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お金をかけた悪ふざけ 北野武『首』(ネタバレあり)

 Netflixで北野武監督作『首』を観た。
 前評判がそこまで高くないこともあり劇場スルーしていたが、とても面白かった。

 暴虐の限りを尽くす織田信長(加瀬亮)に不満を抱く家臣の豊臣秀吉(北野武)や明智光秀(西島秀俊)たちは、荒木村重(遠藤憲一)の反乱をきっかけに、自分が織田にとって代わり天下人になるための計略を立てる。各々の思惑が動き始めるなかで、織田は跡目を餌に家臣たちを奔走させるが…。

 北野武の歴史観がよくわかる。戦国時代なんていうのは、あっという間に人が斬られ、陵辱され、自分が生きるためなら簡単に人を裏切る、という視点。確かに現実は大河ドラマで描かれるようなキレイ目な武士社会であるはずはなく、今では考えられないほど生死の境目が身近にあったはずだ。
 女性はほぼ登場せず男社会を描く。同性愛が強調されていて、これが新味なのは間違いない。セックスにうつつを抜かす織田信長や明智光秀、荒木村重などは「武士として弱い」人間として描かれる。逆に徳川家康や豊臣秀吉は、確実に戦国時代を生き残る考え方なのが面白い。影武者使うわ、身近な人でも騙すわ、で。
 他人の命なぞどうでも良い、という感じが如実に出ていて、下手に他者への感情表現が入らない分、サクサクっと観ることができた(中村獅童が人情パート担う)。人間ドラマがウザくないのだ。豊臣以下、いつも一緒にいる三人衆のパートがまるっきりコントで、金をかけたコントにしか見えない。良い意味で「首」の血生臭さと対比しても脱力感がある。側近に浅野忠信と大森なおという演技巧者を配置しているのがさすがだと思った。豪華だなぁ。
 一点だけアクション演出の飛躍箇所がある。斉藤利三(勝村政信)と服部半蔵(桐谷健太)の対決だが、一瞬だけの交錯が結構燃える見せ方になっていてワクワクした。もっと見たい感じもあったが、セーブしていた。
 ラストシーンが素晴らしい(首を洗う様子もいい、首洗いが日常的なことで、生活に溶け込んでいる感じがして笑)。豊臣秀吉は明智光秀の首だと気づかず、「俺は明智が死んだことさえわかれば首なんかどうでもいいんだ」と言って首を蹴る。これだけ首に拘っている物語の結末としては、皮肉たっぷりである。
 西島秀俊は大好きな役者だが、やはり棒演技ではあって、それが明智のキャラクターに合っていた。起用側も絶対狙っている。

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