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松井久子著「疼くひと」レビュー

「老いとセクシュアリティー」という、これまであまり馴染みのないテーマに果敢に挑んだ著者に、まずは敬意を表する。タブーが多い日本、人と異なることをすると穿った目で見られがちな日本で、このテーマを選んで表現することが、どれほど勇気のいることだったか。

そしてそのチャレンジの結果、極上の小説に仕上がっているところがまた表現者としての著者の力量を感じる。言葉ひとつひとつが美しく丁寧で、何よりも品がある。登場する人物たちも、いまを生きる人間としてリアリティがある。特に主人公の女性が長い人生のなかで経験した仕事や人間関係のエピソードや、「OKブーマー」など現代の社会情勢の描写から伺えるように、社会の中で懸命に生きてきた姿がいじらしく感じられる。

そんな主人公に突如訪れた恋。恥じらい、躊躇、疑い、傷つくことへの恐れ、体裁や見栄との葛藤。そういう情感が瑞々しく描かれていることも、主人公より少しだけ年代が若いけれども、同じ時代を生きる人間として共感を感じた。

男は男らしく、女は女らしく。常識や規制愛念から解放されたら、男も女ももっと自由になれるのに。の言葉がとても胸に刺さった。

自分もどれだけ殻を被って生きているのだろうかと気づかされ、性に関してもっと弾けてみたいと思った…。

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