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些細な約束が冬のささくれのようで

仕事で桜木町駅で降りることがある。横浜といえばの「みなとみらい」がある町、桜木町。多くの観光客を抱えるこの街も、コロナ禍には大人しかったが、賑わいを取り戻したようだ。

唐突だが、私は寄り道が下手くそだ。みなとみらい近辺を訪れるとき、私はいつも仕事を抱え、寄り道をしたいと思いながら電車に乗り込む。こんな胸の内を、他人に話すのすら悪い気がして言えなかった。
そんな私に、このような言葉をかけてくれた人がいる。

「いつも仕事で行ってる横浜に行こうか。」

胸と首の当たりがトクンと鳴った。スマホを握る手が強ばり、脳内はものすごい速さで「正解」を探している。

うれしい。行きたい。

自分の胸の内を明かしたことなどなく、恐らく、偶然だろう。もしかすると、相手の近親者に自分と似た思考傾向を持つ人がいたのかもしれない。そんなことは分かっている。分かっているが、私は、素直に嬉しかった。だからこそ、誤魔化さなくてはならない。だって相手は、仕事を介して知り合った人なのだから。

自分が何と返信をしたのか、そもそも、返信をしたのかどうかさえ記憶にない。けれど、いつか叶えばいいと心から思っている。

筆者、相手の申し出を「約束」と認識してきたが、前述の通り、返信をしたのかどうか、したとして、何と答えたのか分からない。だから、「約束」は違うね。
口先だけの無責任な申し出だったことは重々承知している。そういう人だ。それでも筆者は、誘ってくれたこと、空虚ながらも筆者の日常を慮り、喜ばせようとしてくれたような挙動が嬉しかった。ありがとう。

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