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【レビュー】「星街すいせい」という物語の観測者になるなら、今。【Still Still Stellar】

誰かが言っていました。

物語は日の目を見なくても存在する。

たしかにそうかもしれません。しかし、彼女の物語をただの存在で終わらせてよいと私は思いません。そして他でもないこの記事を読んでいるあなたにも、その物語の観測者の1人となって欲しいと願いを込めて。

1. 星街すいせいというVTuberについて

 この記事を読んでくれているあなたは、星街すいせいさんというVTuberについてご存じでしょうか?もしご存じでない方は以下のリンク先に飛んで彼女の魅力の一端に触れてみてください!


2. 念願の1stアルバム"Still Still Stellar"が発売!

 先日2021年9月29日、星街すいせいさんが念願の1stアルバム"Still Still Stellar"をリリースしました。その売れ行きは「オリコン週間デジタルアルバムランキング」やBillboard JAPAN ダウンロードアルバムチャートで1位を獲得するほど順調で、CDも多くの店舗で売り切れ状態になっているとのこと。

 本記事では、こちらのアルバムの各楽曲についてレビューさせていただこうと思います。


3. Still Still Stellar レビュー

1. Stellar Stellar

だって僕は星だから Stellar Stellar

その1フレーズは、世界を星街すいせい色に染め上げるには十分だった。

TAKU INOUE氏が織り成す壮大かつ没入感のあるサウンドに星街すいせい自身が歌詞を乗せた1曲であり、"Still Still Stellar"という作品の始まりを告げる楽曲である。この楽曲をアルバムの1曲目に据えたことは、急激でありながら心地よい世界への導入を実現している。

この曲の中で度々登場する「夜」と「今宵」は
= 彼女のVTuberとしての活動期間
そして彼女が嫌いな「朝」と「明日」は、
= 星街すいせいが活動を辞めてしまういつ来るか分からない未来
になぞらえて解釈できるのではないかと私は考えた。

星街すいせいは今まで活動を続けてくる中で幾度も大きな壁にぶつかってきた。一時は引退も視野に覚悟しながら。

かつて彼女は"ふっと香り立つ朝の匂い"(=VTuberの引退を視野に入れなければならない状況)を憎らしく思いながら、「夜」がいつまでも明けないでいて欲しいと願ったのではないだろうか?そしてヒロインではなくヒーロー(=世界に能動的に救いという光をもたらす存在)になりたいという願望を抱きながらも「ノートの隅に書き連ねた理想」「夢見がちなおとぎ話」だと心のどこかでは思っていたのではないか。

しかし、彼女は諦めなかった。夢に向かって手を伸ばし続けた。まだ見ぬ自身のファンに星街すいせいという特別ではない存在が共感を呼ぶ存在として刺さることを信じて。

そして今、彼女はありったけの輝きで「夜」を謳歌する。"今宵音楽はずっとずっと止まない"と願いながら。

星街すいせいは自身のことを以下のように述べる。

「これを伝えたい!」みたいな強い気持ちがあるタイプではないんです。ー星街すいせい「Still Still Stellar」インタビュー|恒星のように輝くアルバムを手に新たなステージへ

この楽曲は誰に向けて書かれた楽曲でもない。星街すいせいの「ひとりごと」である。楽曲の冒頭でも「陳腐なモノローグ」とはっきりと述べられている。彼女はこのひとりごとを自身で反芻しながら

そうだ僕は星だった

つまり、恒星(=Stellar)のように世界に希望という名の光をもたらす役割を持った存在なのだとその決意を新たにするのではないだろうか。

【こぼれ話】
イノタクさんにぜひ今回のアルバムの表題曲をお願いしたい!と思って依頼したが、ダメ元でのお願いだった。しかし、なんと快くOKの回答を頂けた。それに加えて「自分の方でも曲を出すので歌ってほしい」とイノタクさん側にお願いされ、歌うことになったのがこの「3時12分」だったとのこと。TAKU INOUEとしてのデビューシングルのボーカルオファーだと思っていなかった星街は軽く了承したが、後ほどその事実に気づいて驚いたとか。


2. NEXT COLOR PLANET

アルバムの2曲目をかざるのは、2021年10月9日現在、YouTube MVの再生数が1000万再生を超え、今や彼女の代表曲とも言える"NEXT COLOR PLANET"だ。楽曲の作編曲はArte Refactの酒井拓也氏、作詞はこちらも星街自身が担当している。

本楽曲はデビュー二周年&誕生日前夜祭3DLIVEで初お披露目されたものであり、曲調からも歌詞からも彼女の3年目ひいてはそれ以降の活動に向けての希望や期待が溢れ出すような楽曲であると感じた。特に私が気に入っているのは

このままじっとしてられない(そうさせない)

という歌詞であり、この上なく彼女らしい歌詞だと考えさせられるパートだと感じている。

もともと"NEXT PLANET"というタイトルで制作が進められていた本楽曲だが、Arte Refactの桑原聖氏が楽曲の諸所で「~から」で韻を踏んでいることに着眼したことから、タイトルを"NEXT COLOR PLANET"に変更したという背景を持つ本楽曲。日ごとに新たな一面を目の当たりにさせてくれる星街すいせいという存在に触れた私達の目に、明日は世界がどんな色で映るのかが楽しみになる楽曲である。

【こぼれ話】
"01 Stellar Stellar"⇒"02 NEXT COLOR PLANET"へのつながりが美しいと感じた方はいないだろうか?実は、どちらもKEYが「E major」の楽曲であるため、曲間のつながりが滑らかなのだ。このことについてイノタクことTAKU INOUE氏もTwitterで言及している。


3. 天球、彗星は夜を跨いで

作詞・作曲・編曲をキタニタツヤ氏が手掛ける、これまで多くの星詠み(星街すいせいファンの総称)の魂を揺さぶってきた1曲が本アルバムの3曲目だ。

先ほど、「魂を揺さぶる」という表現を用いたが、まさに文字通りである。この楽曲は星街すいせいからの渾身の右ストレートだ。彼女のVTuber生命を賭し、全身全霊を込めた1発が視聴者を本気で沈めにくるのである。

この楽曲を発表した当時、彼女は個人勢のVTuberとして活動しており「この楽曲を出して人気が出なかったら、自身の環境が変わらなかったら引退しよう。」という覚悟を決めていた。その覚悟がこの楽曲からは伝わってくる。

「天球、彗星は夜を跨いで」に対する想いを語ったシーンの動画がこちら(01:28:05~)

この曲の歌詞は、当時の自身の心情に偶然にも合致するものだったと星街は語る。偶然の一致には過ぎないのだが、私はこの楽曲は星街すいせいがVTuber引退という幕引きで姿を消した世界線の姿を綴ったものであると感じずにはいられない。

歌詞に登場する僕(=星詠み)は君(=星街すいせい)ともう会うことはできない存在であることが示されている。そんな天球で離ればなれな状況でも、確かに彼女がそこにいたという証であるアーカイブを通して僕らは繋がっているのだ。

YouTubeにアップロードされているMVのラストに表示されるメッセージは、星が降った後の街で「天球、彗星は夜を跨いで」のMVを観ながらをずっと君の行方を探すifの世界線を生きる僕に向けたものだったのかもしれない。

あなたに、感謝を込めて

【こぼれ話】

天球で離ればなれでも 僕らは繋がっているから

抑え気味な発声から一気に声量を爆発させるパートだが、収録時の音割れを防ぐために「繋がっているから」の部分で星街はマイクから遠ざかりながら歌ったとのこと(ソースは現在非公開となっているアーカイブのどこかであるため掲載不可)


4. GHOST

私がここにいることを、この世界に知らしめる

VTuberという存在をGHOSTのような存在だと皮肉や自虐を織り交ぜながら星街すいせいが練り上げた歌詞をDream Monsterの佐藤厚仁氏によるサウンドに乗せ、存在証明を叫んだロックでダークな楽曲である。

全体を通して、ギターとドラムが雄弁であり、躍然とそして時には淑やかに抑揚をもって語りかけてくるように感じられる。このあたりはポスト天球となるアナログ寄りな楽曲をオーダーした星街の要望に応えきった佐藤氏の腕前の光るところであろうか。

今後VTuberという存在がどのようなものになっていくかはわからないが、星街すいせいが望むような「VTuberがサブカルチャーからカルチャーに」なった世界を見てみたい。その先陣を切り開く1人となるのは星街すいせいだと私は信じている。

【こぼれ話】 
この楽曲の歌詞は2日で書き上げられたことが知られている...もともとテーマやコンセプトが自身の中で固まっていたとは言え、爆速の執筆だ。

3周年記念ライブアフタートーク&新曲制作秘話 (48:10~)


5. バイバイレイニー

作詞・作曲・編曲はボカロPであるkemu氏こと堀江昌太氏。しかし私が知る氏の楽曲の雰囲気とは一線を画しており、堀江氏の新たな一面を垣間見たような気がする。

この楽曲は歌詞の主体となる主人公の視点から「君」との離別の楽曲であり、虚無感に囚われていた主人公が君との思い出に別れを告げ、新たな一歩を踏み出すまでを巧みに描いている。以下、各パートに分けて歌詞を考察していく。

◆1番Aメロ◆ 君との別れで主人公は周囲の様々なものに虚無感を抱いている。「空っぽのサイレン」「乾いた施錠音」目に入るもの、耳にするものなにもかもが無機質に感じる。今思い返してみれば、君との関係の綻びは言葉の節々にも表れていた。

◆1番Bメロ◆ 君がいない「どうでもいい朝に慣れ過ぎて」という歌詞から、君との別れからしばらくの時が経過していることがわかる。そして、主人公は傘を持っているがそれは自分のものではない。君が残していったものである。だからこそ「傘は持ってない」のであり、「借りてた未来」があったかもしれないと想像してまた虚無感に囚われる。傘を返しきれていないことに罪悪感を感じながら、君との思い出の残る街に疎外感を感じる余所者としてからがら逃げるように飛び出す。

◆1番サビ◆ 相合傘で肩が触れたのはいつのことだっただろうか、今となっては触れる肩が無いことで君の不在を身に染みて実感する。そして、この舗装路を歩いているときの思い出が蘇る。「こんな間違えたんだね」、浮かんだ君との思い出を減点式で採点しながら眼前のパノラマを塗りつぶしてゆく。

◆2番Aメロ◆ 無粋にも聞こえるクラクションが耳に入る。あんな風に喚いて叱り合えたらそれでよかったんだろうか?泣いて泣き続けた結果も何も残らなかった。

◆2番Bメロ◆ 都会の喧騒を抜けて5分ほどの砂地が広がる公園。ここは現世と隔離された宇宙の裏側、自分だけしかいないと錯覚するような感覚に陥る場所だ。タバコをふかしながら救いのない世迷言を唄う。

◆2番サビ◆ 君の頬へのキスを走馬灯のように思い出し、独りであることを実感する。君との思い出と離別しなければならないと主人公は自分を奮い立たせる。

◆Cメロ◆ ほんのかすかににわか雨が降ってきた。この雨雲を君に見立てながら、君のこれからの行く末の無事を祈る。

◆ラスサビ◆ 先ほど君との思い出を減点式で採点しながら歩いた舗装路を歩きながら主人公はその思い出に蓋をする。「これで良かったんだね。」減点式では無くなった思い出達は加点式となり、君との思い出は満点だったものとして主人公の中に残るのであった。

以上が歌詞に関する考察である。

楽曲構成に関する考察としては、サビ後半でGminorからCmajorにキーが転調するのが面白い点だと考える。メロディがminorキーからmajorキーに変わることで楽曲の終わり、つまり君との別れに爽やかさが加わっているのだ。

本楽曲を皮切りに星街は、アイドルVTuberでありながらもアーティスティックな側面をより一層強め始めている印象を受ける。これからどのような顔を私達に見せてくれるのかが楽しみである。

6. 自分勝手Dazzling

作詞はRute氏、作曲をお馴染みの酒井拓也氏、編曲は酒井拓也氏に加え、同じくArte Refactに所属するの河合泰志氏が担当している。

チュウニズム」とのコラボ楽曲である所以、「デート中に」や「Tuning up, tuning up,・・・」など言葉遊びの要素が歌詞の中に散りばめられている。音楽ゲーム「WACCA」に収録された「NEXT COLOR PLANET」に続き、ゲームセンターで聴くことができる楽曲だ。

彗星の如くあらわれたスターの原石!アイドルVtuberの星街すいせいです!すいちゃんはー!!!!今日もかわいいー!!!!!!!!

彼女は自身のことを「スターの原石」だと自称している。本楽曲はそんなスターの原石たる星街すいせいが磨かれ、カットされた宝石のようなスターに成長しつつあることを示唆する楽曲であると個人的には解釈している。

上に貼ったMVには以下のようなシーンがある。これらがそのように解釈した背景の一端である。

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become as brilliant as a comet の文字

原石

磨かれるのを待つ原石

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原石がブリリアントカットされていく様子

星街すいせいはこれからも活動を通して磨かれていくことで「自分勝手」にその輝きを増していくことだろう。そう、1800光年先の夜空に情熱を秘めて輝くデネブのように。そして、その輝きに魅せられた者は星詠みとなり、星に願いを懸けるようになるのだ。

【こぼれ話】
以下に貼った「自分勝手Dazzling」のDance MVだが、アスペクト比が他の動画(16:9)と異なっていることに気が付いただろうか?(筆者が独自に調べたところ、おおよそ「2:13:1」という比率)映画でよく利用される「2.35:1」とも、映像業界でもちいられる「2:1」とも若干異なる比率だが個人的には面白い比率だと感じた。動画のアスペクト比ひとつ取っても制作へのこだわりが垣間見れるのではないだろうか。


7. Bluerose

作詞作曲を夏代孝明氏、編曲を渡辺拓也氏が手掛けた星街すいせいの7thオリジナルソングがアルバムの7曲目。

あなたは青い薔薇のエピソードをご存じだろうか。もともと、青薔薇は幾度も試行錯誤を重ねても実現ができなかった品種であり、花言葉は「不可能」。世界的に不可能の代名詞とも言えるものだった。しかしサントリーが2009年に青い薔薇を実現したことで花言葉が「夢叶う」となった背景がある。

作詞作曲を手掛けた夏代孝明氏は語る。

歌の部分でね、バーチャルYouTuberっていう世界の中で、(星街すいせいさんは)切り開いていった存在なのかなって僕は凄い思ってて、誰もこうなってくると世の中のこと思ってなかったと思うんだよね。その世界の中で星街すいせいさんは一輪の青い薔薇なのかなって。ーひさしぶりだねおしらせとちょろっとうた

今まで数多くの困難にぶつかりながらもあきらめずに夢に向かって手を伸ばし続け、2021年の今、念願の1stアルバム・豊洲PITでのソロライブを実現させた星街すいせいは、まさに一輪の青い薔薇と言えよう。

また、YouTubeのBluerose MVの感想を読んでいると以下のような面白い考察を見つけたので紹介したい。

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なるほど、言い得て妙...素晴らしい考察だと心から賞賛したい。

そんな「Bluerose」はリスナーである星詠みと星街すいせいが互いに寄り添い、支え合うような珍しい楽曲となっている。この楽曲に登場する星街すいせいはすべてを認め、受容し、許しを与えてくれる存在として描かれる。この曲中のすいちゃんに感化された者は心に"イマジナリーBlueroseすいちゃん"を住まわせるそうだ。確かにすべてを救済するこの楽曲のすいちゃんは、現代を生きるストレス多き私達の精神衛生上、非常にプラスになってくれる存在だと考える。本楽曲はこれからも多くの星詠みを救っていくだろう。

8. comet

星街すいせいにとっても星詠みにとってもかけがえのない1曲である星街すいせいの1stオリジナルソング「comet」がアルバム8曲目を飾る。作詞作編曲は*Luna氏。

幾度もリテイクを重ね、こだわり抜いて作り上げられた楽曲であり、カラフルでエレクトロなかわいらしい1曲でありながら彼女のアイドル活動に懸ける想いの強さが楽曲を通して感じられる。

全体を通して、自身含めたVTuberを星に例えた詞で紡がれており、「今はまだ小さな光だけど、きっとあなたを夢中にしてみせる」という星街の強い意志が示されている。

個人勢VTuberとして楽しくも苦しい時期を乗り越え、今日も夢に向かって邁進する星街すいせい。出会えたことに心からの感謝を。そして未来の星詠みにもこの歌がきっと届きますように。

【こぼれ話】
実は2ndオリジナルソングである「天球、彗星は夜を跨いで」をキタニタツヤ氏に発注したのは、本楽曲よりも先だった。しかし、出来上がった「天球」を聴いた時、「この曲は2曲目、3曲目とかに出した方が味がありそうだな」と感じた星街は、急遽1曲目として「comet」を*Luna氏に制作していただくことにしたとのこと。


9. Andromeda

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コヤマヒデカズ氏ことナノウ氏が作詞作編曲を手掛けた珠玉のバラード。まさか「サビでうわあああバラード」のみのオーダーでこの楽曲が仕上がってくるとは誰も想像だにしなかったであろう。

サビでうわあああ

星街からのナノウ氏へのオーダー「サビでうわあああバラード」

本楽曲はサウンド構成がサビでの盛り上がりを巧妙に生み出している。

静かなアルペジオで始まり、楽曲の壮大さを垣間見せた後、AメロとBメロはサビに向けたタメに入る。ここでのタメがあるからこそ、サビの壮大さが一層際立っている。そして、ラスサビ前に一瞬入る空白もまたその役割を果たしている。堂々たる美しいサビを支える工夫が曲の諸所に施されていると感じた。

また、サビで頻発する音域に星街が特にパワフルな発声を行えるhiC以下(mid2G~hiCくらい)の音程を用いているため、バラードでありながら非常に力強い響きを持って私たちの心に響いてくる。本楽曲は収録にあたってキーを-3したとのことだが、その選択が非常に功を奏していると私は考える。このキー選択をもって「サビでうわあああバラード」は完成する。

ナノウ氏の技巧が随所に光るサウンドに星街の力強い歌唱が重なり、Andromedaの世界観は構築されているのだ。

【こぼれ話】
2021年11月22日に開催された☄️SUISEI MUSIC"POWER"LIVE☄️にて、ナノウ氏の「文学少年の憂鬱」を歌ったことから、今回本楽曲のつながりが生まれたようだ。


10. Je t'aime。

ジュテーム

作詞作編曲を手掛けたのはHifumi,inc.所属の櫻澤ヒカル氏。星街すいせい曰く、星街の楽曲は大きく分けて、1.星っぽいやつ、2.街っぽいやつ、3.大人っぽいやつの3パターンに分かれるとのことであり(星街談)、本楽曲は「3.大人っぽいやつ」に該当する1曲だ。

本楽曲は「私」と「あなた」の間の一夜のラブストーリーを描いたものだと個人的には解釈した。

今宵、私があなたを想う感情は歪み破れ、ピュアな気持ちとは離別し、衝動が抑えきれなくなる。そして私は望む。「壊れるまで愛してほしい」と。そこに至るまでの過程であるロマンスは「殺した」のである。過程となるロマンスを殺したことで、私の中での「愛情」という概念が滲んで汚れていった。しかし、下がらない体温は正常な思考を奪っていく―――――――

あなたと見る横向きの世界は煌めいて見える。そう、私はこの関係をこれからも継続したいと考えているのだ。しかし、あなたはそうではないらしい。どんな毒(正常な思考を奪う何かしらの手段?)をもってすれば、あなたの気持ちを変えられるか私は思案する。しかし、あなたは私を置いていこうとする。私は懇願し、誘惑する。「行かないで。私はあなたを愛しています。ーJe t'aime。ー」と。

他の楽曲の大人っぽさを追随させないほどの大人な歌詞/サウンドとそれを歌いこなす星街の姿に驚きを私は隠しきれなかった。どこまでも可能性の広がりを見せてくれるアーティスト「星街すいせい」の今後の「大人っぽいやつ」路線の曲にも期待を高めずにはいられない。

11. Starry Jet

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星街の凝り性が発揮された結果、アルバム楽曲の中で一番難産だったと本人の口から語られる「Starry Jet」。作詞はあんさんぶるスターズでもお馴染みのこだまさおり氏、作曲はHifumi,inc.の齋藤大氏、櫻澤ヒカル氏の両名、編曲は齋藤真也氏と製作に4名が手厚く関わっている楽曲がアルバムの11曲目だ。

「コールができる楽曲が欲しい!」というオーダーに基づいて制作された本楽曲は、そのアイデンティティをしっかりと確立して降誕した。

この楽曲を引き立てているのは、なんと言っても生にこだわったブラスと言えるだろう。もともと制作初期段階では楽曲のイントロにも若干垣間見られる「ニチアサ感」を含んだサウンドだったそうだが、そのイメージを払拭し「ニチヨル感(星街談)」を演出する上で大きな役割を果たしている。「Starry Jet」は「星街すいせいといえばブラス」を印象付けるには十分な役割を果たしたと思われる。

また、我々のテンションを突き上げるかの如く跳ねるベースの果たす役割も忘れてはいけない。4つ打ちのリズムで弾かれるそれは、我々聴き手側に「乗れ!飛べ!」と語りかけてくるようだ。

本楽曲は、ライブのために生まれたといっても過言ではないほどライブ映えする楽曲だと私は感じている。"STELLAR into the GALAXY"では時節柄、コール等は不可となるが、会場の盛り上がりと一体感は、息を呑むような光景を生み出すだろうと確信せずにはいられない。

星街すいせいは私達に幾度となく素晴らしい景色を見せてくれた。きっとこれからもそれは変わらない。このパーティーチューンに乗せてならば、きっと私達は手と手を取ってどこまでも飛んでいけることだろう。

【こぼれ話】
楽曲収録時に「この楽曲ってブラス生になりません?」って話が挙がり、「無理ではないかもしれませんが、提示されている予算だとあまりたくさんの楽器は取れないと思いますよ?」と聞いたので、予算アップしてブラスを生にしたそうだ。英断すぎて、スタッフ関係者様方全方面に感謝の意を表したい。

12. 駆けろ

前々から歌枠中にも「やっぱみきとPなんだよなー!」と度々口にするほど敬愛していたみきとPとのコラボがついに実現した。星街からのオーダーである「ロックな雰囲気かつ、思春期の女子目線で葛藤を描いた曲」というイメージをみきとPの手腕が形にしたナンバー。

「駆けろ」という標題通り、眩しいまでの疾走感のある仕上がりとなっており、イントロのギターとドラムには痺れた人も多いのではないだろうか?聴き手の情動を揺さぶるバンドサウンドにはどこか懐かしさも感じられる。

本楽曲のMVで登場する「雨」「傘」「道路標識」「青と黄色の線」という記号について、私は

「雨=思わしくない社会情勢ひいては主人公を取り囲む好ましくない環境」

「傘=周囲からの同調圧力」

「道路標識=同調から逸脱する者を縛る様々な制約」

「青と黄色の線=主人公への声援、望ましい方向に導くもの」

のように解釈した。

駆けろ1

始まりのシーン、本MVの主体である星街すいせいは降りやまない雨の世界で傘も差さずに佇んでいる。

駆けろ2

そんな彼女に対して同調を求める周囲は呼び掛ける。「傘を差しなさい」と。

駆けろ3

嫌気が差した彼女は、周囲の同調圧力や好ましくない周囲の環境を振り切るように傘も差さずに走り始める。

駆けろ4

しかし、そんな逸脱者(マイノリティ)にはそれを縛る様々な制約が付きまとってくる。また、それと同時に彼女を応援しようとする声も上がるようになった。

駆けろ5

彼女は、制約や同調圧力に屈することなく、足を止めずに走り続けた。そして、彼女への声援はその足取りを導いた。

駆けろ8

依然として、制約や周囲からの同調圧力は止むことはなかったが、駆けつづけていると、晴れ間が見えてきた。

駆けろ10

これからも主人公は自分の夢に向け、足を止めず駆けていく。

端的にまとめると、「駆けろ」は思春期の女子高生を主人公とした、同調や制約の多き現代社会に対するアンチテーゼ的な楽曲ではないだろうか?というのが私の結論である。

本楽曲が"Still Still Stellar"のラストを締めくくるわけだが......

いや、「締めくくり」という表現はふさわしくないだろう。 なぜなら星街すいせいという物語は続いていくからだ。彼女はこれからも傘を差さずに混迷を極める令和という時代を駆け抜けていくのだ。

【こぼれ話】

本楽曲はキー設定を迷いに迷った楽曲とのこと。元のキーから-2が余裕を持って歌えるキーだが、感情が乗るのは-1だったそうだ。みきとP氏にも歌った音源を送って聴いてもらったが、「これは迷いますね」と答えは出ず。星街は収録前日まで迷った結果、最終的に-1のキーで収録したようだが、これがライブでどう映えるのかが非常に楽しみな1曲だ。

4. 各楽曲の星街すいせいさんの歌唱可能音域との比較図

音域図

全体的に高音側が厳しめのキー設定だと感じましたが、

ライブとかになるとアドレナリンがダバダバ出て、声が高くなったりするの。高いところがすこぶる出たりするのね。そういう時に抑えて歌うのももったいないなぁと思って。【テトリス99】10位以下で即終了テトリス🎮【ホロライブ / 星街すいせい】

とすいちゃんが語るように、ライブで歌うときのことを想定してのキー設定なのかもしれません。

 また、低音側についても発声が厳しい音域を用いている楽曲がいくつかありますが、最近すいちゃんの低音域が少し伸びてきているのではないかと感じているのは私だけでしょうか?

(※以前はかすれていた「冒険彗星」の最低音が発声できていることがわかります。ー2021/05/12【歌枠】SINGING STREAM volumeUPver.【ホロライブ / 星街すいせい】)

星街すいせいさんの歌声はこれからも進化を遂げていくことでしょう。

※1  星街すいせいの推定歌唱音域については、過去執筆したこちらの記事から引用しました。

※2 上図に登場する、mid〇〇やhi〇〇などのワードの意味については、以下のサイトを確認してください。


5. 初のソロライブ"STELLAR into the GALAXY"が開催決定!

 ここまでアルバムの楽曲レビューに目を通していただきありがとうございました!ここでお知らせなのですが、1stアルバム"Still Still Stellar"を引っ下げた星街すいせい初のソロライブである"STELLAR into the GALAXY"が2021年10月21日(木)に豊洲PITで開催予定です。ぜひ以下の公式サイトをご確認の上、チケットを購入してオンラインライブを視聴してみてください!


6. さいごに

どんなに素晴らしい物語がそこにあったとしても、その内容を知ろうとする観測者がいなければ、物語はただの存在で終わります。

これまでただの「存在」に過ぎなかった「星街すいせい」というアイドルVTuberが、今あなたの観測範囲に彗星の如く現れたのです。私はあなたにとって彼女をただの「存在」で終わらせて欲しくはありません。

もし少しでも興味を持ってくださった方、自身の感性を信じて、彼女の生き様にそして声に目と耳を傾けてみてください。見上げれば、星はいつもそこにあります。

かまぼこ(@boko_kama_)


星街すいせいさんのYouTubeチャンネル

筆者管理のWebサイト

筆者について




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