未練は簡単に引っ張り出されるよねって話

久々の休日。
食品を買いに最寄りのスーパーに行く。


カートを押していると、キコキコと音がする。
結構な大音量で、キコキコ！！キコキコ！！

え？？なんの音？

キコキコ！！キコキコ！！

あれ。
もしかして僕のカートだけ？

他の人のカートの音をじっと聞く。
...。
無音である。

キコキコ！！キコキコ！！

僕が歩く度にカートが鳴る。

キコキコ！！キコキコ！！

あれ。
揚げ玉を探しているのに見つからないな。
どのコーナーにあるんだ。

キコキコ！！キコキコ！！

探し回ってる間にもカートは鳴る。
すれ違う人みんな、僕のことをじっと見つめる。
え、なんか鋭い音するけど...！？みたいな顔で。

キコキコ！！キコキコ！！

マジ、恥ずかしい...。
空気のように生きていたい自分にとっては地獄だった。


なんでやねん。おい。
よりによって、数台に1台のキコキコカートが僕のもとに当たるねん。
僕が何をしたっていうんだ...。

キコキコ！！キコキコ！！

惣菜コーナー。値引きシールを貼る従業員にお客が群がる時間帯。

キコキコ！！キコキコ！！

群がる客の全員が、えっ！？と言わんばかりに僕のキコキコに気づきハッと振り返る。

近くにいたおじいさんが声を上げる。
「え？」


キコキコ！！キコキコ！！

おじいさんがまた僕を見る。
「...え？？」

キコキコ！！キコキコ！！

...なんか、すんません。

結局、揚げ玉は見つかんなくて、諦めてすぐ買い物を終えた。
揚げ玉入れたおにぎり作りたかったのにな。。。

キコキコ鳴らしながらセルフレジへ。

割引の惣菜も実は目当てだったけど、もうどうでもよかった。
早くこのカートを戻したい。
恥ずかしさがバーストしている。

キコキコ！！キコキコ！！

...はぁ。勘弁しちくり。

これが先日、結婚を考え同棲していた恋人に浮気され裏切られた人間の行く末だ。
直後くらいさ、もうちょっと優しくしてくれたっていいじゃんよ。
ねえ、神様。

家に帰ってからもあのキコキコ音が思い出されて、1人で項垂れていた。

キコキコ！！キコキコ！！

最近僕は一人暮らしを始めて、いつも恋人と行っていた買い出しも、今は1人で行っている。
例えば今日みたいな出来事も、二人なら笑って見過ごせたのにな〜と思って切なくなる。

うちらのカートだけうるさくない！？

みたいに笑い話にできたのに。

なんで！？どの部位がそうさせてるの！？

って二人で笑って話せたのに。

寂しさは人を狂わせると思う。
簡単に涙を誘う。
恐れずに未練に触れてしまう。
痛いのはわかってて、痛くなりたくなってしまう。
痛いと感じるほど、あの子を愛してたんだという証と思ってしまう。

今日もまた触れる。

キコキコ！！キコキコ！！

音が頭ん中に鳴り響く。
あの子ならこれ、なんてコメントしたかな。

キコキコ！！キコキコ！！

...絶対に、馬鹿にして笑ってくれたと思う。

″なんかウチらのだけうるさくない！？笑″

ニヤニヤして言う姿が想像できて苦しい。
愛おしい。


ブラックジョークが好きだったあの子のことを、きっと僕だけが笑わせてあげられたと思うし、
幸せにできるのは僕だけなのに、とか。
日々がそんな出来事ばかりで苦しくなる。


未練ばかりすね。だめですね。
酔った勢いで書いてます。