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資産の評価は原価か、時価か-混合測定という考え方-

はじめに

企業会計では、貸借対照表に資産をいくらで計上するかが大きな課題です。
単に評価といえば資産(や負債)の貸借対照表への計上額を決めることといってもよいでしょう。

かつて、すべての資産は基本的に原価で評価していました。
しかし、現在ではすべての資産を原価か時価の一方のみで評価することはせず、複数の測定値を使い分ける混合測定という考え方がとられています。

混合測定の考え方

今日の制度会計では、資産を所有目的ごとに金融投資事業投資に区分し、基本的に、前者は時価で評価し、後者を原価で評価します。

金融投資 ⇒ 時価
事業投資 ⇒ 原価

金融投資とは、時価の変動による利益の獲得を期待した投資です。
たとえば、売買目的有価証券と呼ばれる短期的な売買を目的として保有する有価証券が金融投資です。
短期的な売買を繰り返す投資家(デイトレーダー)の保有株式を想像するとよいでしょう。

時価の変動による利益の獲得を期待した金融投資に期待する成果は、時価の変動そのものであり、時価の変動額を損益とし、貸借対照表にも時価で計上します。

事業投資とは、販売や使用を目的とした投資です。
事業投資は、時価の変動を期待するのではなく、時価の変動以外の価値の実現を期待しています。
商品や固定資産などが事業投資の典型です。
商品なら販売してより大きな資金を得て、固定資産なら事業活動に使用することによる利益の獲得が目的です。

事業投資の共通点は単純な時価の変動が目的ではない点です。
商品であれば時価の変動以前に売れるかの問題(販売リスク)があり、固定資産の使用を止めて売却しては事業活動に支障が生じます。
保有する資産の時価は、事業投資でも下がるより上がる方がマシでしょうが、時価が上がっても売却するとは限りません。
個人でいえば、自宅の時価が変動しても生活に変化はなく、そこに住み続けるなら売却しないし、時価にさほど関心もないでしょう。

ただし、いつまでも原価で放置するのではありません。
その事業活動の結果、商品なら販売してなくなったり、固定資産なら利用による価値の減少に応じて原価を費用として配分し、期間損益を計算します。

事業投資は、時価の変動を期待していないため、時価で評価せず、所有期間中は原価で評価し、これを費用としてその後の事業年度に配分し、後に獲得する収益との差引で損益を計算します。

企業が行う投資をその期待の違いによって区分し、それぞれに応じた損益計算と資産の評価を行うのが混合測定の考え方です。

金融投資の会計処理

金融投資とは、時価の変動を狙って利益を得ることを期待した投資でした。
金融投資がいわば時価変動を狙う以上、時価の変動が成果であり、時価で評価します。
金融投資は、トレーディングと呼ばれる短期的な時価の変動を狙った投資に限られます。

短期的な時価の変動を狙う以上、取引が実際に市場で行われるという前提が不可欠です。
仮に売買できる市場があってもそこに参加するのに一定の資格が必要であり、自分が参加できなければ意味がありません。
株式市場や商品取引所といったプロもアマも参加できる市場の存在が金融投資の前提です。

金融投資は、活発な取引が行われる単一市場の存在を前提にします。

市場での時価の変動を狙った投資なら必ずしも株式などのお金に近い資産の必要はありません。
金や銀、小豆やコーヒー豆など商品取引所で取引される実物資産も対象になります。
「金」(きん)を商品取引所での取引を前提に時価の変動による利益の獲得を目的とするのとこれを原料として仕入れ、加工して販売するのとでは意味が違います。
短期的な時価の変動による利益の獲得を狙うなら金融投資(トレーディング目的で保有する棚卸資産)ですが、これを加工して販売するなら事業投資(原材料、通常の販売目的で保有する棚卸資産)になります。

また、市場がありさえすればどんな市場でもよいわけではありません。
特定の中古車などは業者間でのオークション市場がありますが、このような市場は短期的な時価の変動を狙うのに適切ではありません。
このような市場で中古車を扱う業者が販売を目的として中古車を仕入れたり、安く仕入れた中古車を同業者に販売することはあっても短期的な時価の変動を狙うのは困難です。

金融投資といい得るには、活発な単一市場の存在が前提です。

金融資産とは何か

金融投資と似た用語に金融資産があります。
金融資産を金融投資と同じ意味で使うこともありますが、「金融商品に関する会計基準」では、次の4つの種類をあげています。

1 現金預金
2 金銭債権
3 有価証券
4 デリバティブ取引により生じる正味の債権

金融投資が保有目的別の区分なのに対して、金融資産は外形上の区分です。
金融商品会計基準では、適用範囲を明確にするため、抽象的な定義をせず、具体的な4つのタイプの資産を金融資産としています。
実際の金融商品会計基準では、外形的な特徴からまず金融資産をあげ、そのうち保有目的から金融投資に該当しないものを除外する規定の仕方をしています。
そしてそれぞれを保有目的に応じて評価するのです。
資産の評価にあたって重要なのは外形ではなく、保有目的です。

事業投資の会計処理

事業投資とは、時価の変動を期待せず、使用や販売によるのれん価値の実現に期待した投資です。
のれん価値の実現を待って成果計算が行われ、損益が把握されます。
のれん価値が実現するまで資産には原価を付し、のれん価値の実現による収益と原価が費用として配分された金額との差引で期間損益を計算します。
商品であれば、原価で評価し、商品の販売による収益が実現したタイミングでその原価が売上原価として配分されます。
固定資産であれば、原価を利用する各期間に費用として配分します。
配分した費用(減価償却費)は、その期における実現収益の獲得に貢献したものとしてその期の収益と対応され、損益が計算されます。

金融資産(株式)でもたとえば子会社株式は事実上の事業投資に該当するため、時価で評価せず、原価で評価します。
金融投資と金融資産が異なるように事業投資と事業用資産も異なります。


まとめ

今日の制度会計では、企業の投資をその目的から金融投資と事業投資に分けます。
時価の変動による利益の獲得を狙った金融投資は時価の変動額が成果であり、時価で評価します。
使用や販売によるのれん価値の実現を期待した事業投資は、のれん価値の実現まで原価で評価し、収益の実現を待って実現収益と原価の配分額としての費用との差引きで損益計算を行います。
このように今日の制度会計では、その成果計算に相応しい資産の測定値を採用しており、このような単一の測定値によらない資産の測定を混合測定といいます。


(注)混合測定に関する企業会計基準委員会の考え方は、「排出量取引の会計処理に関する当面の取扱い2(1)」、「金融商品会計の見直しに関する論点の整理51」をご参照ください。

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