日々をはぐ 後書き。
2022/12/20 5:52
今日からやっと敷き毛布を出した。暖かくていつのまにか眠っていたらしい。目が覚めたので、忘れないうちに後書きを書くことにした。
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このお話には元となった出来事がある。小さな小さな、僕の覚えた違和感、考えてしまったある可能性が。
昨日、そろそろ日が暮れる頃に帰宅した。近くに住むと思しき小学生が、住宅街の、ほぼ住民しか使わない道路で遊んでいた。
そのすぐ先に僕の家がある。
通りの先、角のあたりで中学生の男子が5、6人集まっているのが見えた。2人が半ズボンの体操着姿。残りは黒い詰襟に見えた。
彼らはなぜか、こちらをじっと見て止まっていた。マスクもあるし、顔をこちらに向けているのくらいわかる。
なぜ、君たちはこちらを見ているんだ?なぜそれほどこちらを気にしているんだ?気にせず話していればいいじゃないか。聞かれたくない話なら、近づいてきた時に、話し声が聞き取れるくらいの距離になったところで、話を一旦止めればいいじゃないか。
よく考えると、左端にいる体操着の子だけ、お辞儀でもしているみたいに背をかがめていた(ストレッチでもしていたのかもしれないし、何をしているかは全くわからなかったけど)。その隣の制服の子が、その子の袖を掴んでちょっかいを出しているようにも見えた。
背後で、小学生の無邪気な笑い声が聞こえる。
彼らはまだこちらを気にしている。
なぜ?
そう思いながら歩き続ける。
もしかしたら。ねえこれは何の根拠もないけれど、
君たち、嫌がらせでもしているんじゃない?
僕の家は、彼らの立ち止まっている角よりも、30メートルほど手前にあった。
どうする?僕の家はその先にあるみたいな顔をして、その子たちの脇を通って、ぐるっと一周して帰ってくればどうにかできるんじゃない?いやでも、一周回ってきた時、まだ彼らがそこにいたら「さっきのお姉さん一周回ってきたよ」ってバレてしまう(裏口がないから結局同じ場所に戻ってくるしかない)。
え、どうしよう。
そう思っている間に、家の前に着いてしまった。
大丈夫だろうか。このまま何もなかったかのように家に入っても平気だろうか。彼らには何事もないだろうか。私の見間違いだろうか。私がここから睨んでいるくらいじゃ、どうせ姿が消えたらまた続きをするかもしれない。
…でもそんなの、私のただの杞憂なのでは?考えすぎなんじゃ?
結局、私は何もしなかった。何もできなかった。何かをする勇気が出なかったのだ。念のために、彼らのいる角の先に用事のあるお姉さんを演じることが、私にはできなかった。
部屋に戻ってきて、それでもまだ考えていた。どうしたらよかっただろう?健全な中学生男子の雑談現場であってほしい。でももし、悪い予感が当たっていたら?
少なくとも、怪しくはあったよな。だって自分が小中学生の頃も実際そうだったじゃないか。例えば持ってきてはいけないものを持ってきたとき、そうやってコソコソと、大人の目を気にして陰でやり取りをした。
そういう雰囲気に見えたのは確かだ。全員がこちらを見ていた、その間の沈黙を想像すると、やっぱりおかしいよな。
私はその場で何もできなかったけど、でも、あの角に住むひとりの男の子がいてほしいと思った。人気があるようで実際はほとんどないような、誰も助け出してくれないその冷たい諦めの中、隠れた嫌がらせに何か変化をもたらす存在が。
だからあの話を書いた。あの話は、昨日のうちにせめて物語のアイデアだけでもメモしておかなければと思って、そうやって書いているうちに、全部書きたくなってしまった。たまたまあの角に住む、ひとりの少年という解を、なんらかの掬いを描いて、私が私を、許したかったのかもしれない。
執筆時間を書いたのもそのせいだ。速攻で書いたことをメモで残したのは、あの時思いつき、その勢いのまま描き切ったことに(私の中で)意味があったからだ。
あれは、僕の昨日の出来事をもとにしている。ならば出てくる新卒のお姉さんは、きっと現実の私のことだ。
それを許してあげるために、私はひとりの少年を描いた。誰も救ってくれなかった日々に裂け目を入れるような、じっとりとした沈黙を、諦めを、剥ぎとるような。
そんな一閃と、確かな安全地帯が、あの角にあってほしかった。
***
気が向いたら書き足してもっと長い小説にしたいです。回収していない伏線がいくつもある、僕は描きたいシーンから入るから伏線の回収の仕方なんてまだ考えていないけれど、お話が動き出したら問題はないだろうと思います。大幅な加筆修正の場合はちゃんと投稿し直すのでご安心ください。
最後まで読んでくださりありがとうございます。読んでくださったあなたの夜を掬う、言葉や音楽が、この世界のどこかにありますように。明日に明るい色があることを願います。どうか、良い一日を。