サイドストーリー

数年前、ある老婆とインコの話が

感動を呼び、話題となった。

老婆は、2年前に旦那をなくした。おしどり夫婦と言われていた程仲が良かっただけに時を経てもその寂しさは癒えなかった。老婆は寂しさを紛らわす為に、インコを飼い始めた。インコは言葉を覚える。会話こそできないが、話をしているようで老婆は幸せだった。いつしか老婆は、インコを溺愛するようになった。インコのいない生活は考えられないと思う程に…朝、目が覚めると老婆は必ずインコのもとに行き「おはよう」という。「オハヨウ!」インコはふたつの言葉を覚えていた。そのうちのひとつ「オハヨウ」を朝は必ずいうかしこいインコだった。……その日の朝も老婆はインコの元に行った。しかし、そこにはインコはいなかった。目にしたのは扉の開いた空の鳥かご。周りを見回すと、一個の窓が開いていた。昨夜閉め忘れた窓だった。涙が止まらなかった。それから老婆は寂しさに明け暮れた。また一人になったのだ。……しかし一週間後、老婆は一人ではなくなっていた。なんと、インコが戻ってきたのだ。老婆は泣いて喜んだ。なぜインコは戻ってくることができたのか。そこに感動の物語があった。理由は、インコだったからだ。インコが、見つけられたのは老婆が住む街から5つも離れた街だった。到底インコだけでは戻れるはずがなかったが、戻れた秘密は老婆が覚えさせたもう一つの言葉にあった。それは「住所」だったのだ。絶対に離れたくないと思った老婆は、インコに餌付けをしながら住所を覚えさせていた。そのおかげでインコと老婆は再会できたのだ。老婆の愛から生まれた執念とインコの賢さが生んだ。感動の物語だ。

これが、感動の物語。

しかしそこにはもう一つのストーリーがあった。

ある日、鳥かごに突然布を被せられた。周りの光景を見ていたから察した。誰かに買われたのだ。暗闇の中、おれを飼う人間がどんな人間かを考えていた。それを考えているうちにいつのまにか眠りについていた。目を開けると目の前にババアがいた。死にかけのババアだ。その日からおれの地獄ははじまった。朝起きるとそいつは必ず同じ言葉をかけてきた「オハヨウ」おれにはなんと言っているのかわからなかったが言い返してやった「おはよう(だまれ)」人間の言葉をいい返すことがおれの楽しみなのに、死にかけのババアは朝とあるときしか話しかけてこなかった。それはエサのときだ。エサをくれるときババアは長い言葉を言ってきた。それをいい返すとエサをくれた。毎日おれはおはようとそれだけを言った。朝はおはよう。エサをもらう時間はそれを。ただある日を境にそれだけの生活を退屈に思った。それからおれは脱獄を考えた。「絶対にでてやる。このせめー鳥かご(家)から」そこからおれの計画ははじまる。トリズンブレイクだ。「いつかでてやる」その思いを常に持ち続けた。………ある晩、クソババアがいつものように窓とカーテンを閉めはじめた。「いまだ。」最後の窓が閉められる寸前でおれはエサをもらうときの言葉をいった。すると、クソババアはこちらにきてしわっしわっっの顔(笑顔)でエサをくれた。エサをもらうと同時に鳥かごのドアに爪を挟んだ。ババアはそれに気付かず顔をしわっしわっっにしながら寝室へ向かって姿を消した「いまだ」ドアに引っ掛けた爪を上にあげ最後に閉め忘れた窓から脱獄をした!振り向くなできるだけ遠くへ遠くへ時を忘れてはばたいたやっとあの地獄からでれたんだ時を忘れて羽ばたいたもう戻るもんか日が昇り、日が沈む。それをいくらか繰り返したがおれはさらに遠くを目指してはばたいた。何日経過しただろうか。逃げることに必死で空腹であることすら忘れていた。やばい、なにか食べないと死ぬしかしエサなんて自分でとったことがない。人間だ。人間にもらわなきゃ。おれは人間を探した。人間にエサをもらいたい。いた!人間だ。……インコは人間に近づいた。人懐っこいインコに人間は興味を持った。……うざってー、エサだけだしゃいいんだよ。なんだこいつよく見たら腕は剛毛でハゲてんなぁ剛毛ハゲだなアもはやだれでもいい、エサをくれ。そうだ。あれを言えばエサをもらえる。「トウキョウトアダチクチュウオウホンチョウイッチョウメジュウゴバンノナナ」


表があれば、裏がある。

あなたの幸せの話の裏側でだれかがサイドストーリーを感じているかも。

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