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誰でもわかる資本と利益の区別

はじめに

資本取引をしっかりさせることで資本と利益を区別し、正しい損益を計算しましょうというお話しです。

1 資本取引とは何か?

まずは資本取引とは何か?をはっきりさせておきましょう。

資本取引とは、株主との直接的な取引をいいます。

株主と直接取引をして、財産が増減するのが資本取引です。
増資のように株主から財産を受け入れたら資本取引です。
株主に配当をすれば会社の財産が減るので資本取引です。
原資(利益剰余金か、資本剰余金か)は問わず、配当は資本取引です。

今日の会計は株主の立場で行います。
このような考え方が資本主理論です。
資本主理論では、株主はいわば企業自身なので株主に財産を払い戻しても費用にはならず、株主から財産を受け入れても収益にはなりません。
資本取引があっても損益計算には影響がなく、資本金などの株主資本が増減するだけです。
資本取引に該当するかどうかが「資本」か「利益」かの境目です。

資本取引では、株主資本が増減し、収益や費用が生じることはない。

*なお、純資産の変動額である包括利益を計算する場合の資本取引は、純資産に対する持分所有者との直接的取引です。純資産の持分所有者には、株主以外に新株予約権者、子会社の非支配株主も含まれます。純資産に対する持分所有者との直接的取引によって純資産が変動します。

2 資本取引に該当して資本になるもの


増資や配当は、株主との直接的な取引であり、資本取引をしても、利益には影響しません。
それではちょっと特殊な自己株式の取得はどうでしょうか?
自己株式とは、いったん会社が発行した株式を再び取得したものです。
自己株式は、株主から取得し、株主に会社財産を払戻したものですから、その取得取引は資本取引です。

かつては自己株式の取得が原則として禁止されており、自己株式を資産として処理していました。
企業は、新株の発行とほぼ同じ手続で自己株式を処分(再発行)し、資金を手にすることができるからです。
もっとも新たに株券を準備して増資をしても資金を手にすることができ、自己株式は、その新しく印刷したばかりの株券と同じ意味を持ちます。
刷りたての株券に証券市場で売買されている他社の株式と同じ価値はありません。
紙代と印刷代の価値しかないことは自己株式も刷りたての新株も同じです。
自己株式は一定の手続を踏めば、株主からお金を集められるだけで、他社の株式のように市場で換金できる価値はなく、ただ資金を集める手段に使えるだけなのです。
したがって、自己株式は、資産ではなく、株主資本の控除項目として処理されます。

自己株式の取得は資本取引であり、自己株式は株主資本の控除項目として処理される。

3 資本取引に該当しないで利益になるもの

企業が固定資産を取得する際に国から補助金の交付を受ける場合があります。
このような補助金を国庫補助金といい、収益(特別利益)として処理されます。

かつて国庫補助金は収益ではなく、資本とすべきだいう考えがありました。
資本剰余金の中に「その他の資本剰余金」という項目を作っていたこともあります。
国庫補助金は、企業が国の政策的な配慮から受けたものです。
これを利益として課税するのではなく、資本の一種と考えようとしたのです。

しかし、国家は株主ではありません。
現行制度上はこれを資本と解釈する余地はありません。
国庫補助金の受入は、資本取引ではなく、利益になります。

国庫補助金の取得取引は、資本取引ではなく、国庫補助金利益である。

4 資本取引に該当しないで費用になるもの

同様の判断は、現行で費用として処理するかどうかでも行います。
法人税の性格に対する考え方には、費用説と利益処分説があります。
費用説とは、法人税を企業会計上の費用とする考え方です。
利益処分説
とは、法人税を利益の処分とする考え方です。
利益処分説では、法人税等が利益(所得)に対して比例的に課されることから利益の処分に近いと考えます。
しかし、法人税の負担先である国家は株主ではなく、現行制度上は費用説しか考えられません。
法人税は、現行制度上、資本取引以外の取引による財産の減少であり、費用とされます。

国際会計基準では資本の控除項目として処理されている株式交付費も同様の判断ができます。
株式交付費の内容は、例えば株券の印刷費用です。
株券の印刷費用を払う相手は印刷業者であり、株主ではありません。
したがって株式交付費は資本取引には該当せず、費用になります。
なお、現行制度上は株式交付費は、その支出の効果が将来に及ぶため繰延資産として計上し、その支出の効果が及ぶ期間で償却することができます。

株主以外への支払いである法人税株式交付費費用である。

5 ちょっと複雑なもの

これまでの取引とは異なりちょっと判断に苦しむ項目もあります。
新株予約権は、ちょっと複雑です。
新株予約権を発行したときは、株主との取引ではないものの新株予約権者が株主になる権利がある間は企業が利益として計上するのもおかしいです。
いわば資本でも利益でもない状態です。
このため現行では、株主資本以外の純資産とされます。
仮勘定に近いですね。
その後の行方には2つあります。

一つは、新株予約権が権利行使されたときで、新株予約権の所有者が株主になります。
この場合は、その権利行使の取引は資本取引であり、新株予約権の発行取引も振り返ってみれば権利行使の取引と併せて資本取引と考えられます。
新株予約権の帳簿価額は払込資本の性格を持ちます。

これに対して新株予約権の権利が行使がされない場合があります。
新株予約権の権利を行使せずに失効したら、新株予約権者は株主にならないのですから、当初の取引による財産の増加は資本取引によるものではなく、新株予約権の効力がなくなった段階で収益(新株予約権戻入益)とされます。

新株予約権の発行では株主資本以外の純資産が増える。
権利を行使したら払込資本が増える。
権利が失効したら利益になる。

おわりに

資本取引は株主との直接的取引であり、株主資本を増減させます。
厳密ではありませんが、やや回りくどい言い方をすれば、資本取引以外による株主資本の増減取引が損益取引です。
その判断自体は株主との取引かどうかが極めて重要です。
資本取引と損益取引の区別をしっかり行い企業の期間損益計算を正しく行うことが今日の会計における大きな一つの課題です。
そのためには資本主理論に基づき資本取引を確定させる必要があるというお話しでした。


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