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俺も疑う【チャペル】

《はじめに》

キリスト教会の牧師が大学のチャペルや幼稚園で話している2000字前後の短い聖書のメッセージです。購入しなくても全文読めます。

《聖 書》 マタイによる福音書28:16〜20

日本聖書協会の「ホームページ等への聖書の引用について」に基づき、聖書の引用を適切な範囲内で行うため、聖書箇所のみ記載しています。該当する聖書箇所を「聖書本文検索」で「書名」と「章」まで入力し、「節」入力を省略すれば、章全体を参照できます。

《メッセージ》「俺も疑う」

 ショッキングな出来事や落ち込む状況が続いたとき、新しく「良い知らせ」が入って来ても、にわかにはそれを信じられないことがあります。別に珍しい話じゃありません。新型コロナウイルスの流行で、去年、満足に学校生活を送れなかった人、大会へ出るのをあきらめた人、友達を作れなかった人が、「新しい年が始まった!」「春休みが近づいている!」と言われても、すぐに期待を抱くことは難しい。

 本当に、今年は素敵な学校生活が送れるのか? 自分のやりたいことができるのか? 新しい出会いと仲間が得られるのか? 疑いから始まった人もいるでしょう。正直言うと、私も疑っています。去年の今頃、中止していたチャペルが最後まで開けても、対面の授業が何とか終わっても、素直に希望を抱けません。

 だって、第6派が来ています。また、新しいクラスターが出るかもしれません。再会する予定の行事も、休止するかもしれない。集まり始めた部活も、ストップするかもしれない。そのきっかけを作ってしまうのは私かもしれない……去年無くなったものが復活しても、いつ、それが、私の前から消えてしまうか、分かったものじゃありません。

 イエス・キリストの弟子たちも「死んだはずのあの人が復活した」と聞いたとき、すぐに喜んだ人はいませんでした。だいたいの人が疑いました。はっきり言えば、全員信じませんでした。本当か? ありえない! そんなこと期待しちゃダメだ……先に、復活したイエス様と出会った女性たちの話を聞いても、納得はしませんでした。

 「あの方は、わたしたちより先に行って、ガリラヤで待っておられます」……しぶしぶ言われたとおり、ガリラヤの山へ登った弟子たちは、確かにそこで、死んだはずの、自分が見捨てた、あのイエス様と出会います。親しい者たちが、涙を流して抱擁する感動のシーン。ところが、聖書は容赦無く、「しかし、疑う者もいた」と残しています。

 感動の再会、喜びの場面、これから新しい出発を予感させる、そんなシーンで、弟子たちの間にあったのは「疑い」でした。みんなが一同に喜ぶべき場面で、ギクシャクしている人がいました。「誰」とは書かれていません。他の福音書に出てくるように、トマスかもしれないし、他にもいたかもしれない。何せ、イエス様は彼らが見捨てて死んだから。

 「復活」という奇跡を、聖書はそんな綺麗に喜ばせてはくれません。死んだはずのキリストが生き返って、全ての者が希望に満ちて、新しいスタートを切れたとは書いてくれません。むしろ、復活後の新しい道は、「疑い」から始まった。「信じられない」思いから始まった。そのことを正直に記しています。

 再会したのに、喜んでほしいのに、自分のことを疑う弟子たちに、キリストは何て言ったのか? 「信じられないならもういい」「弟子をやめたっていい」と言ったんでしょうか? いえ、違います。疑われたイエス様はこう言います。「行って、すべての民をわたしの弟子にしなさい」

 疑っている人に言う言葉じゃないですよね? 「大会に出られるぞ!」と聞いて「どうせ中止になりますよ……」と言っている仲間に「みんなの指導を頼む」なんて言う人、普通いません。しかも去年、中止や敗北のきっかけとなった者に……この様子でまともなスタートを切れるとは、仲間たちと勝利を獲得できるとは思えません。なのに、復活したキリストは「疑う者」へ言うんです。自分を見捨て、今も信じない者たちにこう言った。

 行きなさい……頼んだよ……わたしはいつも一緒にいる……キリストの復活後、「疑い」から始まった弟子たちの道は、いつまでも「疑い」に留まるものではありませんでした。彼らは、様々な状況に揺れ動き、逃げ出し、閉じこもることもありましたが、この方に言われたとおり、世界中で教えを広め、洗礼を授け、信じる仲間を広げていきます。

 もしも今、あなたが「疑う人」であるならば、あなたは今、復活したキリストと、ガリラヤの山で会っています。もしも今、あなたが希望を抱けない、期待を持てない人であるならば、あなたは今、キリストから新たな使命を託されています。信じられなくなった希望が、あなたから広がっていくように、あなた自身を遣わしています。

 私も今日、「疑い」を持ってこの原稿を書いています。希望や期待を持ちにくい中、礼拝の準備をしています。どうぞ、そのことを新たなしるしとして出発してください。疑う者、信じられない者こそ、キリストと出会っているんです。キリストに遣わされているんです。あなたに命じられたことが、あなたから実現されますように。

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柳本伸良@物書き牧師のアカウントです。聖書やキリスト教に興味のある人がサラッと読める記事を心掛けています。サポート以外にもフォローなどお気持ちのままによろしくお願いします。質問・お問い合わせはプロフィール記載のマシュマロ、質問箱、Twitter DM で受け付けています。