見出し画像

ゆきちゃんのママ

酪農家さんの猫で、ずっと脱腸に悩まされている猫がいました。
原因を探してもわからず、対処療法をするばかりで
何度も何度も病院に通い、脱腸の手術をする踏ん切りもつかず
飼い主さんが疲弊していくのがわかりました。

私はあまり飼い主さんの気持ちに同調することはなく
あくまでも一定の距離感をもって冷静にいるようにしているのですが、
この飼い主さんはちょっとしたお知り合いだったこともあり
その疲弊していく気持ちが手に取るようにわかりました。

猫を放っておくこともできず、かと言って外の猫だからそれほど
積極的な治療もできず、家には先住猫がいるので家の中に入れることも
できず、でも時々脱腸はするし・・・・
猫もだんだん痩せて来て、麻酔をかけるのも忍びないなあと思ってきたある日、もう見ているのが辛いから安楽死してほしいと言われました。

私は最近安楽死はしない、と決めています。飼い主さん都合の安楽死は
もってのほかで、そういう話をちょっとでもしてきたら怒って「よそに行ってください」と言うぐらいです。
でもその猫に関しては、飼い主さんと同様、私も疲れてきてしまって
(色々やっても原因もわからず治らず、かつ、割とマメに連絡がくるので
またか・・・涙という気持ちになっていた)
飼い主さんが「こうこうこういう理由で安楽死が良いと思うのです」という言葉に「まあ、それもありか」と思ってしまいました。
そこで安楽死かあ・・とりあえず準備するか・・と思っていたところ
飼い主さんが「最後にちゅーるあげてもいいですか?」と言ってその猫に診察台の上でちゅーるをあげたら、ゴロゴロ言ってバクバク食べたのでした。

・・・こんなバクバク食べてゴロゴロ言ってる猫を安楽死なんてできないわ。とふと我に帰り、とりあえず安楽死はやめます、と言いました。
でも、問題は何も解決せず。まああまり考えなかったけれど発作的に
「私、この猫もらいます」と言いました。

この猫がウイルス陽性の猫なもんだから、うちの中でも飼えず
飼い主さんも室内に入れることができない、ということで病院にいることにしました。

最初は入院室に入れっぱなしだったのですが、その内大暴れするようになったので、普通に放して病院のスペースだけにいるようにしました。

そしたらこの猫が、めっちゃ愛想のよい猫で、しかも猫って3Dに生きている動物なので高い所に登って物を落としたりすることが悩みなのですが
この猫は2Dの世界にしか生きておらず、要は悪いことをほぼしません。
誰にたいしてもいつもニコニコして、お腹を見せて「撫でて❤」と寄っていくので猫好きな患者さんはとってもかわいがってくれます。

病気のことは解決していなかったのですが、少しずつ治療をして
原因もわかり、それでも時々手がかかりすぎて「もう嫌!!!」と
私も投げ出しそうになることがあるぐらいなんだけど
それでも落ち着きつつあります。

写真は抱っこされてうっとりしているゆきちゃんのママの写真。
ゆきちゃんという子を産んだので「ユキママ」と呼ばれています。
今日も患者さんが来たら「今日の御用時はにゃんですか?」と
私より先に受付してくれています。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?