弱ったインコに触れて感じる無力感
先日、セキセイインコの雛「藤(通称「ふうちゃん」)」を迎えたことを報告した。
このとき、ブリーダーのもとには数日後に生まれた雛たちもいた。
まだ羽根が生えそろわない雛たちだったが、そのうち1羽を購入した飼主と交流を持つ機会があった。
鳴かないあの子
その雛は「まっちゃん」と名付けられたらしい。
飼主は小学生で、小さな手でしっかりと握りしめている様子は筆者を複雑な心境にさせた。
まっちゃんは、ほとんど鳴かない。
全く鳴かないわけではないが、時折聞こえる鳴き声はか細く、今にも生命活動を辞めてしまいそうだと感じた。
しかし、飼主は強い。
不安感など一切ないようで、寿司をにぎるようにしっかりと握り続けていた。
個体差
有体物のほとんどに、個体差がある。
個体差とは、同じ種類における個体ごとの差を指すもので、対象により基準は異なる。
筆者にとっての基準は、自分が世話している藤であることは間違いない。
ブリーダーいわく、まっちゃんは元から鳴かない子だったらしい。
体調に不安があるわけではないため、個体差として受け入れていた。
一方の藤は、ブリーダーのもとにいるときは「平均的」だったようだが、筆者が世話をするようになり、「元気が増した」とのこと。
実に対照的な2羽である。
まるでアラスカ
先日、約10日ぶりにまっちゃんと小学生に会った。
相変わらず握られているまっちゃんであったが、前より大きなケージ内をてちてちと歩き回っていた。藤より何倍も早く歩く姿に、さぞ追われているのだと思いを馳せたりもした。
しばらくして、まっちゃんが立ち止まり、大きくのびをした。
握られていたことで、身体が固まっていたのだろうと見ていると、大きく震え始めた。
それはまるで、極寒のアラスカで氷水に落ちてしまったかのようで、明らかに不調を訴えるものであった。
「いつから?」
「病院は?」
見ているこちらが不安になる様相に、小学生に尋ねてしまった。
尋ねながらお節介だったかと内省するも、相手は親御さんから「脚気だ」と言われたと話し、日光に当てるよう指示されたという。
セキセイインコの脚気とは
セキセイインコの脚気とは、主にビタミンB1(チアミン)の不足により引き起こされる病気を指し、下記の症状が表れる。
筋力低下
神経症状
食欲不振
呼吸困難
1.筋力低下
セキセイインコが脚気を発症した場合、足・翼等の筋肉が弱くなるため、歩行・飛行だけでなく、自力で立つことすら困難になる。
2.神経症状
セキセイインコが脚気を発症した場合、震え・痙攣・平衡感覚の喪失により、ふらふらと目が回ったような様子が見られる場合がある。
3.食欲不振
セキセイインコが脚気を発症した場合、傍から見ても元気がなくなり、食欲が落ちてしまう場合がある。
4.呼吸困難
セキセイインコが脚気を発症し、重症化した場合、呼吸が困難となり、全身で大きく呼吸する姿が見られるようになる。
脚気の予防と治療
セキセイインコの脚気を予防・治療するには、ビタミンB1を含むバランスの良い栄養食が大前提となる。
ビタミンB1は、新鮮な野菜・果物、全粒穀物に含まれるほか、獣医師により対症療法を受けるのも効果的である。
素人の診断は危険
筆者が言うまでもないが、素人の判断は非常に危険である。
誤診による不適切な治療リスク、進行中の病気を見逃すことによる死亡の可能性が頭をよぎる。
特に、セキセイインコは本能的に捕食を恐れ、病気・弱さを画す傾向にあり、素人が気づくレベルで不調が表出している時は、既に病気が進行している場合が多い。
ただ、その場でこうした主張をしたところで、筆者が獣医に診せられるわけでもなければ、小学生がそれをできるわけでもない。
「早くよくなるといいね。」
色々な思いが胸中に渦巻く中、絞り出すように言うのが精一杯であった。
「小さい」の連鎖
当該飼主とまっちゃん。
双方が筆者より小さく、無邪気で、儚い存在である。
小さいものが小さいものを愛でる姿と、小さいものが自分より大きなものに翻弄される姿とを同時に目の当たりにしたとき、あなたなら、どちらを優先するだろうか。
彼らがもし、筆者の監督下にいたのなら、十中八九、口うるさく指導しただろう。
何が正解か、決められるのはいつも、自分だけである。
明日は訪れたが
当ページを更新後、ブリーダーと連絡をとった。
最後に会った翌日まで保ったが、午前中の間に息を引き取ったという。
亡骸を前にした小学生が何を思ったか、今年34歳になる筆者にはわからない。
だが、自分以外の生き物が動かなくなることを知るのは、生きている時間の価値を知るための第1歩だとも思う。
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