家には水道がなく、週に一度自宅から60メートル離れたところに設置された公衆の蛇口にホースを繋ぎ、タライやポリバケツに1週間分の水を溜めている。
10年前に市役所への手続きを開始したが、設置されないまま現在に至っている。私はAさんの家に泊まった時、沸かしたお湯たった30リットルで入浴するという貴重な体験をした。
カルロス元大臣の当時の発表によれば、水道の普及率は都市部では95%、農村部は66%と差はあるものの、それまでに12年かけて計画的に普及に努めており、2025年までに100%の普及を目指している。
その水道普及率95%の都市部、首都のラパスに住むAさん家族は、家に水道がない。
Aさんの祖父が65年前に土地を購入し、親戚一同でそこに引っ越してきた。その場所は崖の上で、下から水道管が引かれ、家まで水道管が来ていた。
しかし、水道管内の圧力が少なく、上方に住むAさんたちの水の確保ができなかったため、決まった曜日と時間に下方の住民側の水道管の栓を閉めて断水し、その間に一定の時間タライなどに水を溜めていた。
下方の住民と合わせて15軒で一つの水道メーターを共有していた。下方の住民とは使用水量に明らかに差があるにもかかわらず、水道料金は割り勘で、ひと月60ボリビアーノ(約900円)と、水道の基本料金の約6倍の金額を払っていた。
Aさんによれば、約20年前水道協同組合の職員が家に調査に来て「お宅に水道メーターを設置し、上方から水道管を敷いて安定した水を供給します」と言われた。
「やっといつでも好きな時に水を使えるようになる」と期待していたものの、最終的に自治会長の承諾が得られずに設置できなかったとのことだった。
新たに水道管を敷き各家庭に水道メーターを設置するには、市役所に承認された地区であること(Planimetría aprobada)が必要で、Aさんの父は10年前にその申請をした。後に何度も市役所に足を運んだが、一向に話が進まなかった。
たまりかねて市役所の法制担当や市議会にも相談した。市役所の法制担当に相談に行った際は、「わかりました。すぐに担当に確認し、どうなったかご報告します。2日後に来てください。」と言われ、日を改めて市役所に行くと、何も話が進んでいなかった。市議会に相談すると、当日調査してもらえたものの、調査結果は共有してもらえなかった。
そしてAさんの父は2年前、崖の上方に水道管を設置してもらうことに成功した。
しかしそれは、各家庭への設置ではなく公衆の蛇口であり、冒頭に述べたようにAさんの自宅からは60メートル離れている。
現在Aさん家族を含む近隣住民9軒は、決まって毎週土曜日朝7時に集まり、共有の蛇口にホースを付け、自分の家に設置したタライやポリバケツに1週間分の水を溜める。
「その量は1000リットルくらい」とAさんは話す。
水道名義はAさんの父で、料金は9軒で割り勘しており、月あたり20ボリビアーノ(300円)程度である。
9軒のうち水が足りなくなった家庭はAさんの自宅にホースを借りに来る。この場合は追加分として多めに水道代を払うと申し合わせている。
Aさんは3人家族だ。
この一週間分の水1000リットルで料理、食器洗い、洗濯、入浴、洗顔、トイレの水など、すべての水をまかなっている。
私がAさんの家に宿泊したとき、Aさんのお母さんがお湯を沸かしてくれて、バケツに注いでくれた。
水を追加して温度を調整しながらちょうどいい湯加減にすると、「さあ、どうぞ。これで入浴してください」と私に言った。
20リットルのバケツ2杯で入浴。初めての経験だ。
まず私は服を脱いで、空の大きなタライのなかに立った。
一杯あたり1リットル入る水差しを使いながら髪を濡らし、洗髪した。使った水は足元のタライに溜まっていく。
そして次に、体を洗った。少し足りなくなったので、2杯目のバケツのお湯を半分使って洗い終えた。
お風呂から出て、タライに溜まった使用済みの水はどうするのかと聞くと「トイレの水に使うから、そのままにしておいて」と言われた。
私は衝撃を受けた。「こんなにも水を大切に使ったことが私の人生であっただろうか」、と。
そして、工夫すれば入浴もここまで節約できるのだということも分かった。
普段、AさんとAさんの父は自宅で週に2回入浴しているが、Aさんの母は、徒歩10分のところにある市場の公衆シャワーで入浴しているという。
首都のラパスに水道がない家があるというのは私にとって意外だった。
「自分の家に水道があったらどれだけいいことか」「このような状況の家は自分たちだけではない」とAさんは話す。
Aさんをはじめ同じような状況の家庭に、蛇口をひねれば水が出る、そんな生活が早く実現することを心から祈っている。
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