『ディック・ロングはなぜ死んだのか?』を観た。

観る前の印象では、どうしようもない人らがジタバタ七転八倒するコメディだと思っていたが、わりと哀愁の漂う鑑賞後感だった。
ブラックコメディとの触れ込みだったけど、なんかいろいろ中途半端で、そこまで振り切れてなかった気がする。
ただ、個人的には笑えるっちゃ笑えたし、好ましい作品だった。

1番いいなと思ったのは、主人公(?)が事の顛末を打ち明ける場面の、奥さんの演技。
めちゃくちゃ真に迫る演技だった。
理解の許容量をかっ飛ばした真実を知らされた時、人間の反応ってこうなるわな〜というような。
あまり人の美醜に関して言及したくないけど、その場面の奥さんの表情が、とにかくブスで、現実の打撃が凄すぎて脳が処理しきれていない、処理しようと無理矢理フル回転みたいな状態で、もうみてくれに構いきれない人間の精神状態ギリギリ加減を見事に演じていた。

この奥さんに関してもう1つ。
起こっている事件で霞んでいるが、そもそもこの奥さん、ちょっとめんどくさい人だなと思った。
その前後の場面から見てとれるが、レイプ殺人が起こったことと(実際は違うが)車の盗難を即直結させてしまう思い込みの激しさとか。

その他いいなと思ったところで、作中の主要男性を取り巻く女性達が、それぞれキャラが立ってて魅力的だった。

特に、ふくよかな女性警官コンビはカッコよすぎる故に面白かった。
杖をついた女性警官は、結構な役職であると見てとれるし、やけに渋い。
この一件を暴くとなれば胆力が必要だと後輩女性警官に酒を勧める場面とか。
その後輩女性警官も、同性のパートナーが家でキッシュを焼いているとさらっと言っている。
そして大活躍するし。

個人的に1番好きなのは、事の顛末を知るバンド仲間の友人の、恐らく近しい間柄の女性。
その友人が町を出るからってことで猫の餌やりとか引き受けたりするのだが、特に追求はして来ない。
なんかしらあったんだろーけどわかったOK〜と快諾してくれる懐の深さというか軽さが心地良かった。
最後の場面で、なんやかんやありやって来た主人公と対峙している友人を見て、「肝心な時に助けなかったくせに」と、意地悪なことを言ったりもするが、だからと言って咎めている様子もなく。なんならちょっと茶化して来る。
男性にとって都合の良い感じがグッと来ただけなのだけれども。
他の登場する女性が、前述しためんどくさい奥さんだとか、浮気を疑って主人公に詰め寄る死んだバンド仲間の奥さんだとか、そういった対比で良く見えるだけなのだろう。

対比で言えば、作中男性はジタバタしたり情けないところが多く描かれているのに対して、女性は毅然としていた。
主人公のめんどくさい奥さんも、全てを知った上で、ビンタを食らわせ、親友を欺いてでも、最終的には旦那に協力して一生懸命口裏を合わせようとしていたし。
そして女性警官コンビは言わずもがな。

男性は、女性は、と区別することに意味は無いのだけども、それでもこの作品では、男性の子供っぽさとか、浅はかさが如実に描かれていたように思う。

この作品の総評
人間って計り知れないですね。
ほんとにそうですね。
見えないところで何をやっているかわからない。

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