オオカミ村其の二十八
「子オオカミの受難」
胡蝶はポンちゃんに言いました。「北の国で、ナルミの妹に会っただろう。幼い頃に兄弟姉妹は、みんな離れ離れになってしまったんだ」。「いったいどうしてだい、僕にはよくわからないや。ナルミは、ボジの兄弟だと思ってたんだ。じゃ、北の国以外に兄弟姉妹がいるってことかい」。「そうだよ、ボジが生まれた話は覚えているかい。知らなきゃ、そこの『記憶の引き出し』に入っているから、思い出せばいい。これから話すのは、少し古い昔話になる」と言って、胡蝶は手元の棚から大きな巻貝を取り出して、ポンちゃんの丸い耳に当てました。
巻貝から、話し声が聞こえてきました。
「さあ、このオオカミおんながしゃべれないようにしておしまい!」と、紫玉は冷たく言い放ちました。るりは、ただ黙って押さえつけられたからだを動かそうともしません。顔を振り向けて、「どうか、あの子たちの命をお救い下さい」と、紫玉に請いました。「さあね、それは私のすきなようにさせてもらうわ。オオカミおんなの子だから、見逃すわけにないかないよ。早いうちに目をつんどかなきゃぁ、ふっ」。「紫玉さん、お願いです」と、るりは押さえつける紫玉の手下をふりほどいて、何度も言いました。
「もう、うるさいったらありゃしない。そのオオカミおんなの子、何匹いるのかい、あらあら六匹もいるじゃない。かわいらしいこと!」と、紫玉は、近寄りました。「おかあさんの『口封じ』をしないで!おかあさんの代わりにぼくは口がなくなってもいい。たすけて」と、一匹の子オオカミが叫びました。「ナルミ!話しては・・・」と、るりは悲鳴をあげました。からからと紫玉は笑いました。「あらまあ、そうね、オオカミおんなのこどもだから、人の言葉がしゃべれるのね。まあ、かわいいったら、ありゃしない」紫玉は、顔色を変えて言いました。「六匹ともしゃべれるはずよね」。「しゃべってはだめなことなのよ、ナルミっていうかわいい坊ちゃん」。
「さあ、この6匹をあの吊り橋へつれてお行き!」と、紫玉は手下に命じました。「ナルミたちを助けて下さい」「だめよ、できるわけじゃない」紫玉は、残酷に佇みました。「ナルミ、皆を助けてあげて」と、言う間に手下どもは、「吊り橋」へ小さいオオカミの子ども達を抱きかかえていきました。「おかあさま、おかあさま」と呼ぶ子ども達が最後に聞いたのは、口を奪われた母の絶叫でした。
「みんないるかい」と、ナルミは蟲のような声で言いました。「マリ、ハンニャ、ソウ、リン、レイチ、みんないるね」。吊り橋の所に、降り立った手下どもは、六匹の子オオカミを槍でおいたてながら、「紫玉は、ほんとに酷いことをするよ。でもオオカミおんなの子だからな、お前達は。オオカミと人の間に産まれちまったからには、紫玉としちゃ黙っちゃい無いのさ。さっさと落ちたら、その方が早く楽になるでよ」と、ぶるぶる震えて動けなくなっている子オオカミに言いました。「さ、行け」。と、槍を地面に突き立てました。
2022年3月8日改訂 2013年8月1日 Facebook初出
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?