チケット価格改定に見る「新しいアーティスト活動様式」の必要性〜動いてないと探せない〜
そりゃ新しい生活様式の中でライブイベントの在り方も変わってくるよなという話です。
鬼頭明里さんの1stライブツアーのチケット価格改定のお知らせがあり、ちょっとした話題になっていました。最初に断っておきますが、たまたま私の観測範囲の第1号が鬼頭明里さんだったというだけで、今後開催される他のライブイベントにも一般化できる内容です。
チケット価格の改定内容は以下の通り。
”改定前”価格:6,800円+税
”改定後”価格:12,000円+税
1.76倍になりました。チケット価格の内訳を詳細に把握しているわけではありません。しかし、ざっくり言えば、感染症に伴う環境の変化で、席の間隔をあけなくてはならず、参加可能人数を減らす必要があり、消毒等の追加コストも発生する中で、改定前価格ではどう試算しても開催費用を回収できないために、客単価をあげましょうということだと理解しています。
イベントに行かない人向けに桁をひとつ落として雑に身近にすると「大好きで限定20食680円を狙って食べていたランチセットが限定10食1200円になったら食べに行くのか」と似たような話です。似てるか?
消費者の立場としては開催費用の回収は少しばかり遠い世界の話なので、結局は1.76倍という価格の上げ幅が自分の中で妥当かどうかというそれだけの問題になります。
行けるので行く人もいるでしょう。
(その値段でも出す!)
行けるけど行かない人もいるでしょう。
(その値段を出すほどではない)
行けないので行かない人もいるでしょう。
(その値段は出したくても出せない……)
限定ランチセットが転売されることはまずありませんが、ライブイベントのチケット価格については、チケット転売問題にも見られるよう、それ単体で見たときに需要供給とのバランスが取れているとは必ずしも言い難いものです。人気の有無に関わらず、1万円を越えるケースはあまり観測されず、邦楽で越えるのは一部の有名アーティストに限られているという認識です。
つまり定価12000円というのは非常事態下でなければ最高クラスの価格設定であり、例えばこれまで定価6800円で会場を埋めてきた全アーティストの単独イベントを定価12000円に改定した場合、現地で参加できることの相対的価値があがっていることを考慮しても、埋められるアーティストと埋められないアーティストに分断されてしまうことが想像されます。
開催側に鬼頭明里さんなら埋められるという試算があるのか、埋められなくても何とかなる体力があるのかはわかりませんが、チケット価格の改定で勝負させてもらえるだけまだマシなほうです。昨今の中止理由の中には、延期先の日程や場所が確保できないというだけではなく、新しい生活様式に合わせた場合にどう試算しても採算が取れそうにないというイベントもあったのではと思います。採算が取れなければビジネスとして成立しません。ファンが定価12000円でもライブイベントに行くべきかどうかの判断を迫られている一方で、開催側も定価12000円でもライブイベントをやるべきかどうかの判断を迫られているわけです。
この件は「コロナ禍が収束し日常が戻った折には必ず価格を元の水準に戻します」とされていますが、問題は従来の価格の従来のライブイベントができるレベルの日常に戻れるのがいつなのか、先行きが全く読めていないところです。しばらくは戻れないという前提で、知恵を絞りながら新しいSTYLEを確立しなければ、特に駆け出しの新人は容易く淘汰されてしまうのではないでしょうか。
今回、客単価を上げて開催する方向で舵を切ることを決めた開催側には敬意を表します。私が本項を書いているように、賛否含めて様々な意見が寄せられることは覚悟の上でのことだと思います。それでも誰かが矢面に立って動き出してみなければ、イベントの中止と延期を続けてばかりでは、ライブイベント業界全体が死んでしまうのです。
社会実験的なところはありますが、この定価12000円のライブイベントを通じて「これでもいけるんだ」とか「こうしたらもっとよくなるんじゃないか」とか業界全体が後押しされてそれぞれが少しずつ動き出せるようになるとよいなと。そして、あれこれ手探りで試行錯誤していく中で、非常事態下でも、うまくいけば非常事態下でなくても、ビジネスが成立する画期的な「新しいアーティスト活動様式」が発明されることに繋がればよいなと心から思います。
まずはとにかく鬼頭明里さんの1stライブツアーがうまくいきますように。定価が高い分、演出が超豪華! では本末転倒なのでそんなことはないでしょうが、(アクリル板越しの)お見送りがある等、参加者の満足度を高めるためのコストの比較的かからない付加価値をつけてくるのかにも興味があります。もっとも、特に何もなかったとしても「苦難を共に乗り越えようとする一体感」自体が既に替え難い特別感のある付加価値のような気はしています。行きたい。
・余談
早々に同時期の開催に向けて延期が決まっていた定価6800円支払済のチケット振替のアリーナスタンディングの斉藤朱夏さんのイベントは果たしてどうなるのか。どの程度の払い戻しがあったのかは知る由もないですが、今から価格を上げるのも参加者を減らすのも簡単ではなさそうな状況で、開催側も頭を抱えていることでしょう。どんな判断が下されても受け止められる心の準備はしておいたほうがよいのかもしれません。
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