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小説「ぼくはうみがみたくなりました・その後」1~2章

1  お気に入りの場所は、大きな空の下にあった。  ぐるりと周回路に囲まれていて、その内側にはたくさんの細い道がある。  信号もある。芝生の丘があって、坂道もある。  T字路やクランクやS字カーブもある。  児童公園はない。ブランコと鉄棒と砂場があったらいいのにと思う。  ガソリンスタンドやコイン洗車場があったら、トミカタウンみたいだ。  渋滞はない。スピード違反をする車はいない。追い越しをする車もいない。どの車もちゃんと制限速度以下で走っている。  だからここはとても安心

    • 小説「ぼくはうみがみたくなりました」1~2章

      1  サッシの窓ごしに、澄んだ青空が見える。  ガラスは多少汚れているものの、スカイブルーの青さは圧倒的だ。  初夏を思わせる白い雲のかたまりが、ぽつんぽつんと浮かんでいる。止まっているように見える。ゆっくりと形を変えながら動いているその姿は、じっと目をこらして眺め続けていなければ気づかない。  昨日までの雨がまるでうそのようだ。先週からの連休も、ゴールデンウィークという言葉が似合わないほどに、悲しいぐらいずっと雨だった。今日はその直後の土曜日。もう少しすれば、今度は梅雨に

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