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オペレーティング・リース取引におけるリース物件に資産性はあるか?

1 資産の定義を考える

概念フレームワークでは、資産を次のように定義しています。

資産とは、過去の取引または事象の結果として報告主体が支配している経済的資源をいう。

討議資料 財務会計の概念フレームワーク 第3章4

「経済的資源」とは、キャッシュの獲得に貢献する便益の源泉をいい、「支配」とは、所有とは異なり、経済的資源を利用し、経済的便益を享受できる状態をいいます。

リース取引における借手は、オペレーティング・リース取引における物件を使用し、そこから便益を受けているのですから、経済的資源に該当するのは間違いないでしょう。

また、オペレーティング・リース取引では、リース物件を専属的に使用し、そこから経済的利益を得ているのですから、リース物件はいかなる意味でも「所有」しているといえませんが、リース期間中という限定はありながらも、リース物件を「支配」しているともいえます。

これで結論なのですが、以下、細かくみておきましょう。

2 資産の定義と資産を計上するかは違う

資産の定義を満たすか(資産性)と資産計上されるかは、おおむねリンクします。

しかし、必ずしも一致するとは限りません。

①資産性なし・計上なし、②資産性なし・計上あり、③資産性あり・計上なし、④資産性あり・計上ありという4つのタイプに区別できます。

それぞれの事例を考えておきましょう。

①資産性なし・計上なし

ごく標準的な費用項目が該当します。


②資産性なし・計上あり

これは少なくて例えば、臨時巨額の損失(企業会計原則注15)を資産計上した場合が該当します。

臨時巨額の損失はただの災害損失等ですから、資産性はありません。

現行制度上の繰延資産には、資産性が曖昧なものも含まれますが(多くの創立費や開業費など)、これが資産計上された場合もこのタイプといえるでしょう。


③資産性あり・計上なし

資産性はあるものの資産計上されない項目の代表例に自己創設のれんがあります。

自己創設のれんは財務報告の目的の観点から資産計上されません。

この他にもたとえば、我国では研究開発費は、すべて発生時に費用処理しますが、国際基準では、一部の開発費を資産計上します。

これは開発費の一部について、資産性があることを示すものともいえるでしょう。

我国では、収益獲得の不確実性等を根拠にすべてを発生時に費用処理していますが、その中には将来のキャッシュの獲得に貢献するだろう部分も当然含まれているのです。

また、退職給付制度における年金資産も企業が自由に使用することはできませんが、退職給付債務の支払いに充てられることからキャッシュの獲得に貢献し、資産性を有するものの、貸借対照表の表示においては退職給付債務から控除することとされています。

重要性の原則の適用を受け、簿外資産として貸借対照表には計上されない貯蔵品などもこのタイプに該当します。

④資産性あり・計上あり

これは多くの資産項目が該当します。


オペレーティング・リース取引におけるリース資産は、資産性はあるけど資産としては計上されていない③に該当するものと考えられます。

3 オペレーティング・リース取引は、実質的にみてもリース物件を所有していないリース取引

現行のリース基準ではファイナンス・リース取引を定義し、これに該当しないリース取引をオペレーティング・リース取引とします。

ファイナンス・リース取引は、ノンキャンセラブル(解約不能)とフルペイアウト(コスト負担)の2要件を満たすリース取引です。

このような要件は、取引の実質が売買であることを確認するためのものでしょう。

法的には売買ではないけれども、実質的に売買と変わらずに資産の所有権も事実上は移転しているのと変わらない取引かどうかの判断基準です。

ノンキャンセラブル要件は、いわば負債性を有するかの視点からの要件です。

契約を解除することができないためにリース料を支払う義務を負うわけですから。

フルペイアウト要件がいわば資産性を有するかの視点からの要件です。

これら2つの要件、つまり資産性と負債性のいずれの要件も満たしたものがファイナンス・リース取引として資産と負債が計上されることになります。

この2つの要件のうちいずれかの要件を満たさないリース取引がオペレーティング・リース取引です。

オペレーティング・リース取引でもノンキャンセラブル要件のみを満たせは解約はできず、リース料の支払義務を免れることはできないことから、注記が要求されています。

また、フルペイアウト要件のみを満たせば、実質的な所有という観点からも資産性はあると考えられます。

4 オペレーティング・リース取引におけるリース物件に資産性はあるか?

資産の定義に着目すれば、経済的資源の実質を有し、企業が支配していることはオペレーティング・リース取引もファイナンス・リース取引におけるリース物件と異なりません。

現行のリース基準は、いわば実質的な売買とみることができるリース取引について、売買処理を適用していることになります。

いわば実質的に資産を「所有」しているとみられるときに資産計上を求めたものですが、すでに検討したとおり、資産計上されることと資産の定義に該当することは異なります。

結論を再掲すれば、オペレーティング・リース取引におけるリース物件は資産の定義に該当することになります。

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