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極端なトラウマ克服法 映画『FALL/フォール』(ネタバレあり)

 劇場で鑑賞しなければ正当な評価ができないであろう映画『FALL/フォール』を配信で観た。

 地上600mある「か細」くて「心もとない」電波塔に、女性クライマーのベッキーとハンターが挑む。ベッキーは最愛の夫を亡くした弔いとして、ハンターは命試しとして。行って帰ってくるまでに1,2時間あれば大丈夫と鉄塔を登り始めた二人だったが、お調子者・ハンターによる余計な行動により、登頂後すぐにハシゴが落下してしまう。サバイバル生活を強いられることになった二人には、水も、食料も、何もかもなかった。

 中盤の驚かしとして、生きていると思われたハンターが実は既に亡くなっており、ベッキーは幻覚を見ていたとわかる。これは余計だった気も……。基本鉄塔の上での場面がほとんどになるため、変化をつけるための工夫だが、幻覚など所謂「夢落ち」展開は非常に恣意的なので作り手の意思が強く見えてしまう。ちょっと萎えたがしかし……。

 ハンターを生かしておいてもカタルシスが生まれたと思うが、終盤の見せ場に、死体のハンターそのものを使って救助を呼ぶくだりがある。見せ方としてフレッシュだった。これはハンターの死体が無ければできないことで、うーんだったらハンター死なせとくのは大事だなと思った。

 本作が優れているのは、何よりも鉄塔のデザイン、そのフォルムだと思う。スカイツリーや東京タワー(楳図かずお『わたしは真悟』を想起)、エッフェル塔、「ジョジョの奇妙な冒険」に登場する鋼田一豊大が暮らす鉄塔のような安定感を微塵も感じさせない作りなのがいい。

 設計上問題大ありに言えるフォルムだが、モデルがある。アメリカにある世界一高い電波塔「KVLY−TV・Tower」だ。しかし写真を見たが、実物は映画の4倍くらい幅がありそうだから、作中の電波塔は盛りに盛っている感じで、その外連味もいい。
 CGやVFXのアラがほとんど見つからないのが凄い。メイキングを見たが、山の上に支柱を作りそこで演技をさせていた。こういう創意工夫が画面に出るんだな。
 
 クライミング中に夫を亡くしトラウマが残ったベッキー。そのトラウマ解消方法が、再び危険な挑戦をさせるという超荒療治で、なぜそれがトラウマ克服に繋がるかいまいちわからない。しかもハンターはベッキーの夫と不倫していたことがわかり、そんな憎むべき存在のハンターはあっけなく転落死。最後に残ったのは娘思いの父親との心の交流という、ドラマパートは何ともではあるが、最低限、鉄塔を登る動機にはなっていたように思える。

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